【甘海老をケージで飼う夢を見た】SFPエッセイ046
甘海老をケージで飼う夢を見た。
甘海老はすでに殻を剥かれ頭部も足もない、つまり寿司ネタになった状態だったが生きていた。というよりも、寿司ネタの甘海老の姿をした別な生き物だったと言うべきなのかもしれない。
夢の中ではそんなことは考えない。
寿司ネタ状態の甘海老をケージに入れて世話していた。
ケージ、と夢の中では思っているがそれも詳しく言えば竹ひごでできた虫かごで、起きている時ならケージなんて呼ばないような代物だがやはり夢の中ではそんなことは気にしていない。竹ひごの虫かごなんて実生活ではもう何年も、いや何十年も手にしたことがない。かつて手にしたと言っても、幼少の頃にホタルだかマツムシだかを入れているのを見たことがあるような、ないような、極めてあいまいな記憶だ。でも夢の中で竹ひごの虫かごを見て別に不思議とも思わない。
竹ひごに囲まれて甘海老は宙をふわふわ漂っている。まるで水槽の中で泳ぐようにケージの真ん中あたりを漂ってあっちに行ったりこっちに行ったりしている。なにしろ寿司ネタの状態なので開いた身の部分をゆらゆらと、ちょうどエイか何かが泳いでいるような感じで波打たせて泳いでいる。というか漂っている。
私は甘海老に声をかけてやる。大きくなったねえ、上手に泳げるようになったねえと。夢の中で私は甘海老が宙空を漂うさまを泳いでいると思っていたわけだ。すると甘海老は首をかしげ──といっても何しろ剥き身の寿司ネタなので本当はもう首はないのだが──人懐っこくこっちに寄ってくる。ちょうど人に慣れた小鳥が鳥かごの中でこっちに飛んでくるような具合だ。
甘海老は竹ひごにしがみついて、こっちに腹を見せ──といっても本当のところは腹もハラワタももうないのだが──洒落じゃないけれど甘えたような仕草で甘えたような声を出す。ええ、大事に育てていただいたおかげでやんす。それを聞いて私は声をあげて笑う。その自分の笑い声が男の、それも低い男の笑い声であることにぎょっとして目をさました。
甘海老の姿にも、ケージが虫かごなことにも、甘海老が宙を漂ったり喋ったりしたことにも驚かなかったのに、自分の笑い声に驚いて目を覚ました。しかも、私は実際に男だし、低い声で笑っても何ら不思議はないのに、夢の中の自分に笑い声に驚いて目を覚ました。目を覚ましてからこれは一体どういう教訓だろうとあれこれ考えたが、別に教訓などあるわけがない。教訓を垂れるために夢の中に出てきたわけではあるまい。
竹ひごに囲まれ、何もないさっぱりした虫かごの中で、ゆらりゆらりと身体を波打たせて漂っていた甘海老がやけに幸せそうだったことを思い返してわけもなくにやにやしてしまう。甘海老のやつ、おいしそうだったなあと思うが、別にそれが残酷とも思わない。今日は寿司を食いに行こう。
(「【甘海老をケージで飼う夢を見た】」ordered by 阿藤 智恵-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・夢判断などとは一切関係ありません。
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