必殺の一撃
走る。斬る。一撃、二撃、三撃。
ズラリと並んだ牙から響く声は、きっと警戒の声。
斬る、斬る、斬る。縦横無尽にスペードソードを閃かせ、触手を斬って私は進む。
分かる。さっきから剣が……スペードソードが、叫んでる。
今こそ放てと。もうゲージは溜まっていると。
だから、私は走る。至近距離まで走り、クラーケンの怖い顔の真正面へと辿り着く。
「ジョーカー……」
スペードソードに、光が宿る。宿った光は一気に強まり、まばゆい輝きへ。
そう、これが私が……アリスが放てる、正真正銘の必殺攻撃。
「スラアアアアアアアアアッシュ!!」
放つ。輝ける一撃がクラーケンを斬り裂き、叩きこまれたエネルギーの輝きがその身を穿つ。
深々とその身を抉る一撃に、クラーケンの目から光が消え……地響きのような音をたてながら触手が力を失い地面を叩き転がっていく。
「……これで終わり、よ」
横薙ぎにスペードソードをはらうと、頭の中に声が響く。
―レベルアップ! ソードマンがレベル2になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル3になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル4になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル5になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル6になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル7になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル8になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル9になりました!―
―レベルアップ! ソードマンがレベル10になりました!―
連続で響く音に思わずフラフラとしてしまう私を、ビグスが慌てたように支え……けれど、私はビグスを巻き込んでそのまま倒れてしまう。
「ぐえっ」
「きゃっ」
ビグスをクッションにしてしまった私はそんなに痛くなかったけど、ビグスはそうではないみたいで「重てぇ、どけよ」なんてことを言ってくる。
「失礼よ、ビグス。私女の子なのに」
「ハッ、クラーケンをブッ倒すのは女の子って言わねえんだよ」
「あら、なら何て言うのかしら」
「あー……ちょっと待て。何かとっておきのを考える」
「ふふ、何それ」
笑う私の下で、ビグスは「それにしても」と声をあげる。
「……生き残ったなあ、俺ら」
「ええ、私達の大勝利よ。レベルもいっぱい上がったわ」
「だろうな。チッ、俺ももっと攻撃力があればなあ」
「大丈夫、ビグスも活躍したじゃない」
「ああ? 何にだよ」
「私のクッションになってくれたわ」
私が冗談めかしてそう言うと、ビグスは無言で転がって私の下から脱出する。その衝撃で私は頭をゴンと地面にぶつけてしまい「いたーい!」と声をあげる。
「ひどいわ!」
「ひどいのはお前だ! ったく、ミニミ! そろそろ動くくらいは出来んだろ! グレイ背負ってくれ!」
「あ、そうよ。グレイは大丈夫なの!?」
起き上がるミニミの横を通って倒れているグレイに駆け寄ると、グレイはヒラヒラと手を振ってみせる。
「ええ……なんとか。獣魔人は頑丈ですからね。このくらいで死にはしません」
「オウガほどじゃねえだろ。無理すんな」
私とビグスの二人がかりでグレイをミニミの背に載せると、私達は歩き出す。
「しかしなあ、クラーケンをブッ倒すとか……きっと大騒ぎになるぜ。どうするよ」
「……アリスは人間だからな。色々と問題が出るかもしれん」
「そうですね……それに、その武具……突然現れた事もそうですが、かなりの業物に思えますし……」
「えっと……何か、あるの?」
なんか聞くのが怖いけど、聞かなきゃダメな気がする。
おそるおそる、といった調子で聞く私にグレイが「何か、といいますか……」と言い難そうに口を開く。
「ヴェイリア魔国では、人間は一番下の存在として見られています。それは種族的な肉体強度などの問題であって、比較基準として必ずしも正しいとは言えないのですが……」
「端的に言うと立場が低いんだ。人間も妙にプライド高いの多いからな、まあ色々とあるんだが……そこに超強い人間のアリスを混ぜ込むとどうなるかって話なわけよ」
「ど、どうなるのかしら」
嫌な予感しかしないと私が軽く身を震わせると、ミニミは大きく溜息をつく。
「恐らくだが、アリスは人間に担ぎ上げられるだろうな。その結果、どんな騒動になるかと思うと頭が痛いな」
「……目立たないようにするわ。私は普通の女の子よ。クラーケンは弱ってたのをミニミがトドメ刺したのよね?」
「いや、そんな半端な嘘はバレるだろう。そうだな……俺達が見つけた時にはもう死んでたというのはどうだ」
「それが良さそうですね」
「チッ、クラーケン討伐したとなりゃ大金持ちなのにな。もったいねえ」
「……そんなのより、私は平穏に生きたいわ」
「だったら、その武器は隠しといたほうがいいぜ。絶対噂になるしな」
そんな会話をかわしながら、私達は森を進んでいく。ジョゴダの町までは……まだ、しばらくかかるらしい。
けれどその間、私は色んな事をグレイ達に教えてもらえたのだった。
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