私の中の力
そうして私はグレイ達と森を歩き、色々な事を聞いた。
この世界の話、お金の話。魔族の話と、人間の話。
「ふーん……人間と戦争してるってわけじゃないのね」
「ハハハ! 人間は敵だとか、今どきジジババ連中でも言わねえぞ! そんなちっこいナリして何歳だよお前!」
肉体年齢なら……何歳かしら。精神年齢も覚えてないから分からないけど。
敬語なんざ使うのはグレイ1人で充分だというビグスの言葉に甘えて、私も普通に話し始めている。
話してみるとビグスも結構良い人で、どっちかというとグレイが一番クールな人っぽい。
そんなクール眼鏡のマジシャンがグレイ、人情派ヤンキーのビグスがシーフ、堅物真面目のミニミがナイトなんだとか。
「しかし……そんな事も知らない……いや、忘れているのか? とにかく、常識の類がほとんど白紙なのは確かなようだ」
「と、するとアレか? まさかステータスの事も知らねえのか」
「す、ステータス?」
「やっぱしな」
頷きながら説明してくれるビグスによると、どうやらこの世界では「正しき研鑽の助けとなるように」という神様の意志と力で、自分の能力だとか適正だとかを見る事が出来るらしい。
「一言こう言えばいい。ステータス、オンってな」
「ステータス……オン」
そう唱えると同時に、私の視界に何かが現れる。
名前:アリス
職業:ソードマン(レベル1)
ライフ:10
力:普通
素早さ:速い
防御:低め
うーん、これ「普通」とか「速い」とかって、ゲームの説明書に載ってたキャラ解説の通りに見えるのよね。おまけにライフってこれ、ゲームのHPである「ハート」が攻撃を受けると半分減るから、1個を2として、最大が5個だから全部で10になってるんじゃ……。
「んー……」
光る矢印のようなものに触れると「装備」や「スキル」といった画面に遷移していく。
装備:スペードソード(専用装備・収納中)
ダイヤアーマー(専用装備・収納中)
アリスの服(専用装備)
スキル:ライフオブハート
ガードオブダイヤ
クローバーボム
ジョーカースラッシュ
2段ジャンプ
リターンホーム
……見た感じだと「アリス」の最終装備っぽいのよね。
「どうだ?」
「え? えーっと……ソードマンだって。レベル1」
「ほー、中々いいじゃねえか。人間にしちゃあ、見所あるぜ」
「そうなの?」
「ああ。なあ、グレイ!」
「そうですね。ですが、もっと集中してください」
ヘイヘイ、と言いながらビグスは周囲の警戒に戻る。
ミニミを先頭に私を守るような陣形を敷いてくれているおかげで、私は自分のステータスについて遠慮なく考察できる。
まず、私の装備。これはどうやら「収納中」であるらしい。ということは、取り出せるんだろう。後で試してみないと。
スキルは……どうやら押すと説明が出てくるっぽい。
ライフオブハート。パッシブスキル。ハートの力は命と魂を守護する。
うん、分かんない。
ガードオブダイヤ。パッシブスキル。ダイヤの力は護りの意志に反応する。
うん、分かんない。
クローバーボム。アクティブスキル。クローバーの力は悪意を砕く。残り3回。
……これは分かる。たぶんゲームのボム、そのまんまだ。回数制限もそのままだけど……ボムの回復はどういう仕組みになってるのかな?
とにかく、大事に使わないといけない。
ジョーカースラッシュ。アクティブスキル。ジョーカーの力は万物を裂く。
……これもゲームのままよね。現実にゲージなんてあるわけないから、その辺は要検証かしら。
2段ジャンプ。アクティブスキル。その意思は遥か高く、空へ。
ゲームのままなのは分かるけど……もうちょっと説明、どうにかならないのかしらね?
リターンホーム。アクティブスキル。備えよ、次なる戦いの為に。
……何かしらね。説明は物騒なんだけど、これってたぶん……。
「気をつけろ! アメイヴァどもだ、取り込まれたら溶けて死ぬぞ!」
ミニミの声が響いた直後、木々の陰から半透明の粘液の塊のようなものが幾つもズルリと出てくる。
「ひっ……」
気持ち悪い。それが私の正直な気持ちだった。ドロドロの気泡の入った粘液の塊としか表現しようのないアメイヴァ達は、ブジュルと気持ち悪い音をたてながら伸びあがる。
「アイスストーム!」
グレイの構えた杖から氷雪の嵐が吹きすさび、アメイヴァ達が一気に凍り付く。
「うおおおおおお!」
凍り付いたアメイヴァ達をミニミの剣が砕き、ビグスのナイフがこぼれ出たボールのようなものをナイフで刺す。
あれって……アメイヴァの弱点みたいなもの?
「凄い……」
「まあ、このくらいでしたら」
少しだけ自慢げに言うグレイへと、私は振り返って……気付く。グレイの上。木の枝から降ってこようとする、1体のアメイヴァ。
警告、ダメ、もう遅い。間に合わない。なんとか、しなきゃ。
「アリ、ス……!? それは一体……!?」
気付けば私は鎧を纏っていた。
銀色の鎧。胸の真ん中に赤いダイヤのついた、ダイヤアーマー。
私の手には、何度も振るった愛剣。
黒のスペードを細く引き伸ばしたような、スペードソード。
「てやああああああ!」
グレイに襲い掛かろうと広がっていたアメイヴァを、片っ端から斬り裂いていく。
一撃、二撃、三撃、四撃。斬って、裂いて、さっき見たのと同じような核を露出させる。
逃げようとしてる。でも、逃がさない。跳んで、何処かへ逃げようとしていた核を斬り裂く。
真っ二つになった核が地面に落ちて、私はそのまま空中で回転して地面へと着地する。
……そして。身体を固定するものがなくなったアメイヴァが、ドロドロの粘液となって着地した私に降り注ぐ。
「ひあああ!? き、気持ち悪いぃ!」
ほんのり生暖かいアメイヴァの粘液が私をベドベトにして、鎧と剣も何処かに消えてしまう。
「うう、しかもなんか臭い……」
「アメイヴァはなんでも食うからなあ……ま、新人冒険者はよくあることだ」
「私は冒険者じゃないもの……」
「今の動きで冒険者やらなきゃ損だと思うぜえ?」
ニヤニヤしながら見てくるビグスをへたり込んだまま見上げ、私は叫ぶ。
「それより、これ何とかしてよお!」
「……どうしましょう」
「確か近くに泉があっただろう。あそこにはモンスターもあまり居なかったはずだ」
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