【なし崩しで再開】SFPエッセイ005
はいそうですよ。なし崩しですよ。なし崩しで再開ですよ。悪かったですね、計画性がなくて。ビジョンもプランもアセスメントもなくて。思えばあたしの人生はみんなそんな具合さ。これといった目標もない。目的もない。風の吹くまま流されるままここまでやってきましたさ。
小さい頃に「めあて」って言葉を先生が口にするのを聞きましたがね、何のことだかさっぱりわかりませんでしたよ。なんだ?「めあて」って。眼帯みたいなものか? タモリがつけてるやつかってね?(タモリがアイパッチをしていたなんて知らない人の方がもう多いのかね)。
この場に踏み止まらなきゃとも思わないし、どこかに向かわなきゃとも思わない。そんなこと、考えたってその通りになんてなりゃしないんだし。風が強けりゃ風下に移動するし、日差しが痛けりゃ影に隠れる。流れに逆らって泳ぐなんざ愚の骨頂。
だからあたしは無理しませんよ。こうやって店は再開しましたけどね。あんたのせいなんですからね。え? 「おれのせいたぁ、どういうことだ」だって? ふざけんじゃないよ。あんたがいなけりゃ店なんざ始めなかったんだ。
つい先だってのことさ。あたしがたまたま探し物をしに久しぶりに店の中をごそごそやっていたら、あんたがぶらっと入ってきてそこに座って、なんかないかって言うから、ちょいと見繕って出してやったんじゃないか。仕入れなんかするもんか。たまたま前っから置いてあった乾物があったからちょいちょいっと戻して、いつのもんだかわからないムラサキつけてつくったのさ。賞味期限だの消費期限だの知ったことかね。そしたら酒を飲みたいだの言うからこれも何年前のだかわからないのをあっためてつけてやったんじゃないか。
気がついたらあんたが「いくらだ」って言うから、ついつい「いくらだ」って言っちまったんだ。店を開いてる気なんかさらさらなかったのに始まってしまったのさ。だからもう勢いだ。面倒くせえけどこうやって毎日店を開けて掃除して、足りなくなったもんを買い足して、ちょこちょこっと出してるのさ。
もっと面倒になったらいつでもやめてやる。だから期待しないで足を運びな。店休んでる間に仕込んだ変なものを食わせてやっからよ。そうそう。あちこちぶらぶらしてる時に、店の連中に飲ませたら面白えだろうなあと思って買った酒とかもあるからよ。いつまで続くかわかんねえが、また遊びに来とくれ。びっくりさせてやっから。初音ミクのコス、コス、なんだ、その、扮装とかしてよ。冗談だよ冗談!
(「【なし崩しで再開】」ordered by Tomoyuki Niijima-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・飲食店・ボーカロイドなどとは一切関係ありません。
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