GIRLS’TALK(番外会話劇)

【赤坂が去った後の教室内】


「……と、言うわけ。これで私の話は終わりよ」


「……なるほどね。枢木さんはクルルギ・グループのご令嬢だったと……そしてササキさんにお婆さんの遺影を撮ってもらったと」


「そうよ。……驚いたかしら?」


「うーん……何というか、いろんなもの抱えて生きてるのって私だけじゃなかったんだなって実感したよ」


「私とあなたはそれなりに特殊だと思うけれどね」


「でも、枢木さんが只者ではないことは何となく分かってたよ? 苗字珍しいし、枢木財閥の関係者なんじゃないかっていう噂は立ってた」


「そう……」


「あーでもほら、枢木さんが何も言わなかったから、真相は闇のなか~みたいな感じだったから、結局あやふや、みたいな」


「それならまあ、誰とも話さないことに、一定効果はあったのね」


「だね。大変だったでしょ?」


「慣れてしまえば簡単よ。ただ声を出さなければいいだけだもの。大槻さんの方が大変だったんじゃないかしら? 友達に事件のことを勘づかれないように立ち回るなんて」


「んーそれも慣れだね。こっちから積極的に話題を提供して会話がそっちに行かないように誘導するの」


「それは、何というか、高度ね」


「そうかな。まあ、隠すことのレベルが違うと思うよ、私達。出自を隠すとか、下手すれば最初の自己紹介で詰みじゃん?」


「そうかもね。話し始めたら、赤坂君にさえ見破られてしまったわけだし」


「あ、そうそう。これ聞きたかったんだ。むしろこれ本題なんだけど」


「何かしら?」


「枢木さんと赤坂君って付き合ってるの?」


「……冗談としては面白くないわよ、大槻さん」


「いや、冗談じゃないよ? 危機を共にした男女は結ばれやすいって言うし。誘われてホイホイ喫茶店来ちゃうし、楽しそうに談笑してるし……傍から見たらそういう風に見えるよ?」


「……付き合ってないわ。そういう関係じゃない」


「あ、そうなんだ。じゃあ、枢木さんはどう思ってるの?」


「どう……って?」


「いや、そりゃー、赤坂君に恋愛感情があるかどうかってことよ!!」


「大槻さん、目を輝かせないで……そんなことはないわ……」


「いやいや~白状しちゃいなよ~楽になるよ~? 絶対に誰にも言わないから~」


「楽しそうね……でも本当にそういう感情はないわ。もちろん、祖母の件ではかなりお世話になったし、憎からず思ってはいるけど……」


「けど?」


「赤坂君は、無理よ。……彼、優しすぎるのよ」


「……優しすぎる?」


「なんというか……なんでも受け入れてしまいそうな、誰が相手でも、なんでもしてくれてしまいそうな危うさみたいなものがあるのよ」


「ああ……さっきの土下座とか?」


「そうね。あれ、はっきり言って異常よ。私が言えた義理じゃないんだけど」


「そうだね。びっくりした。おふざけじゃない、ほんとの土下座なんて、絶対普通の高校生はしないよね。妙に形綺麗だったし」


「ええ、あれは相当の腕前よ……」


「え、枢木さん、土下座に対しての造詣深かったりするの?」


「芸道的な坐礼も少しは嗜んではいるけれど、彼の土下座はフリースタイルとしてハイレベルだったわ。軽量級ならいいところまで行くんじゃないかしら」


「土下座にスタイルとか階級があるなんて知らなかったよ……。でも、赤坂君が優しすぎるから無理っていうのは? 優しいのってポイント高いんじゃないの?」


「……赤坂君は、多分、頼ったらなんでもしてくれる、だからこそ、頼れないのよ」


「……」


「さっき話したけれど、私の家、かなりいびつなの。狂ってる、と言ってもいいわ。彼と付き合ったりしたら、もっと彼に重荷を背負わせてしまう。そして多分彼は、何とかしようとしてしまう。きっと壊れてしまうまで」


「……ああ、想像、できちゃうな」


「だから、私が彼と恋仲になるようなことは、絶対にないわ」


「そっか……じゃあ、しょうがないね」


「あと、単純に顔が好みじゃないの」


「……あれ、今の一言必要だった? いや、むしろ最初にそれ言えば普通に致命傷だったような……」


「そういうあなたはどうなの? 大槻さん?」


「あ、こむぎでいいよ?」


「……(ぱぁ)」


「無表情のままなのに喜んでるのわかる!! めちゃくちゃ器用だね!!」


「こほん、じゃあ、こ、こむぎさんは赤坂君のこと、どう思ってるのかしら?」


「うーん……便利なクラスメイト?」


「……哀れね、赤坂君」


「いや、でも今日で大分印象変わったかな。赤坂君のこと、普通のお人よしだと思ってたけど、彼、半端じゃないお人よしなんだね」


「そうね。半端じゃないわ」


「でもさ、結局私、赤坂君のその優しさに甘えてしまった。赤坂君があんなに必死に『助けさせてくれ』なんていってくれなかったら、もう全部なかったことにしようと思ってた。あんなに必死になってくれたから、私も意地はらずに済んだんだよね」


「……なるほどね」


「だからさ、私、ある意味赤坂君の優しさに付け込んじゃったんだよね。本当に助けて欲しいんだったら、声を上げるべきだった。ちゃんと助けてって言うべきだったんじゃないかなって。だから、なんか、モヤモヤするんだ」


「……そう」


「だからさ。赤坂君に私じゃ、役不足かなって」


「あら、それは、正式な用法? それとも誤用?」


「どうだろうね。でもさ、人間って結構変わるじゃん? どうなるかなんて、わかんないよ」


「そうね。いい方に変わっていけばいいわね」


「うん。それじゃ、そろそろ行こうか、枢木さん」


「ええ……。あの、こむぎさん。もし嫌じゃなかったら……」


「なに?」


「私も、雪枝って呼んで、くれたら……あの、なんでもないわ……」


「……」


「……何か言って欲しいわ」


「なにそれ、かわいい!!!」


「きゃっ、何するの!」


「雪枝ちゃんがかわいいのが悪い!! これはお仕置きです!!」



 そこからしばらくの間、大槻は枢木の身体を隅々まで撫でまわしたとか。


 これは、二人のガールズトーク。決して赤坂には伝わらない、秘密の会話。

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