第1話② 魔法✟少女になりたいかな?
いやいや、二次元に行くなんて不可能でッせだんな!
というか、非現実的思考、いや、そんな二次元に行こうなんてマイナス思考はいけませんぜ、いい若い者 が!
実にだって素晴らしいことはたくさんある!
努力次第で! 君もアニメの主人公のような輝かしい青春、淡い恋、手に汗握るサスペンス! 心暖まるヒューマンドラマ!
そんな体験を、現実(リアル)に手に入れることが出来るのだ!
なんて、馬鹿なことを言う奴が時折いるが、それは大嘘・ナンセンス・ナッシングだ!
そういう奴にこそ送ってやりたい言葉がある。
「現実を見よ! さすれば気づくだろう! 現実がくそったれであるという事実に!」
だってそうじゃないか、美しい黒髪、まばゆい笑顔の初恋のクラスメイト(あの子)も高校入った途端、茶髪ビッチに劣化しやがり、そのうえつきあう男をとっかえひっかえる、
同時に何にもとつきあう何股ヤ○マン女に大変死(へんしん)!
いやいや高校生活は恋愛だけじゃない部活だってあるって……!?
なればと青春スポコンアニメっぽく部活に情熱を注いでみよ! 現実では努力すれば必ず報われるなんてことは絶対あり得ないし、よほど才能があるか、子供の頃から長いことやっていたか、出ない限り、ずっと活躍の場を与えられずベンチのまま。練習に明け暮れるうちに高校生活はあっというまに過ぎ去って行く。
しかもアニメのように、心通じ合う仲間や、お互い切磋琢磨して高めあう良きライバルなんて奴には巡り会えない。
現実では自分のことしか考えない自己中なガキどもしか居ない。
他にも、もしかしたら神様居るのかも? なんて思って近所の神社行ってみたが神どころか美人の巫女さんすらいないし、当然、妖怪も天使も宗教違うけどシスターさんとも出くわさない。
その他、生徒会に入ってみたりもしたが(さすがに生徒会長には立候補しなかったが)、生徒会なんてただ雑用係でアニメのように学園を取り仕切る権力なんてないし!
異世界に通じる扉がないかななんて思いながら、街の裏路地を無味に歩いてみても、ゴミと野良猫にしか遭遇しないし、後、空を飛んでみようとしたが怖かったのでやめたり
……エトセトラ……エトセトラ……
とにかく色々やってみようとはしたが、どれもこれも全く無駄だった。
結論、このクソッタレな現実には退屈な日常しか存在しない!
それが俺の人生十六年で出した答えだ。
人生は無意味だ。人生に価値などない。
俺には分かる。それがこの世の揺るがざる理なのだ。
今後の人生…… 将来なんてものは、考えるだけでぞっとする。
来年になればしたくもない勉強をまた無理やししなきゃいけなくなるし、そうやって大学へ進学を果たしても、毎日聴きたくもないおっさんやおばさんの話を聞くため、会いたくもない奴と顔を合わせるためにわざわざ遠くまで電車に乗って通学する。
それが終わったかと思えば、人生の墓場、就職が待っている。
俺は知っている。世の中に楽しい仕事なんてものは存在しない。
俺の大好きなアニメの業界ですら、自分の生活を犠牲にして、文字通り身を粉にして働かなきゃいけない。それで、もらえる額はせいぜい人一人暮らしてゆけるほどのもの。下手をすりゃそれすら危ういという。
いや、安定している大企業に就職すれば。そんな考えもあるだろうが、安定のため生活のために、興味も無い、したくもない仕事を、毎日夜遅くまでするのか?
それを定年まで。白髪の生えるジジイになるまでやれってか?
冗談にしてもたちが悪すぎる。
いやいや、そうじゃないだろう。
愛する人と結ばれ結婚して、子供が出来て幸せに暮らす。そのために働くんですよ人は!
そのために言い大学へ行って。だから君たちは勉強する必要がある……
ジョーダンじゃねえ!
愛する人? 出会える保証なんて何処にある?
仮に出会えたところで、結婚まで言ったところで、現実である以上か必ず劣化する!
どんな美人でも、現実である以上、歳は必ず取るんだ。きっといずれは見にくいババアになるんだよ畜生!
かわいい子供!? もっとジョーダンじゃねえよ!
手間暇掛けて大事に育てても、言うことは聴かねえし、金はかかるし、おまけにそいつがまともな人間になるとは限らねえ。
学校にも行かず引きこもってアニメ見てる奴とかな。
って俺のことか。まあおれは良いんだよ…… 俺はな。
ともかくだ! 現実はクソだ!
これから先の将来も、絶対に良いことなんて何一つない。それは間違いない!
ただ一つ言えることはそう、このくそったれな現実につきあう価値などない!
アニメの世界こそが素晴らしい理想郷で、本来あるべき、心のふるさと! そうに違いない!
顔を洗い終えて、俺はリビングダイニングへと向かった。
物語の序盤の、こういう何の変哲もない家庭の日常のシーンは、これから起きる何か予期させるものなんだが、あいにく現実では、何一つドラマチックな事は起きやしない。
もう何回、何十回、何百回とこのシーンを無駄に繰り返している。
さてと。視界に入るのは机の上に朝食として用意され、放置されたままの目玉焼きだ。
「たかしくんへ、今日は夕方までに帰ってきます。お昼は冷蔵庫の中に野菜炒めの残りがあるのでそれを食べておいて下さい」なんて、いちいちしなくていい置き手紙を無視して、
俺はそれをレンジにつづいて、隣のトースターへ食パンを一枚、放り込んだ。
時間がたった目玉焼きほどマズイものはない。 今日みたいに昼間で寝てた日はありがた迷惑だったりする。
俺は遅めの朝食(実際は昼食)を味わうこともせず、コーヒーで流し込んで手早く済ませた。
「飯も食ったことだし!」
と、俺はさっさと食器を流し台に放り込んで足早にリビングを退散。
そして二階の自分の部屋へやや駆け足で上がった。
ちょっと急いでいる理由はもちろん、彼女とデートの約束があるとか友達とゲーセン行くなどという腐れ外道で下等生物の性癖のような悪趣味予定の為ではない。
つうか、そんな相手一人足りとも存在しないし!
そう、俺が今からなさねばならないこと、それはもちろん!
アニメだ!
部屋の戸の前でグーをして一人叫ぶ俺。
何気ない日常は俺にとって地獄でしかない、だから一人頭の中のナレーションに語らせていかにもアニメの主人公的なシーンを演じて、気分だけでもアニメな世界を体感しようと、ささやかなる現実への抵抗を試みているのである。
俺にとってアニメは生命の源。このクソつまらない日常の現実から解き放たれて感動と興奮とロマンの世界に引き込み、そして俺の傷ついた心を癒してくれる悠久の時。
俺の人生で最も有意義で最も愛すべき時間である。
――そんなわけで、今朝方睡魔に負けて途中でやめてしまったDVDの続きを見ます。
なので絶対に邪魔しないで下さい。
ちなみに、俺が最も大嫌いなことは、感動的なシーンの途中で邪魔をされること。
それだけで十二分に殺意を覚えるから要注意だ!
「さあ、それでは……」
と、俺は部屋のベッドからちょうどいい位置に置かれた液晶テレビと、その下にあるDVDプレーヤにDVDをセットして、枕を程良い位置に整えて、テレビ画面真正面に視点が合うように寝転がってから、リモコンのスイッチを押した。
軽快なリズムと共に流れるオープニング。それだけでこの素晴らしく汚れのない二次元世界経と引き込み視聴者を魅了する。もはや現実のことなどどうでもよい。この世の汚れをすべて忘れ、美しいものだけでかたどられた物語の世界へと誘うのだ。
「助けて!」
変な声が聞こえた。アニメのセリフではない。まだオープニングだ。
俺はベランダへ出た。何処の糞ガキだ! 鬼ごっこなら公園でやれ!
だが、あたりを見渡しても何もなかった。
うるせえな。そう思いながら、俺は部屋へ戻りベッドへ横たわる。
遠くに聞こえるチャイムの音。それも減点対象。
俺はややイラつきながら、ベッドの引き出しから延長コードつきのイヤフォンを取り出して、それをテレビに接続した。
イヤフォンにしたのはもちろん遮音効果を期待してということもあるが、音源が近くの方が臨場感があるからということも大きい。
一番良い方法はテレビのスピーカーをそのままに、それに加え、PC用のスピーカを耳元のおき、さらにイヤフォンを軽く装着するというトリプル音源モード。
こうしただけで安価に手頃に映画館並みの臨場感を味わうことが可能なのだ。
是非一度お試しあれ!
あとそれから、よくアニメが始まるときに「部屋を明るくしてテレビから離れて見ましょう」というテロップが流れるが、アニメの世界に浸りたくば、夜あえて暗くなってから、電気を付けず、部屋を真っ暗にしたままでみる方が良い。そのほうが集中できるからな。
まあ俺の場合アニメのための人生だから、目が悪くなろうが別にかまわない。
(※よい子はまねしないでね)
さあてと、ご託、脳内独り言解説はここまでとして、DVDをっと。
ああ、さっき途切れてしまったからもう一度最初からだな……
と、改めて初めから再生。素晴らしいオープニング、そして始まるアニメのワンシーンが始まる。
――と思った矢先!
「助けて!誰か!」
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