落ちた世界で、白ウサギ(とその他)に出会った
「お、目が覚めたみたいですよ」
「そうなのか? よく分からんなあ」
「おいお前等、そんなに近づくな。見た感じ子供……それも少女だ」
……声が、聞こえる。男の人の、声。私は、ゆっくりとまぶたを開く。
どうやら何かに寄りかかるようにして倒れている私を覗き込むのは……眼鏡をかけたウサギ男と、なんか怖い顔の男と……もっと怖い鬼みたいな顔の男。
「うひゃっ……!?」
驚き過ぎて一気に意識が覚醒する。
え、何!? 何なの!?
私はとっさにVRゴーグルを外そうとして……けれど、外せない。
私が触れたのは、私の……いや、「アリス」の顔。感じるはずのない、そのリアルな感触と暖かさにゾッとする。
いや、落ち着こう。なんか頬が有り得ないくらいモチモチ肌で気になるけど、今はそういう場合じゃない。
「お、おい。大丈夫かお前」
「混乱しているようですね。聞こえますか、お嬢さん? お名前は言えますか?」
なんか目の前でウサギ男が色々言っているけど、私の耳には入らない。
とりあえず、この身体は「私」じゃなくて「アリス」だ。
そしてさっきのは、異世界召喚系の何かだと思う。そういうゲームのCMを見たから分かる。私は詳しいんだ。
とにかく「そういうの」が現実にあって、「私」……いや、「アリス」が召喚された?
いや、違う。巻き込まれたんだ。
……そこまで考えて、ふと気付く。「私」は……誰なの?
「私は……えっと、私はアリス。違う。違わない? 私は……誰?」
「アリス……ですか? どうやら記憶にも問題があるようですね」
頭の中で状況を整理しようとして……しかし、思い出せない。
VRゲーム、破滅世界のファンタジア。
よく分からない変な……たぶん召喚された男が出てきたエンディング。
私は破滅世界を救……違う、それはゲーム。
私はアリスで、「私」は……?
分からない。何も、分からない。元の世界の事は覚えているのに、「私」についてがスッポリ抜けている。なのに、「アリス」の事が自分の記憶のようにすら感じる。
そして考えていると……混乱していた心が、スッと落ち着いてくるのを感じる。
そうね、今はこんな事をしている場合じゃない。思い出せないものは仕方がない。
私はアリス……今はそれでいいわ。とにかく現状を把握しなくちゃ。
「此処は……何処?」
そこまで呟いて……ようやく私は、自分を覗き込んでいる眼鏡のウサギ男の存在を思い出す。
「シロウサギ……」
白兎が人間の体型をしていたらこんな感じだろうか、という姿をしたその男の人は、まるで魔法使いか何かみたいな服を着ている。
その灰色のローブ……というのだろうか、そんな感じの服を着込んで、木の大きな杖を横に置いている。
「……ようやく意識がこっちに戻ってきたみたいですね。貴方のお名前はアリス。それで間違いありませんか?」
「えっと……はい」
「まず、私達はジョゴダの町の冒険者です。怪しいものではありませんので安心してください」
「ジョ、ジョゴダ?」
私の反応を見た白兎の冒険者は背後のちょっと怖い顔の大きいのと小さいのとの2人組へ振り向くと、頷き合う。
「私は獣魔人のグレイ。あっちの小さいのはゴブリンのビグス。大きいのはオウガのミニミです。この森で倒れている貴方を見つけたのが先程の事ですが……一体何があったのか、覚えていらっしゃいますか?」
ゴブリン? オウガ? 魔人? えっと……それってモンスターっていうか……魔族?
とすると、ここは魔族の国か何かなのかしら。
分からない。でも……話している感じでは、人間と敵対的というわけではなさ……そう?
「えっと……私、此処が何処なのかも分からなくて」
「此処はヴェイリア魔国の東方領、カミッツの森ですね。聞き覚えは?」
「ない、です」
少なくとも、破滅世界のファンタジアに出てきたような名前じゃない。
「そうですか。ちょっと失礼しますね」
そう言うと、兎の人……グレイは私の顔にもふっとした手で触れる。
目を覗き込み、しばらく何かを確認するように鼻をヒクヒクと動かす……ちょっとかわいい。
「……うん、薬の匂いは感じませんね。この辺りの人間の子でないのは確かなようですけど」
「薬もナシに自分を見失ったってか? そんなことあるか?」
「俺には分からん。だが、ないとも言い切れまい」
「え、えーと……薬、って?」
私がそう聞くと、グレイは安心させるようにニコリと微笑んでみせる。
「ちょっと怖い大人の話です。それでアリス。自分が何処の子なのか分かりますか?」
「えっと……」
何と答えたものか。私が「私」でなくアリスだというのなら、出身はあの破滅世界?
言えない。何を言おうと、事態が悪化する予感しかしない。
「……この周辺じゃないのは、確かだと思います」
「でしょうね。さて……どうしたものでしょうか」
「このまま放っておくってのはアリか?」
「それは非道だろう。もっと親身になってやるべきだ」
話を聞く感じだと、あのオウガのミニミさんが一番心情的には私の味方っぽい?
格好も全身鎧を着こんで騎士っぽいし、真摯な人なのかな?
3人でしばらく話していた彼等は、やがて頷き合うとグレイさんが私に向かって手を差し出してくれる。
ちなみにこの間に私は自分の服装を軽く確認し終えている。
武器も、鎧もない。今の私は……たぶん、ただのか弱いアリスだ。
「とりあえずアリス。私達と一緒にジョゴダの町へ行きましょう。これからどうするにせよ、恐らくはそれが一番でしょう」
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