モンスターと戦う2

「……ふう」


 アメイヴァ達を倒し終えた私は、そこでようやく一息つく。

 周囲にはアメイヴァのドロドロの粘液が溢れていて、正直上を歩きたくはない。

 けれどまあ、だからってどうしようもない。

 ブーツで粘液の上をゆっくりと歩き、少しでも跳ねないように気をつける。

 そうして粘液地帯を通り抜けると、私はようやくホッとしながら周囲を見回す。


 アメイヴァを倒しても、やっぱりレベルは上がらない。

 ということは、アメイヴァ以外のモンスターを倒さなければいけないという判断に変わりはないということ。


「他のモンスターがいればいいんだけ……どっ!」


 言いながら歩いていた私は、地面の下の振動に気付き跳ぶ。

 一瞬前まで私がいた空間を太い突撃槍みたいな角が貫き、近くの木を吹き飛ばしながら巨大なモグラみたいな何かが顔を出す。

 それが何か、を理解しようとすると頭に奔るノイズ。間違いない、このモグラモドキもモンスター。


「ギシュウウウウ!」


 私がいない事に気付いたか槍角が振り回され、スペードソードを防御の構えに変えた私の前に出現する透明の盾が槍角を弾き……その衝撃でモグラモドキの動きが止まる。

 そして、そこに生まれた隙を私は逃がさない。

 素早くスペードソードを構え直すと、槍角の先端を斬りとばす。


「ギギュ!?」


 ジャンプで、モグラモドキの頭上へ。そのまま脳天にスペードソードを深々と突き刺すと、モグラモドキは幾度か震えた後に地面にどう、と身体を投げ出すように倒れこむ。


―レベルアップ! ソードマンがレベル11になりました!―

―レベルアップ! ソードマンがレベル12になりました!―


 うん、モグラモドキはそれなりに大物だったのかな?

 レベルアップの音を聞きながら、私はスペードソードを抜き軽く払う。


「それにしても……こんなものが良く出るようだったら、森なんかあっという間に無くなりそうよね」


 未だ森が健在ということは、ひょっとするとモグラモドキはレアなモンスターだったのかもしれない。

 ……だとすると、この森に出るモンスターってアメイヴァが基本だったり?

 うーん、場所の選択を間違えたかしら。


 モグラモドキの上で悩んでいると、森の中から緑の肌の筋肉質な男達が現れる。

 半裸で斧や剣で武装した彼等に、私は思わず首を傾げる。

 オウガじゃない。ミニミのちょっと怖い顔とは違う、物凄く凶悪な顔。

 殺意のような視線と、他によく分からない気持ちの悪い視線が混ざっているのが分かる。

 あれは、何。私の知らない魔族?

 考える私の頭に、ノイズが奔る。違う、あれはモンスター!


「グロロロロロ!」

「グロロロ!」


 叫ぶ人型モンスター達がモグラモドキの上にいる私を見据え、一気に駆け上がってくる。


「この……!」


 跳んで上から斬りかかってくる1体を斬り裂くと、落ちてきた身体を蹴飛ばして、登ってきていた1体を下へと叩き落とす。


「グロロロロォ!」

「煩いわよ!」


 背後で斧を振り上げていた1体に振り返りながらの一閃を繰り出し、気付く。

 え……背後?


「そんな!」


 囲まれている。そう気付いたのは直後の事。

 いつの間にか、10体以上の人型モンスター達がモグラモドキの上にいる私を取り囲んでいるのだ。

 まさか……モグラモドキとの戦闘音がこいつ等を引き寄せていたの?

 それとも、さっきの叫び声のどれかが仲間を呼ぶ合図だった?

 

「でも、まあ……やるしかないわよね!」


 スペードソードを振るい、私は一気にモグラモドキを駆け降りる。

 斬って、斬って。人型モンスター達と私は斬り結ぶ。


―レベルアップ! ソードマンがレベル13になりました!―

―レベルアップ! ソードマンがレベル14になりました!―


 斬っていく中で、レベルが上がる音が聞こえていく。

 もう10体なんか、とうに超えて……まだ敵は襲い掛かってくる。

 その全てを、私は斬り裂いて。いつの間にかモグラモドキの周囲には大量の人型モンスター達の死骸が転がっていた。

 

「ステータス、オン」


名前:アリス

職業:ソードマン(レベル17)

ライフ:10

力:普通

素早さ:速い

防御:低め


「17……20くらいは、いってると思ったのに」


 途中からレベルアップの「声」を聞き流していたから分からなかったけど、まあ……5上がったと考えると、そう悪くはないのかもしれない。

 とりあえずこれで、拠点の宝箱は使えるものね。


「……なんだか疲れたわ。拠点に帰ろうかしら」


 リターンホーム、と唱えると私の身体は拠点に移動して、机の上の暖かい紅茶とクッキーが私を出迎えてくれる。

 同時に、スペードソードとダイヤアーマーも何処かへと消えている。

 まあ、この場所で使う事なんてないからいいんだけど。


「……そうだわ、お風呂に入りましょう。そしてゆっくりベッドで寝るの。それがいいわ」


 私が何をせずとも綺麗なお湯を湛えているお風呂に入って、湯上りに紅茶を飲んで寝る。

 そんな完璧なプランをたてながらリビングを通り過ぎようとする私の視線は、ふと本棚へと向けられる。


「そういえばあのモンスター……倒したんだから載ってるわよね」


 モンスター図鑑を捲ると、そこには私の思った通り「オーク」の記述が追加されていた。


「オーク……分類、人型モンスター。小規模から大規模なコミュニティを形成し、自分達以外の全てを餌とする。他種族の雌を浚う事もあり……」


 バタン、と図鑑を閉じる。

 ……もしかしなくても、えっちなモンスターだアレ!

 てことは何!?

 あの殺意に混ざってた変な視線って、そういうこと!?


「……見つけたらデストロイね。決定だわ」


 オークの殲滅を誓いながら、私は予定通りにお風呂に入り……どういうシステムなのかは分からないけど、置いてあったパジャマに着替えるとベッドの中へ。

 けど、そのせいだろうか。その日、私はオークを次から次へとビンタで張り倒していく夢を見たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る