【祝!SFP25周年】SFPエッセイ028

 今日は一休みということでSudden Fiction Project(略称SFP)そのものについてつらつらと書きます。「そんな話はもう知っている!」という方も多いと思いますが、それでも世界人口全体から見れば、まだまだ知らない人の方が多いはずなので、今さらな話を繰り返すのをご容赦ください。話がくどくて同じ話を繰り返すのは、古来、年寄りの特徴なのです。

 

 今まであまり話していなかったことですが、Sudden Fiction Projectには前身があります。今日は4年間、連日更新達成という記念すべき日なので、源流の最初の一滴までさかのぼってお話しすることにします。

 

 2004年が全ての始まりでした。今となっては知らない人も多いでしょうが、mixiとFacebookはこの年のほぼ同じ時期にサービスを開始しています。おそらくどちらも春まだ早い頃、2月か3月で、どっちが先だったかはわかりませんが、こういう偶然はあるんですね。いまでこそmixiが各国の政府や国際機関にも採用されるような巨大インフラとして定着していますが、2010年代に限って言えばmixiはただのオンラインゲームのアーケードにすぎず、Facebookが世界を席巻していた時期もあったんです。いやいや。若い人の中には「Facebookって何?」という人も多いかもしれませんね。人類の3人に一人はFacebookアカウントを持っていた時代もあったのです。これはホラでもなんでもなく。

 

 ああそうだ。ホラで思い出した。

 

 開始早々の脱線をお許しください。確かにぼくはフィクションを書きます。フィクションしか書きません。よく知られているようにぼくはこれまでにも「語られた物語、書かれたテキスト、編集された映像は全てフィクションだ」とたびたび主張し、ノンフィクション・ライターやドキュメンタリー映像作家の顰蹙を買っています。ホラ吹きだと言われたらまあ、それは認めてもいいかもしれません。けれど嘘つきなわけではありません。ぼくは嘘をついたことはありません(←ぼくの読者なら、これがどういう意味かはわかってもらえると思いますが)。ところが、どうやら高階は嘘ばっかり書いているからケシカラン、という人が一定数いるようなのです。これは困ったことです。ぼくはフィクションを通じて誰かを騙そうとしているわけではありません。むしろ「フィクションです」と最初に明かした上で、フィクションだからこそできる思考実験を展開し、新しい知見を見出そうとしているのです。

 

 というようなことは、この25年間、何度も繰り返し書いてきたことですが、いまなお世界各国の言葉で連日のように「嘘つきめ」「おれたちはだまされないぞ」と言ったメールやメッセージやリプライやAVMが届くので改めて言っておきます。ぼくはフィクションしか書きません。これまでもそうだったし、これからもそうです。生涯を通じてフィクションしか書かないし、それを明言している以上、「嘘」ではありえません。「このホラ吹きめ!」というのは甘んじて受けますが、「この嘘つきめ!」というのは意味をなさないということを記しておきます。

 

 閑話休題(無駄話は終わりにして)。

 

 2004年5月。ぼくはmixiに招待されて登録しました。17911というのがぼくのmixiでのIDですが、まだ2万人もいなかったということで、創立メンバーとその関係者を除けば、これは比較的早い時期のものだと言っていいでしょう。現在mixiのユーザーが世界全体で公称48億人いることを思えば、IDの行列の頭の20万分の1に属しているわけで、最初期のメンバーと名乗ってもいいでしょう。ただこの年には数件の書き込みをしたあと中断し半年間放置しました。まだどう使ったらよいものかピンと来なかったのです。翌年2005年の1月に試験的に使い始めます。ああ。今からちょうど25年前のことですね。

 

 この年、2005年6月1日に「連日更新」に挑戦を始めます。いま確認すると「公開ネタ帳」と呼んでいたようです。ぼくのトレードマークとなっている「書く筋トレ」というコンセプトはこの時期に設定されました。「筋トレ」と言っているように、これはあくまでトレーニングであって、本番はもっと別な場所にあるというニュアンスが込められています。手段であって、目的ではない。いずれもっと別なものを書くときのために書く能力を鍛えておこう。そういう意味合いです。まさか「書く筋トレ」そのものが目的化して25周年を迎えようとは想像もしていませんでした。

 

 当時書いていたものはほとんどが身辺雑記で、「今日の不便」というタイトルの、デザインによる解決のためのメモランダム、読んだ本の感想、当時関わっていた演劇の公演の案内(あの、今や世界的な語り手として知られる阿部一徳と一緒に、ごく小規模な公演を繰り返していました)などがほとんどで、それもどちらかというと「毎日書く」ということだけを最優先して、思いつくままにざっと書いてアップするということを繰り返していました。

 

 同じ年の12月1日。この日、後に「Sudden Fiction Project」と命名されるプロジェクトが始まります。身辺雑記だけを書くのに飽きてきて、「短い創作を書く」というしばりで連日書こうと考え、せっかくならお題を出してもらおうと思いつき、それを書き込んだのが最初です。その日のうちに「カーテン」「リモコン」「駅のホーム」「鈴木さん」という4つのお題が出て、翌日から書き始めました。第1期と呼ばれる100作品を126日間で書き上げました。これは我ながらすごいと思います。

 

 第2期以降は徐々にペースダウンし、第3期や第4期は数年ずつかかっています。途中全く書かなかった時期があったためです。ここまではショートショートや、あいうえお作文形式の掌編、詩や詞、演劇や漫才の脚本や、落語調のものなど、スタイルにとらわれずバラエティ豊かに書き散らしていました。のちに単独の「少し長い作品(Sukoshinagai Fiction Project)」として発表することになる『ブザーが鳴って』『ナレーターズ』『時わたり』『ぼくのおかあさん』などはこの頃に原型が書かれています。当時は複数の書き手が挑戦し、いくつかの作品をアップしてくれました。

 

 複数の書き手、ということに関しては、第4期の途中で起きた東日本大震災後の話を少しだけ書いておきましょう。多くの創作家が同様な話をされていますが、御多分に洩れずぼくも震災直後に書けなくなる時期がありました。自分が書くどんなものよりも桁外れの現実(それも状況が明らかになるにつれ刻々とそのスケールを増し続ける、想像を絶する現実)の前では、フィクションを書くという行為がまるで無意味に感じられたのです。あるいは目の前の緊急事態と関係なく創作をするようなことが「あってはならないこと」と思えたのかもしれません。

 

 けれど、突破口もSFPでした。もしかしたら「小さな楽しいものがたりを必要としている小さな人たち」がいるかもしれない、と思いつき、Twitter上で「140字のSudden Fiction Project」を開始しました。大人たちがいつもと違う振る舞いをし、テレビ番組も災害報道一色となり、訳のわからないまま緊張を強いられている子ども達に読み聞かせられるような140文字以内のごく短い話を書いてアップするというこのスピンオフの企画には、新たな書き手が続々と現れ短期間におびただしい作品が作られ発表されました。ハッシュタグ「#140SFP」でネット上を探せばまだどこかに残っているかもしれません。当時はそれほど知られていませんでしたが、その後多くの事件や災害の後で、当時の作家陣を中心に同様な試みが自然発生的に行われるようになりました。あれはSFPをやってきて、最も良いできごとの一つだったと思います。

 

 本体のSFPの話に戻ります。

 

 いくつかは外部のブログに転載したり、電子書籍の形で無料出版したりしたものの、基本はmixiで発表してきました。2014年の年末に、ほとんど事故のような形で始まった第5期では、設定を変えFacebook限定でお題を受け付け、Facebook上に「虚構エッセイ」を掲載することにしました。この第5期は、第1期に勝るとも劣らないペースで駆け抜け、反動で第6期の開始までブランクがあき、再びmixiで執筆を再開したものの、悲願の1000篇達成までに、実に21年以上かかりました。これは第7期の後、個人的な事情で執筆が不可能になったたことも原因です。

 

 青息吐息状態で数ヶ月ぶりに1000編目を書き上げた2026年の1月19日、ふと思い立ってその日から再び連日更新を開始します。そのあとのことは皆さんがよくご存知の通り。本日、2030年1月18日、4年連続更新を達成しました。これはもちろんぼくのあふれんばかりの才能と揺るぎない鉄の意志とよく機能する人工ボディの賜物ですが(「人工ボディへの感謝」以外は冗談です、言うまでもなく)、ひとえに「お題」を投げてくださる方の存在あってのことです。ぼくはたった一人の読者を想定して、その人がぼくの与太話を面白がってくれるだろうか、それだけを考えながら書いてきたし、書き続けることができました。

 

 改めまして、お題を投げてくださった皆さん、ありがとうございます。そして、コメントを書き込んで下さった方々にも感謝します。あなたの一言があるだけで非常に大きな励みとなり、推進力となりました(それに引き換え、何のコメントもつかないときの無力感と言ったらないんですが、まあこれはオトナゲないので胸の内にとどめます。こうして書いた時点でとどめてないけどね)。それから家族にも。壮大な道楽を容認してくれてありがとう。

 

 SFP25周年の今年(25周年記念日は12/1なので、まだちょっと先です)、4年間連続更新という自分でも気が遠くなるような記録を樹立できたことを嬉しく思います。いつ頃からかわかりませんが、海外の大学生が面白がっていくつか翻訳してアンソロジーを作ったりしてくれているという話も聞きます。ぼくとしては一人でも多くの読者が作品に触れて、笑ったり泣いたり憤慨したり、時には創作意欲を刺激されたりしてくれればと願っています。多くの感謝を込めて。今日で2461篇目。1万篇達成くらい狙うべきですかね?

 

                          2030年1月18日記

 

(「【祝!SFP25周年】」ordered by 阿藤 智恵-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・SFPなどとは一切関係ありません。

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