本の話

 2年前の話をしたいと思う。


 事件は、いつの間にか起きていた。

 その日の夕方、母が


「卵と牛乳が切れちゃったから買ってくるわね」


 と言って近所のスーパーに出掛けようとした。

 すると、一番下の妹が


「わたしもいきたい!いっしょにいきたい!」


 と言い始めた。

 こいつは、俺の五才下で、基本的に外遊びが大好きなタイプ。そしてじっとしていられないタイプでもあるので、いつもは買い物についていきたい何て言わないんだよ。


 でもまぁそんな日もあるもんだ。ただの気まぐれだ。

 …そう思っていた時期が俺にもありました。


 帰ってくるのがビックリするくらい遅かった。

 あの距離なら三十分で行って買い物して帰って来れる。

 なのに、何故だか知らんが一時間近くかかっていた。


 正直に言うと、事故にでもあったのかと思ってめちゃくちゃ心配になっていた。

 だが勿論違って、帰って来た母の手には買い物袋と、スーパーからちょっと行ったとこにある書店の袋が握られており、ついていった妹は、何やら満足そうだった。


「何しにいったんさ」


 と訊くと、母は


「この子がね、どうしても本が欲しいて言ったんよ」


 とのことだった。

 繰り返しになるが、こいつはそういう奴じゃない。俺は頭にいくつも疑問符を浮かべて、首をひねった。


 その日の就寝前に妹に訊いたんだよ。


「何でそんなに本欲しくなったん?」


 てな。そしたら


「にいちゃんがほん四十三ももっとたから欲しくなったん」


 だそうで。まあ負けず嫌いだからかなってそん時は納得しかけたんだけどさ、俺、そんなに本持ってないんだよ。漫画が三十冊くらいあるだけなんだ。


「兄ちゃんそんなに本持っとらんよ」


 って言った俺に対して、妹は爆弾をぶっぱなした。


「ほんだなとな、たしたら四十三やったよ」


 皆さんはお気付きになっただろうか‥?俺ははじめ、頭に意味が入ってこなかった。


 本棚と俺のベットの下に落ちてた本を足したら43冊‥‥‥?


 本棚とベットの下に落ちてた本‥‥‥?


 本棚と!!!!!!


 その後、すぐに全力で隠蔽工作(妹の口止めと隠し場所の変更)を行ったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る