戻ってくる日常と訓練
翌朝、いつものシルフ達に起こされたレイは、ルークと一緒に朝練に参加した。
朝練に来ているのは竜騎士隊では二人だけだったようで、前半は柔軟を中心にしっかりと体を解し、走り込みの後、ルークに相手をしてもらって最初は棒で、そのあとは木剣で相手をしてもらい汗を流した。
「かなり使えるようになって来たな。弓や槍はどうなってる?」
使った木剣や棒を片付けている時、ルークに聞かれた。
「えっと、騎竜に乗ってする突撃は、かなり出来るようになって来てヴィゴに褒めてもらいました。弓はしっかり狙えばもう大丈夫なんだけど、速射になると命中度が一気に下がるんです」
情けなさそうに眉を寄せるレイを見て、ルークも納得するように頷いた。
「槍の突撃で及第点が貰えたのなら充分優秀だよ。弓もここへ来てから始めたんだろう?それなら充分だよ。よしよし、順調に成長してるな」
満足気にそう呟くと、笑って片付けた棒を見た。
「今日は、午前中はマイリーとタドラを見送ったあとは事務所で報告書の続きを書いてもらうぞ。それで、午後からはロベリオとユージンも一緒に、手合わせしてやるよ」
「お願いします!」
目を輝かせるレイに、ルークは苦笑いしている。
実は、今レイが言った槍の突撃というのは、以前閲兵式の時に見たリンザスやヘルツァーが戦っていた、一撃で相手を鞍上から叩き落とす方法だ。訓練はあくまでも型通りに出来るかが第一であり、まだ実際に誰かと手合わせした事がレイは一度もないのだ。
また、この訓練の際には、レイの為に作られた訓練用の鋼の鎧を使って練習している。
実は、簡単で良いから実際の突撃の衝撃を体験させてやって欲しいと、ルークはヴィゴから言われているのだ。
手加減してやった所で、叩きのめされるのが分かっている。しかし逆に言えば、槍の突撃で、実際に彼らと手合わせをやらせても良いとヴィゴが判断したのなら、もうレイの武術に関する訓練は最終段階といって良いだろう。無邪気に喜ぶ彼を見て、苦笑いするルークだった。
「あ、おはようございます!」
朝練を終えて一旦部屋に戻ったレイは、いつもの竜騎士見習いの制服に着替えて、ルークやラスティ達と一緒に食堂へ来ていた。
「あ、おはよう。朝から元気だね」
遠征用の竜騎士隊の制服を着たタドラに声を掛けられて、元気に返事をしたレイはその隣に座った。
レイの持ってきたトレーには、朝から山盛りの料理が取り分けられている。
笑っているタドラの隣には、同じく遠征用の制服姿のマイリーもいて、二人揃って山盛りの料理を食べている真っ最中だった。
「おはよう。留守は頼んだぞ」
「はい、気を付けて行ってきてください!」
「まあ、今年の巡行は、天候には恵まれたな」
『そうだな、まだしばらく良い天気が続くから、其方達も楽だろう』
マイリーの言葉に、レイのお皿の縁に座ったブルーのシルフがそう言いって笑っている。
「ねえ、花祭りの間は?」
「初日以外はやや曇りがちだが、合間には晴れる事もあろう。雨は降らぬから心配はいらん」
「そっか、よかった」
パンをちぎりながら平然とそんな話をしているレイを、全員が黙って見つめていた。
「相変わらず、自分がやってる事に自覚が無さすぎるな」
苦笑いしたマイリーの言葉に、ルークとタドラも何度も小さく頷くのだった。
食事の後、少し休憩したら、マイリーとタドラが巡行に出発だ。
丁度見送りに間に合うように本部に戻ってきたロベリオとユージンも一緒に整列して見送った。
ヴィゴとカウリは、今日はそれぞれ久し振りの自宅に戻っているので見送りには来ていない。
遠くなる竜を見送り、本部へ戻って午前中いっぱいかかって何とか報告書を書き上げる事が出来た。
ルークの報告書はもう出来上がっていて、レイが仕上げをしたら読ませてもらえる事になっているのだ。
「はい、じゃあ交換だな」
報告書の束を受け取ったルークは、笑いながらマイリーの閲覧チェックの入った報告書を渡してくれた。
午前中の残りの時間を全部使って、必死になってその報告書を読んだ。
同じ日程で同じ場所に行っているのに、注目点がかなり違う。
俯瞰的な視線で全体を見ているよく分かる報告書の書き方は、レイには驚きだった。
「やっぱり凄いや……いつになったら、こんな報告書が書けるんだろう」
小さなため息を吐いて机に突っ伏す。
「こら、事務所では背筋を伸ばせって」
丁度、書類を手に戻ってきたロベリオに背中を叩かれて、慌てて顔を上げた。
「お、もう仕上がったのか、読んだら見せてくれよな」
ロベリオとユージンの報告書はもう読ませてもらった。どちらも簡潔に纏まっていてとても読みやすかった、しかし彼らも同じ場所へ同じ日程で行っているのに、見ている部分はかなり違っていて、読み比べができて面白かった。
「まあ、これは俺達の主な仕事のひとつになるからね。頑張って慣れてもらうしかないよ」
笑いながらちょっと遠い目になるロベリオとユージンだった。
「誰かさん達は、報告書を書き上げるのが遅いって、いつも叱られてたよな」
「言うな。古傷を抉るんじゃない」
ルークのからかうような言葉に、二人は揃って悲鳴を上げて顔を覆った。
「報告書、苦手だったの?」
目を瞬くレイに、二人は揃って何度も頷いた。
「そもそも、今でも事務仕事全般苦手だよな」
「まあ、最初の頃に比べたら、それなりには出来る様になったと思ってるけどね」
顔を見合わせてそう言った二人は、揃って肩を竦めた。
「まあ、これも適材適所だよ。マイリーがいつも言ってるだろう? まずは自分が出来ることをすれば良いって。出来ない部分を補う為に仲間がいるんだからさ」
「まあ、新人のうちはそれで良いだろうけどさ。そろそろその言い訳も限界かもなって」
「そうだよね。こうなると、苦手だ何だって言ってられないしね」
二人の言葉に、ルークは驚いたように目を瞬き、仲良く報告書を見ながら話を始めたロベリオとユージンの二人を見た。
「へえ、いつも出来ない、って言って終わってた彼らがあんな事を言うなんてな……へえ、これは驚きだ」
嬉しそうに小さく呟くと、ウンウンと頷いた。
「成る程な。家庭を持つってのも、こういう変化もあるんだって事を考えると、悪くないのかもな。ま、俺には関係無いけどな」
そう呟き、自分を見ているシルフに笑ってキスを贈ったのだった。
「じゃあ適当な所で食事に行くか。それで、午後からは野外の訓練場だぞ」
「はい、お願いします!」
「おう、任せろ叩きのめしてやるからな」
「レイルズ。手加減はするけど死なないでね」
ロベリオとユージンの言葉と、ルークの言った野外の訓練場だと聞き、てっきり手合わせをしてもらうのだとばかり思っていたレイは、午後からの訓練で何をするのか分かり、悲鳴を上げて顔を覆ったのだった。
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