芯 奥 Ⅲ
「こら、
いつの間にか来ていた弥右衛門の鋭い
すると、佐助と呼ばれた男は、値踏みをするような
佐助は二十四、五歳だと、弥右衛門がわざわざ教えてくれた。
「・・・・体は童のようでも、
・・・・鞭の先に尖った針があり、
「・・・・姫様の護衛にはうってつけの者でございましょう」
視線をこちらに転じて、弥右衛門は言った。すかさず率直に弥右衛門に
「堺では、私はどう振る舞えばいいのでしょう」
弥右衛門が茶屋衆だとする熊蔵の推論は、ほぼ正しいのではないかとおもえた。なぜなら、このように手際よく大船を手配するなど、やはり茶屋四郎次郎どのの
すると、四郎次郎どのの上には、誰あろう父家康の指示があったはずである。
でも、どうして、そんなことをするのか、させたのか。そこからは、こちらの一方的な推測だけれど、わたしに何かの役割というものを担わせようとしているのではないか。そうおもえてきたからこそ、今後の振る舞い方を率直にたずねたのだ。
驚いた顔を向けて弥右衛門はこちらをじっと
「・・・・それは追々お伝え申し上げるとして、まずは、ゆっくり休養なされよ。もう二昼夜ほどで堺につきましょうほどに・・・・」
弥右衛門の口調は武士のそれに変わっていた。休養せよと言われても、揺れる大船の上では身勝手な言い様としかおもえなかった。
何日の間、船に乗っていたのか
堺の湊で船を降りた。弥右衛門の背負われてしばらく歩き、浜を出ると用意されていた籠に乗せられ、間口の広い商家の前で降ろされた。
船上ではついぞ
懐かしいにおいに包まれたとき、思わずわたしは涙ぐんでいた。
商家の屋号は〈天満屋〉といった。
この地で古くから異国との公益で巨万の富を築きあげた豪商の一人であるらしい。浦戸、博多、唐津などの
「・・・・
「・・・・私は世間というものを知らない未熟者です。そちら様のご迷惑にならなければよろしいのですけれど・・・・」
すばやく応じると、嘉兵衛はおやっと太い眉を上下させた。それからこちらの眸を覗き込んでから破顔哄笑した。私の返答が気に入られたらしい。
「ひゃあ、なんとも腹が
いや、そうではないと答えた。
「・・・・何も知らないからこそ、近くに
口をあんぐりと開けて嘉兵衛はこちらを見た。また眉が動いた。
「・・・・むしろ、阿呆であったおのれに初めて気づかされたというのが、正直なところでしょうか」
ふうむと嘉兵衛は吐息混じりに呟いて、優しげな笑みを浮かべてこちらを見た。
「・・・・では、姫様、まだ陽が落ちるまで、
そう言うと嘉兵衛は返事を待たずに先に歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます