第7話
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ツツ船長は他の難民達に交じって、人口冬眠装置中で眠っていた。
「ジェイミー・ツツ。四十二歳、男性……今のところ異常無し」
グェンがクーザの船長の人工冬眠装置に、タブレットを翳し、船長が健康体なのを確かめると、クレイスは大きな溜息をつきながら、船長の顔を見た。人工冬眠中のジェイミー・ツツ船長の顔は、メッセージで見た時と変わりは無い。ただ深い眠りに就いていて、動かないだけだ。軽い感応力で意識を調べても、船長が目を覚ます予兆は無い。この状態でいきなりツツ船長を人工冬眠から起こしたら、クレイス達を見ているセラフィーに怪しまれるだろう。緊急事態でない限り、見ず知らずの人間が人工冬眠装置をいじるのは避けるべき事なのだから。こうなったら些細な異常でも船長の身体から見つけ出して、人工冬解除の理由にしてしまうしかないだろう。クレイスはグェンが持つタブレットの画面を覗き、異常を探し始めた。グェンもクレイスと同じ事を考えていたらしい。クレイスと目が合うと静かに頷き、タブレットの画面に映し出されるツツ船長のデータを、他の難民の倍の時間を掛けて調べる。そして上手くツツ船長の身体の異常を見つけ出したのだった。
「あれ、これ何かしら?」
グェンはタブレットの画面を指でなぞりながら、クレイスに話し掛ける。
「もしかしたらこれ、腫瘍なのかも知れないわね」
グェンは、ツツ船長の身体をスキャンした画像を指差しながら、クレイスとセティに説明する。
「ほら、大腸に何かあるでしょう?」
グェンはスキャン画像の腹部のあたりを示しながら、少し大きな声でツツ船長のスキャン画像からどう言う事が考えられるのかを話し続けた。セラフィーが聞いているのを意識しながら。確かに大腸を拡大したスキャン画像には、とても小さな腫瘍らしきものが映し出されている。おそらくツツ船長が人工冬眠にはいる前に、出来ていたものだろう。
「この人には、起きてもう少し詳しい検査を受けて貰った方がよさそうね。悪性だったとしても、今なら早く治せるでしょうから。いいですよね」
グェンはツツ船長の検査の必要性を、クレイスにしつこく訴える。もっとも本当に訴えているのは、何処かでクレイス達を見ているコンピューターのセラフィーになのだが。
「このまま暫く放っておいても、大丈夫でしょう。でもこの方は船長さんなのですから、きちんと調べておくにこしたことはないでしょう」
グェンの力説をクレイスが黙って頷きながら聞いていると、ついにセラフィーの声が聞こえて来た。
「そこまで言われるのなら、ツツ船長の人工冬眠を解除してもよろしいです。解除方法は、タブレット操作画面の赤いボタンを押せば画面に表示されます。みなさんの責任でお願いしますよ」
セラフィーがツツ船長の人工冬眠解除を認めたのを聞き、クレイスは飛び上がって喜びたくなるのを押さえながら、セラフィーの居場所を探す。
「ありがとう、セラフィー」
天井にセラフィーのカメラを見付けたクレイスは、カメラに向かって礼を言うとグェンと共にすぐに次の行動を起こす。グェンがもう一度タブレットを人工冬眠装置に翳して船長の健康状態をもう一度確認すると、操作画面の赤いボタンを押し、画面に現れた表示通りにタブレットを操作する。
「さぁ、これで一時間ぐらいしたら、ツツ船長を人工冬眠装置から出せるでしょう。それまでに残りの人達の健康調査を済ませましょう」
タブレットの操作が終るとタブレットの画面に人工冬眠解除の開始が表示され、人工冬眠装置の蓋にあるランプが点滅し、ツツ船長の人工冬眠がゆっくりと解除されているのを知らせていた。人工冬眠中の人が完全に目覚めるには、少なくとも一時間はかかり、クレイス達は残りの人工冬眠装置で眠る人達の健康地用さを続けた。一階の部屋の人工冬眠装置を見回り終わると、二階に入って一階に比べたらはるかに数が少ない人工冬眠装置を見回ると、クレイス達は難民達の健康調査を全て完了させた。
「さぁ、後はツツ船長かが目覚めるのを待つだけね。一階に行きましょう」
二階で眠っている難民達の健康調査を済ませるとクレイスは、グェンとセティと共に一階のツツ船長の人工冬眠装置の前に向かった。健康調査の結果、三人が高齢などの理由で長期の人工冬眠に耐えられなかった以外に難民達にはこれと言ったトラブルは無い。まずは一安心出来そうだ。もっともその後には、ツツ船長が目覚めたら難民船クーザの置かれている状態を説明して、理解してもらう難仕事が待っているのだが。
「もうツツ船長は目覚めたかしら?」
一階に向かう階段を降りながらクレイスは、グェンに小声で尋ねる。
「そろそろ目を開け始めているころだと思うわ。早くいってみましょう」
一階に着くとすぐ、クレイス達はツツ船長の人工冬眠装置の前に駆け寄り、ツツ船長の様子を見た。人工冬眠解除中のツツ船長は、まだ眠っているようだった。人工冬眠装置の中は、さっきと変わりがないように見える。しかしツツ船長はゆっくりと意識を取り戻す途中にあるのも見て取れる。しっかりと閉じられていた瞼が、少しばかり動いている。クレイスはツツ船長に自分の意識を向け、軽い感応力を使ってツツ船長の意識を探り、船長のぼんやりとした意識を感じた。
「大丈夫、ツツ船長は順調に意識を取り戻しているみたい。もう少ししたら目覚めるでしょう」
クレイスは軽い感応力で感じたツツ船長の様子を、グェンとセティに伝える。ところがその時、クレイスの感応力はツツ船長の意識とは別の意識を捉えた。まさか、誰かがいる! 明らかに、起きて活動している人間の意識が感じられる。クレイスはその意識に向かい、本格的な感応力を使う。が、相手の意識に触れた瞬間、頭痛がクレイスを襲い慌てて感応力を解いた。間違いなく、人間がいる。クレイスを襲った頭痛がその証拠だ。相手に感応力を使った途端に頭痛が襲ったのがその証拠だ。感応力を持つ人間は、感応力を人間に使うと頭痛がするように、心理的なかせをはめられている。人間に感応力を使って他人のプライバシーを覗いたり、秘密を暴いたりしない為の措置だ。だから人間に感応力を使わねばならない時は、軽く意識に触れるだけにしてあるのだ。
「どうしたんだい?」
クレイスの異変に気付いたセティがクレイスに近寄り、顔を覗き込んできた。
「大丈夫、ちょっと人間の意識に感応力を使ったみたい。此処に誰かいるのよ」
「えっ!」
大声を出しそうになったセティを、クレイスは中指を自分の口に当てる仕草をして、静かにさせた。
「今は気付かない振りをしながら、注意をして頂戴。ツツ船長が無事目を覚ますのを見守るのが先よ」
自分の言葉にセティが頷くのを見ると、クレイスはツツ船長の人工冬眠装置に目やった。人工冬眠装置の中の船長は、だいぶ人工冬眠から目覚めてきたようだ。ゆっくりと目を開け、起き上がろうとしているのか、手足をさかんに動かし始めた。
「もう人工冬眠装置から出てもいいでしょう。セティ、手伝って」
ツツ船長の人工冬眠が解除されたと判断したグェンは、セティと一緒に人工冬眠装置の蓋を開け始めた。グェンが人工冬眠装置の制御盤を操作して人工冬眠装置のロックを解除し、セティが蓋を持ち上げる。こうして完全に人工冬眠を解除されたツツ船長を、グェンはフライトジャケットのポケットから取り出した医療センサー使ってツツ船長の状態を調べる。
「まだ少し意識は朦朧としているみたいだけど、大丈夫。ゆっくりと起こしていきましょう」
ツツ船長が完全に人工冬眠状態から脱したと判断したグェンは、ツツ船長の上半身を抱え上げると蓋の開いた人工冬眠装置の上に座らせ、医療センサーの注射器部分をツツ船長の腕に押し当てた。人工冬眠状態の影響から一刻も早く脱出させる為に、リリース剤を用意してきて、ツツ船長に注射したのだ。効き目は直ぐに表れた。ツツ船長の表情はみるみるうちにしっかりしたものになり、クレイス達を見据えながら話し出した。
「あなた達が私を起こしてくれたのですか?」
「はい」
「何故、私を起こしたのですか? あなた方はどなたなのですか? 何故この宇宙船にいるのですか?」
完全に目を覚ましたツツ船長は、クレイス達に次付きと質問してくる。
「私達はこの難民船の人達を保護しに来たんです。私はクレイス・グレイ。惑星探査機構の惑星探査員です。隣にいるのがパイロットのセティ、アンドロイドです。そして貴方の目を覚まさせたのがグェン・リー、医師です……」
クレイスは自分とセティ、グェンの二人をツツ船長に紹介した後、自分達が惑星探査機構に所属している事や、キンナラと言う惑星を探査中に十年以上漂流していた難民船クーザを見付け、クーザの難民達の健康調査をして保護する為に、クレイス達三人が小型宇宙艇でクーザにやって来た事、そして健康調査の過程でツツ船長の腸の病変を見付け、その病変を詳しくしらべる為に、船長を起こした事などを話した。最初はやや不信そうにクレイスの話しを聞いていたツツ船長だったが、グェンが人工冬眠室におかれていたタブレットの画面に難民達を健康調査した記録を表示して見せると、クレイス達を信用してくれたようだった。
「やれやれ、十年以上も人工冬眠したまま漂流していたとはなぁ。どうしてパラダイスb7に着かなかったのだろう? もうとっくに、目的地に到着しているはずなのに」
ツツ船長は、クーザが目的地に惑星に到着せず、十年以上も漂流していたのが信じられないようだった。
「船長、その事について話しがあります。まずその前に見て頂きたいものがあるのですが、コンピューターのモニターを見られる場所に移動していただけませんか?」
クレイスは緊張を隠しながら、ツツ船長に話し掛ける。これからが肝心なのだ。ツツ船長に自分達が置かれた状況、架空の惑星目指して航行を続けていた事を理解してもらう為にはどうしても、クレイスが持って来た記憶媒体の情報を見て貰わねばならないのだから。
「解りました。それなら船長室に行きましょう。でもその前に、更衣室に行って着替えをさせていただけますか?」
ツツ船長は、自分の着ている白いガウンに目をやりながらクレイスに尋ねる。そう、ツツ船長は人工冬眠用のガウンを着たままだったのだ。
「えぇ、いいですよ。でもまだ一人では歩けないでしょうから、私に掴って歩いて下さい」
言うや否やグェンはツツ船長に近寄ると、ツツ船長の片腕を自分の肩に回し、人工冬眠装置から立ち上がらせた。
「有難う。更衣室はこちらです」
ツツ船長は人工冬眠室の壁にある扉の一つを指さすとグェンに手助けされながらその扉に歩いて行き、その扉に着くと足元がおぼつかないながらも、一人で更衣室に入っていった。クレイスはツツ船長が着替えを終えて出て来るのを待ちながら、軽い感応力を使ってさっき感じた何者かの意識を探る。しかし意識らしきものは何も感じない。だが確かにあれは人間の意識だ。間違いない。起きて活動している何者かが、難民船クーザにいるのだ。誰かが人工冬眠から目覚めたのだろうか? だが空になった人工冬眠装置は、見つかっていない。それとも難民達が人工冬眠している間、ずっと起きていた人間がいたのだろうか?
それなら人工冬眠から目覚めたツツ船長は、まずその人物を探そうとするはずだ。外部から忍び込んだ者がいるのだろうか? 宇宙艇専用デッキにあった、傷付いた宇宙艇が気にかかる。まさか、あの宇宙艇で誰かがクーザに乗り込んで来た……などと言う事があるのだろうか。クレイスが推理を巡らせているうちに、ツツ船長は着替えを終え、灰色のフライトジャケット姿で更衣室からで出来た。もうほとんど人工冬眠の影響は消えたらしく、足元はしっかりとしている。
「さぁ、行きましょう」
ツツ船長はクレイス達に声を掛けると、エレベーターへ歩いて行き、クレイス達がその後に続いた。さあ、これからツツ船長にパラダイスb7が幻である事を説明する仕事が始まるのだ。クレイスはこの仕事に集中する為に、今まで巡らせていた推理を止めた。
「セラフィー、私だ。船長室まで頼むよ」
「はい」
エレベーターの前でツツ船長がセラフィーに命じると、エレベーターの扉が開きツツ船長が先に乗り込む。次にグェンが手に持っていたタブレットをエレベーター横のフックに掛けてからエレベターターに乗り込み、クレイスとセティが後に続いた。全員が乗り込むとエレベーターの扉が閉まって動きだし、すぐに船長室にクレイス達を運んだ。
「船長室に到着しました」
セラフィーの声と同時にエレベーターの扉が開き、クレイス達は船長室のある階に降り立った。
「有難う、セラフィー。私はこの人達と暫く話し合っているから、休んでいていいよ」
「はい」
船長室の扉の前に立ったツツ船長がセラフィーに声を掛けると、セラフィーはエレベーターの扉を閉め、休息に入る。これでセラフィーの目を気にせず、ツツ船長と話せそうだ。
「さぁ、こちらへ」
ツツ船長はデスクやコンピューター端末、クーザの精巧な模型などが置いてある船長室にクレイス達を招き入れると、応接用のソファーを薦めた。
「さあて、私に見てもらいたい物とは何ですかね」
ツツ船長はクレイスとグェンがソファーに座ったのを見ると、ソファーとはテーブルを挟んで向かい合っている椅子に座り、クレイス達に問い掛けた。
「貴方達が目指している惑星の事です。貴方が向かっているのは、パラダイスb7ではありません」
「えっ!」
思わぬ話しをクレイスから聞いて、ツツ船長は戸惑いの表情を見せる。しかしクレイスは、ツツ船長に事実を話し続ける。
「クーザが向かっているのは、移住に適さない惑星です」
「待ってください。それは何かの間違いです。ほら、これを見て」
クレイスに反論し始めたツツ船長は、テーブルの上に置いてあるコンピューター端末を操作しだした。ツツ船長の指がコンピューター端末の操作画面に触れると、いかにも人間が住めそうな姿をしたパラダイスb7の立体映像と、パラダイスb7の位置を示した星図がコンピューター端末のディスプレイに現れた。
「私はこの資料を何度も調べ、資料の情報が真実だと確信したのでクーザの船長を引き受けたのですよ。長年宇宙船の仕事にたずさわった経験を生かして、難民達とパラダイスb7へ向かう為に」
ディスプレイの星図に示されたパラダイスb7の位置を見て、クレイスは愕然とする。そこに示されているのは、紛れも無く実在する惑星の位置だ。七、八年前に探査され、人間が移住しても大丈夫とされた惑星の位置が、バラダイスb7の位置として星図に示されている。クーザの難民達は、確かに実在する惑星へ向かって旅を続けていたのだ。しかしその惑星は、今クーザがいる位置からは離れた場所にある。クーザは本来進むべき航路から、大きく外れてしまっている。どういう事なのだろうか? いやな考えが、クレイスの頭を過る。誰かがこの難民船に忍び込み、航路を勝手に変更してしまったのでは……。クレイスが感じた人間の意識と宇宙艇用デッキに置かれた傷だらけの小型宇宙艇がその証拠かも知れない。
「見てください。私達はこの資料画像の真贋を調べ、本物の移住可能惑星の資料画像だと確信したので、移住を決意したのです」
ツツ船長はディスプレイに次々と映し出される惑星の景色を指差しながらクレイスに話し続ける。ディスプレイに映し出されているのは、緑の草原と穏やかな海が広がる居住可能惑星の景色だった。
「船長、確かにこれはパラダイスb7の資料映像でしょう。でも本当にクーザが向かっているのは、この惑星とは似ても似つかぬ惑星なのですよ。私達はその証拠を持ってきています。これがその証拠です」
クレイスはツツ船長に反し続けながら、ジャケットのホケットから棒状の記憶媒体を取り出してコンピューターの端子に接続し、画像をクーザが今居る地点と惑星キンナラの姿が示された星図に変えた。
「これがクーザの今いる場所です。ほら此処にグーザがいます」
星図にはクーザの姿を完璧に模写した宇宙船のマークが光っている。今この瞬間のクーザの位置を、正確に示したマークだ。その近くに、惑星探査船イオストルの位置を示すマークが映し出されている。さらにクレイスはコンピューター端末の操作画面に触れ、星図にこれまでクーザが進んできた航路と、クーザがこれから進んで行くだろう進路を点線で表示させた。
「ここに映っているのがクーザです。これが私達の惑星探査船イオストル。今はクーザの様子を監視しています。そしてこれが今、クーザが向かっている惑星です。パラダイスb7とは全く違う惑星なのが解りますか?」
星図上の点線は、キンナラそっくりのマークに向かって伸びているクレイスはそのマークを拡大させ、今のキンナラの姿を画面いっぱいに映し出してツツ船長に示した。
「信じられない」
ツツ船長は、困惑した表情でディスプレイ画面を見詰める。そしてクレイスはさらに端末を操作して、クレイスがキンナラを探査している時に撮られた画像を次々にディスプレイに映し出す。人間の移住には適さない。荒涼とした惑星の姿を。
「どうですか、理解していただけました?」
これでツツ船長が自分達の置かれている状況を受け入れてくれれば……クレイスは祈るような気持ちでツツ船長を説得する。しかしツツ船長は、なかなか頑固だった。ディスプレイ画面を見ながら首を振り、クレイスの話しを否定する。
「正直言って、すぐには信じられない。」
ツツ船長が簡単にクレイスの話しを信じられないのは仕方がないのだろう。自分達が目指している惑星が楽園だと信じて、困難な旅にでたのだから。しかしその後、ツツ船長の行った言葉は、クレイスをほっとさせるものだった。
「だが自分でしっかり調べてみないと、君達に反論も出来ないだろうからな」
その言葉通り、ツツ船長は椅子から立ち上がると小型スクリーンと様々な計器が並ぶ船長専用のデスクに向かい、デスクの制御盤を操作し、スクリーンに宇宙空間を映し出した。クーザの周囲の宇宙空間を映し出したものらしい。イオストルの姿が映っている。
「これは船外カメラが写した、リアルタイムの映像です。君達の宇宙船が映っている。それに私達が向かっている惑星が映っている」
ツツ船長はスクリーンを、指で指し示しながら説明する。確かにスクリーンには、イオストルと惑星の姿がある。ツツ船長はさらに制御盤を操作し、惑星の姿を拡大させる。
「あぁ、これは……」
拡大された惑星の姿を見たツツ船長の顔は、驚きに満ちていた。なにしろそこにあったのは、ツツ船長が知っているパラダイスb7の姿ではなかったのだから。そこにあったのは、ツツ船長達がクレイス達に会うまで知らなかった惑星、キンナラの姿に他ならない。
「やはり君達の言う通りだったね。それにしても何故、こんな事に……」
ディスプレイを見ながら、ツツ船長は上ずった声で呟く。しかしその顔はきりっとした、危機に立ち向かう船長の顔に替わっていた。難民達の命を守る、船長の役目をしっかり果たそうとしているのだ。クレイスは自分達が置かれている現状を理解したツツ船長にある提案をする。
「この宇宙船に、何があったのかは解りません。ただ、何者かに乗っ取られた可能性があるような気がします。船長、宇宙艇専用デッキにまで来ていただけますか? 見ていただきたいものがあるんです」
兎に角、宇宙艇専用デッキで見付けた傷だらけの宇宙艇をツツ船長に見てもらおうと、クレイスは考えていた。そうすれば、何かが解るだろうと期待して。
「ああ、いってみるよ。乗っ取られたとは思えないが、いったいどうなっているのか知りたいからね」
ツツ船長はデスクのスクリーンを止めると、船長室から宇宙艇専用デッキへと向かう。それを見たクレイスはテーブルのコンピューター端末から記憶媒体を抜き取るとジャケットのホケットに入れ、グェン、セティと共にツツ船長の後に続いた。
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