宝箱を開けよう

 朝。どういう理屈かは分からないけど、窓の外に朝日が昇っている。


「むー……」


 私は、ゆっくりと目を覚まして起き上がる。

 よろよろとした足取りで歩いて窓を開けようとすると、例の機能が解放されていないとかいうメッセージが響く。

 何処となく冷たい雰囲気のあるそのメッセージに、私は意識が覚醒していくのを感じる。


「あー……そっか。うん、そうだったわ」


 此処は異世界。私はアリス。うん、ちゃんと覚えてる。

 ゆっくりと伸びをして、昨日の私が何をしたか、何をしようとしていたかを思い出していく。

 うん、そう。私は昨日レベル17になった。

 だから、「宝箱」の機能が解放されているはず。

 服を着替えてリビングルームに行くと、私は部屋の隅に置いてある宝箱へと向かっていく。


 そう、宝箱。いかにも「宝箱」といった風の箱の蓋に触れると、ガチャリという重たげな音が響く。

 それは例えるなら、まるで錠前を回したような音。勿論、私はそんな事はしていない。

 個人認証? 深く考えるとドツボにハマりそう。

 だから私は考えるのをやめて、宝箱の蓋を開けようとして。

 蓋に力を入れた瞬間、宝箱の上にウインドウが出るのを見た。


「収納アイテム一覧……?」


 ズラリと並んだアイテムの一覧は、私がゲーム内で集めたものだ。

 たとえば、今の装備に至るまでの武器や防具の数々。

 イベントアイテムに回復アイテム。課金アイテムのアバター……などなど。

 ショップでの買い物用の「コイン」も表示されている。


「んーと……こう、かしら」


 試しに「鉄の剣」を選択すると、ウインドウが消えて宝箱の蓋が開く。

 中に入っているのは……鉄の剣が1本。

 ご丁寧に鞘付きの鉄の剣は、アリスの初期装備でもある。

 次の装備である鋼の剣を手に入れてしまえば、もう使わない……のだけど。


「普段は、これ提げておけば『普通の冒険者』っぽいかしら」


 スペードソードを常時出しているわけにはいかない以上、こういう偽装手段も必要になってくる。

 続けて鉄の鎧を宝箱から取り出し、装着。

 これで見た目は問題ないと思うんだけど……本当に問題ないかどうかは、今からやる事次第。


「……ふー……」


 すう、と息を吸って。収納している装備の事を考える。


「変身!」


 掛け声は悪ノリだけど、そう叫ぶと同時に私の装備が鉄の剣と鎧からスペードソードとダイヤアーマーに切り替わる。

 もう鉄の装備は私の格好の何処にも見えないけど、ステータスを表示してみると、どういう事かがよく分かった。


メイン装備:スペードソード(専用装備)

      ダイヤアーマー(専用装備)

      アリスの服(専用装備)


サブ装備:鉄の剣(収納中)

     鉄の鎧(収納中)



 ……なるほど。こういう風になるのね。

 ゲームにはこんな仕様は無かったはずだけど、こっちの世界に来てからの変化ってことかしら?

 まあ、便利だからどうでもいいかしらね。


「とにかく、これで問題解決! 今日の狩りに行くわよ!」


 宝箱は使えるようになったけど、使いたい機能はまだまだある。

 それを使う為には、どんどんモンスターを倒さなきゃいけない。

 気合を入れると、私は再び森の中に移動してモンスターを探す。


「……見つけた!」


 森の中を移動する、巨大な蛇のモンスター。

 こちらに気付いてシュルシュルと迫る蛇モンスターをスペードソードの一撃で叩き斬り、樹上から飛んできた巨大蜂の針を避けて反撃の一閃。


「グロロロロ!」

「オーク……また出たわね!?」


 斧を振りかざしながら走ってくるオークに剣を向けた瞬間、私の背中に何かが命中して爆発が起きる。


「きゃ……!?」


 体勢を崩しかけながらも、振り下ろされるオークの斧を斬り飛ばして返す刃で斬り伏せる。

 振り返る私の視界に映るのは、バスケットボール程の大きさの大きな火の玉。


「このお!」


 スペードソードを盾にすれば、現れる透明な盾が火の玉を防いでくれる。

 その先にいるのは……木の杖を向けてくる、オークの姿。

 オークのマジシャン? そんなものまでいるなんて!


「……まあ、斬るんだけど」


 続けて放たれた火の玉を躱して一撃。油断さえしなければ、普通のオークより弱いかも。

 そうして斬って、斬って、斬って。

 レベルが20になった頃、私はようやく一息つく。


「ふー……」


 周囲に転がるのは、そのほとんどがオークの死骸。

 昨日よりもバラエティ豊かになってるみたいだけど……昨日と今日合わせて、かなりの数のオークを倒してるはず。

 それでもオークが出てくるっていうのは、倒されてもグレイが言っていたように「何処か」から現れているからなのか……それとも、モンスター辞典にあったようなコミュニティがすでに形成されていて、そこから来ているのか。

 もし後者であるなら……もしかすると、もっと強力なオークが其処には居るのかもしれない。


「もし、そうなら……倒したらレベル上がるかしら」


 今はどうせ見られてないんだし、強いモンスターを倒す分には人助けにもなるわよね。

 そうやって理論武装した私は森の中をオークの拠点を探してウロウロするけど……残念ながらそれらしきものは見つからなかったのだった。


 ……ちぇっ。

 

 

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