005「努力家」
「え、あすみんのことが知りたいの?」
昼休み、弁当を食べていたクラスメイト、
「そうだ。クラス中と分け隔てなく交流できるお前なら知ってるんじゃないかと思ってな」
「……赤坂君、あすみんのこと好きなの?」
「いや、そういうわけではないけど……」
「赤坂君知らないかもしれないから言うけど、あすみん、可愛いけど男の子だよ?」
「いや、知ってる」
ハッと
「それでもいいっていうの? 二人の愛は性別を超えるってこと?! きっと二人の間には様々な壁が立ちはだかることになるよ? 乗り越えていく覚悟はあるの?」
まくしたてる
「いや、聞けよ! 別にそう言うつもりで言ったわけじゃ……」
「待って!!」
みなまでいうな、とでも言いたげな、悟った表情に変わっている。四コマ漫画みたいなテンションの変わりようだ。
「……ごめんね。私が
「だから聞けって……」
「いいよ! 私もできる限り応援するよ! どんな恋でもドンとこいだよ!!」
ドンっと胸を叩くその姿は可愛らしかったが、
「ちがう、大槻。どんとこい、じゃない。Don’t 恋だ」
「うわ。つまんな」
これが世に言うヒートショックだろうか。
「あすみんのこと、なんで知りたいの?」
「……ああ、ササキに依頼が来てな。写真を撮って欲しいんだと」
「あー。あすみん、有名人だもんね。SNSとかにアップするのかな?」
「そんなところだ。一応、他言無用な」
「了解了解……。でもさ、その依頼なら写真撮って終わりじゃない? あの子の中身まで踏み込む必要ないような気がするけど……」
ただ……先日の「あれ」が気になる。
雨でぬれた地面に散らばった、中身が入ったまま捨てられた菓子。
人が気を利かせて渡したものを、帰り道にそのまま捨てていくようなこと、普通はしないはずだ。
「まあ、そうなんだけど……ちょっと気になることがあってさ……蓮見ってどんな奴なんだ?」
菓子の一件は伏せ、ごまかしながらたずねる。
「
「分かってるよ……でも、人となりくらいは知っといても問題ないだろ?」
「……まあそれもそうか。そうだなー、あすみんを一言でいうなら……『努力家』、かな」
「『努力家』?」
うん。と頷く
「あすみん、女の子のグループにいる事が多いのね。男の子で、女の子グループに混ざるのって結構難しいっていうのは何となく分かる?」
「まあ、何となくはな」
「たとえ、女の子の恰好をしていたとしても、身体は男の子なわけだからさ、女子的には警戒しちゃうのね。それでもグループに入って仲良くやれてるのは、あすみんが『かわいく』なろうと、普通の女の子以上に頑張っているからだよ」
そういえば
「オシャレの勉強とかダイエットとか、誰よりも一生懸命にやってる。その努力をみんな感じているから、あの子のことを受け入れているんだよ。あすみんの『かわいい』は生まれつきもってる『かわいい』じゃなくて、自分で必死に作り上げている『かわいい』なの。それであれだけのフォロワー勝ち取ってるわけだからさ。なんていうか……尊敬の的だよね。あすみんに流行とかコーディネートとか教わりに行く子も結構多いよ」
「だから『努力家』、か」
「そ。すごい子なんだよ。あすみんは!」
なぜかえっへんと胸を張る
しかし、
ただ、その評価を聞くと、やはりあの捨てられた菓子を思い出してしまう。そんな「努力家」の
「そうか……」
「多分、私とか、
そう言うと、
「あ、でも……」
机の下に身体を入れたまま、
「たまに、頑張りすぎじゃないかなって思うことはあるよ。無理してる……っていえばいいのかな」
「無理してる……?」
僕が聞き返すと同時に、
「ううん。何でもない!! ごめん、箸、洗ってくるね」
「……そうか。ありがとう、邪魔したな」
「いいよいいよ! あ、ブロッコリー食べる?」
「いらない! 地面に落ちたもの僕で処理しようとするな!」
「ちぇー」
口をとがらせて、
「……女子の弁当って小さいよな。よくこれで生きていけるもんだ」
残された僕は、
その時、ふと疑問が浮かんだ。
男でもあり、女でもある
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