【大晦日】SFPエッセイ011
お正月クイズ。隣同士なのに一番遠いものなあに?
元日に出せば、答えは大晦日。大晦日に出せば、答えは元日。小学生が喜びそうなクイズだが、改めてこの問題文を読み返すと何やら奥深いものを感じてしまう。隣同士でほとんど同じと言っていいくらいそっくりなのに、その差が極めて大きなものに感じられ、ほとんど対極に位置しているように対立しているもの、身近にもたくさんある。
最近で言えばあの関西ラテン活力理論がそうだ。関西人特有の明るさを世界に通じるラテン的気質として、グローバルな景気浮揚の起爆剤に用いようという、あの理論だ。最初は大阪学の学会を中心に語られ始めたのがじわじわと影響力を強め、直接的には日本に留学していたASEAN諸国で採用されたことを契機に、環太平洋全域に浸透し、本来なら本家本元であるべきラテン民族の西仏伊(スペイン、フランス、イタリア)でブレイクしたことで国際的理論となった。
ところがそれが混迷の始まりだった。国際的に流行の兆しが見えると、まず京都と神戸がそれぞれに関西ラテン活力の拠点として名乗りを上げた。三都対立の始まりである。やがて大阪だけでもキタ、ミナミが我こそが本家と主張し始め、やがては五畿内歴史学派と呼ばれるグループからヤマシロ派、ヤマト派、カワチ派、イズミ派、セッツ派が登場しそれぞれ関西ラテン活力の元祖であるとぶち上げた。
彼らの対立は熾烈を極め、まさに「倶(とも)に天を戴(いただ)かず」という状態だったが、正直な話、東京から見れば名古屋より向こうはみんなまとめて西日本である。何がどう違うのかさっぱりわからない。けれども本人たちはいたって真剣で「ミナミと一緒にされたらかなわんわ」「京都やら神戸やらがラテンな訳おまへんがな」「ヤマシロて!タケノコの里が何をとち狂っとんねん」という具合で互いにとにかく全く違うものだと鋭く対立するわけだ。
そもそもアンチ東京的なニュアンスがあった大阪学だが、この細分化とともに「反東京」「脱東京」「卒東京」「禁東京」といった用語も生まれ、地域性に加えてそれらの概念が入り乱れ、それが日本だけでなくASEAN諸国の留学先の選定から、TPPの理論的根拠の選択、地中海諸国の原ラテン気質論にまで波及し混迷を極めている。その結果、関西ラテン活力論者の総数に比してこの理論は驚くほど実効力がなく低迷失速状態を続けている。
隣同士なのに、一番遠いものなあに? この問題文をしげしげと眺めるべきは小学生ではなく、大人たちなのではないだろうか?
(「【大晦日】」ordered by 稲葉 良彦-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・反脱卒禁原発などとは一切関係ありません。
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