依頼ゲット

「なるほど……」


 そして辿り着いた冒険者ギルド。もっふもふの猫の獣魔人のお姉さんは、渡した紹介状から私に視線を向ける。


「事情は了解しました。それでは、当ギルドにご登録を希望ということでよろしいですか?」

「はい」

「では、こちらの水晶に触れてください。貴方のステータスを読み取りカードを作成します」


 水晶……かあ。何処まで読み取られるのか分からないけど……たぶん触れなきゃどうしようもないんだろなあ。

 気合を込めて「えいっ」と振れると、水晶が点滅し始めて上部に何かを映し出す。


名前:アリス

職業:ソードマン(レベル10)

HP:10

MP:1

攻撃力:1

魔法力:1

防御力:1

耐魔力:1


 ん……? んん? 何これ……。私が見たステータスと色々違うんだけど。


「うわ……これは酷い……」


 猫のお姉さんは信じられないものを見るような目で映し出されたステータスを見ていたけど、うん……私も同じ感想。

 でもなんとなく納得できなくて小声で「ステータス、オン」と唱えてみると……表示されたのは、全然別の内容だった。


名前:アリス

職業:ソードマン(レベル10)

ライフ:10

力:普通

素早さ:速い

防御:低め


 ……うん、そうよね。ということは、この水晶が表示してるステータスって何……?

 考えて、私は1つの予想に至る。

 あ、もしかして……これって、規格違いとかそういうので正常に表示できてないんじゃないの?

 だって、私のステータスと全然項目違うし。うん、でも、これは……。


「え、えーと……そうですね。ランクは最下級のEランクからになります。今後、依頼の達成数に加え、所定の試験や審査をクリアすることでランクアップしますので……えっと、頑張ってくださいね?」

「はい、分かりました」

「昇級すれば指名依頼も来るようになりますし、様々な優遇措置も受けられます。特にBランク以上になりますと、国からも依頼が来るようになりますよ」

「Eは?」

「特に何も。指名依頼がきても、弱者保護の観点から私達の方でお断りする決まりになっております」


 ……うん、絶対昇級しないわよ。その方が面倒ごとから守ってもらえるって事よね。


「では、こちらが貴方のカードになります。貴方個人を識別するものですから、無くさないようにしてくださいね」


 頷いて受け取ると、カードの記載内容を確かめる。

 私の名前とランク、職業だけが記載、か……本当に最低限ね。


「ちなみに、依頼を受けるにはどうしたら?」

「通常依頼であれば、あちらの壁に掲示があります」


 あ、なるほど。言われた方向を見てみると、確かに紙がたくさん貼りつけられた壁がある。


「ありがとうございます」

「いえ……気を落とさないでくださいね」


 そんな慰めのような言葉を受けながら掲示用の壁に向かって歩いていくと、周囲から馬鹿にするような声が聞こえてくる。


「おい、見たか? オール1だってよ。生まれたての赤ん坊だってもう少しあるんじゃないか?」

「HPは10だろ?」

「ハハッ、そんなもん! あのステータスじゃ一撃で削れて終わりだろ!」

「違いねえな!」


 そんな聞こえよがしに言ってくるのは、まだ良い方。


「おーい、人間のお嬢ちゃん! 娼館にでも行った方がいいんじゃねえか?」

「おお、そうだな。特殊な趣味の奴が買うかもしれねえな!」

「それでうっかり死んじまったりしてな!」


 下品……すっごい下品。ムカつくわ……でも、ここは我慢。初日から目立つわけには……。

 そうやって我慢して歩く私の前に、下品な事を言っていた狼の獣魔人が立ち塞がる。見た目はモフモフに見えるけど、ちょっと毛が脂ぎってるのか、それとも手入れしてないのか……絶妙に見た目が悪い。鎧と剣を着けているところを見ると、ソードマンなんだろうなあ……と思う。


「おいおい、何処行こうってんだ」

「依頼受けるの。どいてくれる?」

「ハハハ、依頼だってよ! 人間じゃなくてモンスター相手がお好みだってか!? とんだ変態だぜ!」


 聞こえてくる笑い声。下品極まりないソレに、私の忍耐のロックが連続で外れていく音がしたような気がした。

 ダメダメ、我慢我慢。グレイ達も言ってたじゃない。目立つと人間に担ぎ上げられるって。我慢、我慢、ガマン……。


「そうだ、いっそ全裸で歩いたらどうだ!? 誰か拾ってくれるかもしれねボアッ」


 あ、ダメ。我慢できなかった。

 思わず繰り出した高速の拳が狼の獣魔人に突き刺さり、狼の獣魔人はガクガクと足を震わせながらゲポリと胃の中身を吐き出して倒れこむ。


「貴方がそうしたら? それだけ馬鹿で恥知らずなら、今更何も怖くないでしょ」


 勿論ゲロは避けたから私にはかかっていないけど、周囲で笑ってた連中の中にはかかった奴も居たみたいで、悲鳴が上がる。


「うわっ、汚……臭っ!」

「何コイツいきなり吐いてやがんだ!」

「おい、誰かこいつ摘み出せ!」


 バタバタと逃げ始めたり、ついでに狼の獣魔人に蹴りを入れたりする連中が出る中で、私は悠々と依頼の貼られた壁へと歩いていく。

 ……角度のせいか速度のせいか、私がアレを殴ったのだとは思われなかったらしい。

 うんうん、結果オーライよね。そうして辿り着いた壁には、色々な依頼が貼られているのが分かる。


「墓場の野良アンデッド討伐、ウルフ討伐、ジャイアントスパイダー討伐……」


 うーん、当然のように退治系が多いわ。どうしたものかしら。

 中には「荷物運び」みたいな依頼も混ざっているけど、赤のハンコで「人間不可」と押されていたりする。


「ひどいもんだろ?」


 むー、と唸っていた私にかけられた声。振り向くと、そこには金髪の明らかに人間な男が1人立っている。着けている装備は白いレザーアーマーと、腰に剣。見た目は綺麗だけど……。


「この町じゃ、人間は差別されてる。見てみなよ、パン屋の手伝いの何処に『人間不可』にする理由があるんだかね」

「はあ」


 店主さんが嫌だからとか?

 下の方に貼ってある雑貨屋の手伝いはオウガ不可になってるし、そんな気がする。


「この町じゃ、人間は中々稼げない。どうだい? 僕のパーティに入るっていうのは。ステータスがオール1ってのは聞いてたけど……大丈夫、君にも出来ることがきっとあるさ」

「気持ちは嬉しいんですけど……ごめんなさい」


 雑貨屋の手伝い依頼用紙を剥がして、伸ばされてきた男の手からサッと逃げる。

 言ってる事は親切なんだけど……なんか視線が変っていうか、凄いゾワゾワする。

 たぶん近づいちゃいけないタイプの人だ。


「え、あ、ちょ……あれっ、居ない!? くそっ!」


 人の間を抜けながら離れていくと、後ろの方からそんな声が聞こえてくる。

 やっぱり危ない人だったかあ……ていうか、アレが噂の奴隷商人とかじゃないわよね?

 ともかく、依頼ゲット。さっさとこなしちゃいましょうか!

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