【久々の再会】SFPエッセイ004
コスプレイヤーとしてはかなり長くやっている方だと思うので、いろいろな形で久々の再会がある。だからそのことを書く。どれくらい長いのか、と聞かれても答えようがないけれど、コスプレイヤーという言葉が生まれるよりも前からだと言えばいいだろうか。Before Costume-playerで、BCというわけだ。クリスマスの日にふさわしい話題でしょう?
女装家という言葉には違和感があるけれど、こちらも割と長い。長いというか、幼少の頃からなので人生のほとんどがそうだ。二人の姉が着せ替え人形代わりにしたのがきっかけだが、それが嫌なら続かなかっただろうから、自分でも気に入っていたのだ。
もうお気づきだろうが、自分は女性のキャラクターでコスプレイヤーをやっている。わかっています。いま、たぶんほとんどの読者がドン引きしただろうということは。なので関心のない人はここまでで退場していただいて結構です。続きを読む人は自己責任で。
最近ネットなどで、メイク前後の劇的な変化を(フリークスを眺めるような視線で)紹介するのを見かけるが、あの劇的な変化を身を以て体験してきたと言えばいいだろうか。わざわざ自己卑下する必要もないが、男としての自分の容姿には取り立てて言うべき程のものはない。どちらかというと冴えないというのが自己診断だ。全体にぷよぷよしていて輪郭が定かでなく、「男らしさ」からは(幸いなことに)程遠く、では女性的かというと全然そんなこともなく、つまりぱっとしない。それは自分でも認める。
容姿のせいか性格のせいかはわからないが、小学生の頃からガキ大将に目をつけられていじめられ、それをクラスの誰も助けてくれないという経験をしてきた。容姿か性格がもっと別な風なら誰か助けてくれたのではないかと思ったが、どうだったろうか。「あんなのはただのジャイアンだ」と心のうちで思ってやり過ごそうとしてきた。ベタだけれど、同じようなことを考えた子どもはたくさんいたのではないだろうか。でも仲裁してくれるしずかちゃんも出来杉君もいなかった。ドラえもんもいるはずもなかった。
とはいえ、とここからはやや語気を強めて言うのだけれど、メイクをすると話は違ってくる。我ながらメイクには自信がある。土台なんて関係ないと言い切ってもいい。本当はこの技術を職業にすれば良かったのではないかとも思うけれど、その道は選ばなかった。だから自分のためだけにこの特殊能力を使っている。自信の根拠は何かって? 「コミケでのカメコ(カメラ小僧)の数」と言えばわかる人にはわかってもらえると思う。ネットにもたくさん写真がアップされているから、その世界に詳しい人はきっとご覧になった方も多いはずだ。ああごめんなさい。これは謙遜しすぎました。その世界に詳しい方なら必ずご覧になっているはずです。ちなみに男としてではなく、男の娘としてでもなく、女性コスプレイヤーと認識されている(自分の性別について何も公式にコメントしたことはない。疑いもなく女性だと思われているということらしい)。
長く続けていると知り合いも増えてくる。自分は日本語がしゃべれないという設定なので(というかしゃべると男だということがばれてしまう)会話こそないが、会えば手を振って笑顔をかわし、健闘をたたえ合う。なにしろお互いにもう相当にいい歳だということがわかっているからだ。若くても40代半ばという年齢。場合によっては50代半ばというツワモノもいるはずだ。けれど、体型を維持し肌の調子を整えてばっちりメイクした我々は、少なくともこの舞台においては年齢を超越し続けている(誤解のないように書いておくと、メイクをしない日常では年齢なりに老けている。たまに「●●さん、肌が綺麗ですね」などと若い女性スタッフから言われることもあるが、それは「年の割には肌が綺麗」という、目に見える現実を描写しているだけだ)。
先日、おどろくべき出会いがあった。お互いにすごく長く続けていると思って、会うたびに挨拶を交わしていたコスプレイヤーが(艦これの金剛の姿で)近寄ってきてこう言ったのだ。
「母からよろしくお伝えくださいって」
わたしがずっと挨拶を交わしていたコスプレイヤーは娘に世代替わりしていたのだ。あまりにもそっくりなので同一人物だと思っていたのに。さらに付け加えてこう言われた。
「小さい頃から憧れていました」
ぎゃふん、である。古い言葉だけど。
帰り支度をしていると巡音ルカが近寄ってきた。スレンダーながら胸元を強調して、まさにイメージ通りのコスプレだった。三次元化した巡音ルカが言った。
「おい●●だろう?」
本名を呼ばれて固まった。
「おれだよ。わかるか」
ジャイアンだった。一気に小学生時代に引き戻された。何をされるのだろう? 正体を暴かれ、有名コスプレイヤーはさえない50がらみの親父だとさらされるのか。自分でも目が泳ぐのがわかった。その様子を見てジャイアンはあわてたように言った。
「違うんだ。そうじゃないんだ。おれはずっと、謝りたかったんだ。本当はおれ、おまえみたいになりたかったんだ」
「え」
思わず男の声を出してしまった。おどろくべき、久々の再会の話である。
(「【久々の再会】」ordered by Tomoyuki Niijima-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・コスプレイヤーなどとは一切関係ありません。
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