モンスターと戦う

「でも、何処に行けばいいのかしらね」


 私が知っているモンスターの出現場所は、グレイ達と会ったあの森だけ。

 冒険者ギルドに貼ってあった依頼には討伐依頼もたくさんあったから、何処に行ってもモンスターは居そうな気もするけれど……人間が居そうにないところがいいのは間違いないと思う。

 更に言えば、アメイヴァみたいなモンスターは遠慮したいとも思う。

 アレ、倒してもレベル上がらなかったし。ベトベトするし。

 

「モンスター図鑑みたいなのがあればなあ……」


 言いながら「ヘルプ」を本棚に仕舞うと、私はその隣の本の背表紙に気付く。


「……あるし。いや、そういえばモンスター図鑑ってゲームにもあったっけ」


 出会ったモンスターや敵キャラが記録されていくタイプのやつだったけど、これってこの世界に……うん、ヘルプ見る限り対応されてるか。

 試しに取り出して捲ってみると、今まで出会ったモンスターだけが記載されてるのが分かる。


「アメイヴァ、クラーケン、突撃バード……」


 町に辿り着くまでの数日で出会った、空中から突然矢みたいに突っ込んでくる鳥の事も記載されてる……アレ、やっぱり普通の鳥じゃなかったんだ……。 

 とにかく、コレじゃ役に立たないか……何処かで知識を得る必要があるかしらね?

 図書館みたいなのがあればいいんだけど。

 本をパタンと閉じて、私は外に繋がるだろうドアへと手をかける。


―何処へ行きますか?―


「え?」


 突然目の前に表示されたウインドウに、私は思わず一歩引いてしまう。

 これって、そういうモノなの?

 ビックリだけど、便利かもしれない。表示されてるのは……「ジョゴダ町中」「ジョゴダの町入口」「カミッツの森」の3つ。


「ひょっとしなくても、私が行った場所よねコレ」


 たぶん最初のは、私がリターンホームを使った地点だと思う。

 入口っていうのは……まあ、文字通りでしょうね。

 カミッツの森は、あのクラーケンが出たところ。

 つまりコレって、私が行った場所に行ける機能……ってことね。


 となると、私が取るべき行動は2つ。

 確実にモンスターがいるであろうカミッツの森に行く案。

 町中に行って、図書館を探して別のモンスター生息場所を探す案。

 

 正直、どっちでもいいとは思うけど……カミッツの森でグレイ達以外の冒険者に会わななかった事を思い返すと、ひょっとしたらカミッツの森はあんまり人気のない場所なのかもしれない。

 よし、決まりね!

 私がカミッツの森の表示に触れると、私の身体が光に包まれて……次の瞬間には、森の中へと転移していた。


「……此処は……私が最初に居た場所?」


 見覚えがあるから、たぶんそうだと思う。印がついてるわけでもないから確実じゃないけど。

 とりあえず、此処がカミッツの森である事は……間違いない、と思う。

 なら、またいつモンスターが出てくるかも分からないってこと。

 私はグレイから教わった、モンスターについての話を思い返す。


 1つ目、モンスターと会話は出来ない。

 2つ目、モンスターを理解しようとすると頭にノイズが奔る。

 3つ目、モンスターは全ての生物に尋常ではない敵意を抱いている。


 このうち、私にとって重要なのは2つ目よね。

 正直に言って、私の「今まで」の基準だとゴブリンとかはモンスターだった。

 でも、モンスターと魔族は違う。その辺りに区別をつける方法が「理解しようとする時のノイズ」ってことになる。

 グレイ達が居た時は指示に従えばいいから何も考える必要はなかったからノイズなんてものは感じなかったけど……「理解しようとすると」っていうのも不思議よね。

 まるで、理解する事を拒んでいるみたい。


「……貴方達もそう思わない?」


 木の陰からブジュリ、と音をたてて姿を見せたアメイヴァ達に、私はそう問いかける。

 コレはどういう生き物なのか。生まれ方は? オスとメスの区別は?


「くっ……!」


 敵がどうとか弱点がどうとかじゃなくて、アメイヴァという「生き物」について思いを馳せると、突然頭の中に電気が流れたような感覚が私を襲う。

 それ以上考えるなというように思考を塗り潰される感覚……気持ち、悪い。

 ああ、そうか……分かる。これ、自己防衛反応だ。

 たぶん、目の前のモンスターは「理解してはいけないモノ」なのだ。

 絶対に相容れない、そういう類のモノ。

 だからこそ、脳が理解を拒む。


 ズルリ、ベチャリ、ブジュリと。粘着質な音をたてながら襲い掛かってくるアメイヴァ達を、私は見据える。

 輝きと共に、私はダイヤアーマーを纏いスペードソードを握る。

 

 モンスターに遠慮はいらない。

 違う、遠慮してはいけない。

 スペードソードを振るい、目の前の一体の核を斬り裂きながら私は駆ける。

 ドロドロの粘液を避けながら、私は残る3体の位置を確認する。

 伸ばされる身体は溶解液。気持ち悪い音をたてながら私を呑み込もうとするソレを避けて、スペードソードを振るう。

 一撃、二撃。私を呑み込もうとする部分を斬り裂いて、私はジャンプする。

 背後から私を呑み込もうとしていた別のアメイヴァが正面のアメイヴァに衝突し、互いに溶かし合う音が聞こえてくる。

 その間に私はスカートの前を押さえながら着地し、もう1体のアメイヴァへと襲い掛かる。


「ごめんね、もう貴方達……相手にならないわ!」


 具体的に言うと、あのドロドロを受けてべちゃべちゃになる事なんてない。

 乙女の尊厳は護られるのだ。

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