第3話

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 格納庫に着くとクレイスは手早くリストバンドを左手首に巻きプロテクトスーツを身に着け、エアロックの扉が開くとフローターをエアロック内まで手で動かす。そしてエアロックの扉が閉まり外と行き来する為のハッチが開くと、フローターを発進させ、ハッチからシャトルの外へと飛び出した。

シャトルを出ると、雄大な渓谷の景色がクレイスの目に飛び込んで来た。菫色の空に下に赤や黄土色をした土の帯が折り重なる断崖絶壁が広がり、その下の大地に黒っぽい岩山がある。スクリーンで見た以上に美しい景色だが、見とれているわけにはいかない。クレイスはフローターを降下させ、絶壁に下へと向かう。 ゆっくりと渓谷の下に降りていくと、夢の中に出来た岩山が見えてくる。さらに降下して岩山に近付くと、透明な岩の群れが姿を見せた。全てが夢で見た通りだ。クレイスは首を振る事でヘルメットに付いたカメラを作動させ、自分が見ている景色をシャトルに送る。

「セティ見て、これがあの声の主よ」

クレイスがイヤーカフの超小型マイクを通してシャトルのセティに話し掛けると、すぐにセティの声が聞こえて来た。

「君が言った通りだね。でも、あの岩は本当に生物なのかい?」

おそらく驚きの声を出したつもりなのだろう。セティの声は大きくなったり小さくなったりしている。

「夢の通りなら、この岩は生き物のはず。今からそれを確かめるから」

クレイスはセティと会話しながら透明な岩が放射状に並んでいる場所を見付け、フローターをその中に着地させた。フローターが生物や植物の痕跡の無い平らな地面に着地すると、クレイスはフローターの収納スペースから定点観察用のスティク型小型カメラを取りだし、愛機を離れた。そして透明な岩の一つの周囲を回り、ヘルメットのカメラで透明な岩の全体像を記録し終わるとスティク状の小型カメラを透明な岩の前の地面に慎重に刺して作動させ、自分と透明な岩の群れが記録されるようにしてから、感応力を働かせた。

(貴方達は何者?)

感応力で透明な岩たちに問い掛ると、いきなり静寂がクレイスを包み、クレイスの意識を動揺させた。音がまったく消えてしまったかのような静寂、それが一、二分続いた後、意識らしきものがゆっくりとクレイスに近付く。こんな事、初めてだ。クレイスは動揺しながらもその意識らしきものに感応力を使い、意識らしきものの正体を知ろうとした。人間の意識とはあまりにも違う意識……しかしクレイスの感応力は、すぐにその意識と接触したのだった。

 意識らしきものと接触すると、クレイスは身体が自分では動けないものになるのを感じた。遙か昔にこの世界に現れてから今まで、一つ所に留まり続けていて、目も耳も無いもの……しかしそのものは生きていて、音や光を感じている。しかも大勢で。そのものは起源を同じくする仲間と意識を共有し、別の同種の集団と対話をしている。風を使って。

そして今、風が吹いてきた。

 強い風が吹き付けて来るのを感じ、クレイスの意識は感応力を離れて普通の意識に戻っていった。どうやら渓谷に嵐が近付いているらしい。時々強くなる風が土埃を巻き上げながら、透明な岩の間を吹き抜けて行く。シャトルに戻った方かよさそうだ。だがその前に、この奇妙な生命体の姿をじっくりと見ておこうと思い、クレイスは透明な岩に顔を近付けた。

「何、これ?」

クレイスが顔を透明な岩の三十センチほど手前に近づけた時、透明な岩からの振動を感じ、慌てて顔を透明な岩から離し、後ずさる。しかし振動は透明な岩から離れても感じられ、さらに透明な岩の中に光が現れた。様々な色に蠢く奇妙な光だ。しかも見詰めていると、光が放つ色彩の中に吸い込まれそうな感じがする。しかしこの光こそ、クレイスが記録したいと思っているものだった。スティック型カメラに今のクレイスと透明な岩の様子が記録されれば、その画像はシャトルに送られているはずだ。それを惑星探査船のコンピューターに送られたら、計画は成功だ。

「セティ、モニターの画像を定点観察用カメラの画像に切り替えて」

「あぁ、切り替えたよ」

「それならそちらに私と透明な岩映像が映っているね」

光りの中で蠢く光の力に抵抗しながら、クレイスはシャトルにいるセティとのやり取りを続ける。

「あぁ、変な岩の前に立つ君が映っているよ」

イヤーカフから聞こえるセティの返事に、クレイスはひとまず安心した。その間にも透明な岩の光は強くなり、ますますクレイスの意識を幻惑しようとしていた。

「クレイス、大丈夫か」

カメラを通してクレイスの様子を見て心配したセティの声が、イヤーカフから聞こえてくる。

「今ところは大丈夫……でも、あまり長く感応力を使えない」

透明な岩の光に意識を引き込まれそうになりながら、クレイスはセティに指示をだす。

「セティ、これから二分たったら、私を大声で呼んでね。もうそれ以上は限界だから」

「了解」

セティ返事を言い終わると、クレイスは大きく息をして透明な岩に意識を向け直す。この奇妙な生命体に対して、二分以上感応力を使うのは危険だ。しかしその二分間の間に、透明な岩から情報を得なければならない。この岩が生命体である事を証明できるような情報を。クレイスは透明な岩が放つ光と向かい合いながら、瞑想状態を深めて未知の生命体の意識に近付き、彼らの意識を捕らえた。

 クレイスの感応力が捉えたのは、岩みたいに今いる場所から動けない生命体の、奇妙な意識の有り方だった。彼らの意識は、一つの意識に様に感じられて、一つの意識では無かった。いくつかの意識が連なって、一つの意識となっているらしいのが、感応力を通じて伝わって来る。かれらはこの渓谷の岩山に根を下ろしながら、常に仲間同士で意識を交換している。自分達が発する、振動と光を使って。さらに彼らは、音を使って遠くの仲間と情報のやり取りをしてといた。空気を振動させて作った音を風に乗せて他の透明な岩の群れに伝え、さらに他の群れへと伝えて行く。音が透明な岩の群れから群れへと伝わって行くたびに、この惑星の表面に光が転々と現れるのが、クレイスの意識に現れる。そしてその光が渓谷から東の方角に或る細かな砂で出来た海を渡り、砂の海に浮かぶ島の様な岩まで到達したのが見えた時、セティの大声が聞こえ、クレイスの意識は平常に戻った。

「クレイス、二分たったぞ」

イヤーカフから聞こえる大声で我に帰ったクレイスは、自分が土煙を巻き上げる強い風の中にいるのに気が付く。また嵐が来たようだ。渓谷全体が土煙に霞み、その中に透明な岩が放つ光が見える。やはりこの透明な岩は、生物だった。それも、とてつもない生き物だ。何んとしても、彼らが生き物である事を証明しなければ……クレイスは透明な岩が生物である証拠を得ようと、賭けに出た。

クレイスは再び感応力を使って透明な岩の意識と繋がり、彼らに光りを三回短く点滅させ、その後三回長く点滅を繰り返し、さらに三回短く光りを点滅させるように伝えた。

「お願い、短く三回、それから長く三回、また三回短く光りを点滅させて」

透明な岩達に、自分がやってもらいたい事が伝わったのを感じると、クレイスは感応力を切りヘルメットのマイクに向かって透明な岩に伝えた事をしゃべり、透明な岩の群れの様子を見守った。透明な岩の光はクレイスの眼の前で三回短く点滅した後に三回長く点滅し、さらに三回短く点滅した。よし上手くいった。クレイスの言う通りに点滅する光りが透明な岩の群れから群れへと伝わって行き、砂の海に浮かぶ島まで到達したのが感じられた。完璧だ。

「しっかり記録してくれた、セティ」

感応力を切り、完全に普通の意識に戻ったクレイスは、疲労を感じながら地面に刺したスティク状カメラまで歩き、カメラを止めて引き抜いた。

「あぁ、しっかりと記録したよ」

よかった。成功だ。あの透明な岩の光の記録は、この星に生命体が居ると言う、重要な証拠になるはずだ。後は渓谷から海までの間で転々と輝いている光を、惑星探査船から記録してくれれば完璧だ。

「有難う。すぐシャトルに帰るからね」

シャトルに居るセティに伝えるとクレイスはスティック状カメラを持ったままフローターに戻り、すぐ飛び乗ってカメラをしまうと、シャトルに向かって発進させた。

 土煙の中をフローターで飛ばせて探査シャトルに戻り、フローターの格納庫でいつもの検査と殺菌を受け終ると、クレイスは急いでフライトデッキに入り、セティにリストバンドを渡すとすぐコンビューターのコントロールパネルに飛び付き、定点観測用カメラで記録した画像をスクリーンに映し出す。スクリーンには透明な岩の群れの姿が映し出され、一緒に録音されたクレイスの声に合わせて点滅を繰り返している。画面の片隅には、記録された場所の位置と時刻を示す数字が映し出されている。成功だ。

「上手くいった。これでイオストルに戻れる。セティ、嵐がおさまったらイオストルにもどれるように、帰る準備をして」

光りを点滅させる透明な岩がしっかりと撮影されているのを確認すると、リストバンドの検査を終えたセティに指示する。

「了解」

パイロット席に着いたセティが探査シャトルを発進させる準備を始めると、クレイスは今度は通信装置を動かし、惑星探査船と繋いだ。

「イオストル、聞こえますか」

「はいこちらイオストル」

クレイスが通信装置に話し掛けると、若い女性の声が聞こえて来た。惑星探査船イオストルの通信を担当している惑星探査船乗組員ボルテの声だ。

「ボルテね。私とセティはこれからイオストルに戻ります。それよりも、これからそちらに送る画像を、私達が帰るまでにみんなで見ておいてほしいの」

「どんな画像ですか?」

「この惑星の生命体の画像よ」

「えっ?」

通信装置の向こうから、ボルテが驚く声が聞こえて来た。

「そう、キンナラの生命体の姿を捉えられたのよ。詳しい事はイオストルに帰ってから話すから、それまでお願いね」

クレイスはボルテとの会話を終えて通信装置から離れると、コックピットの自分の席に着き、キンナラを離れて宇宙空間に出る準備をした。


 惑星探査船イオストルへの帰り道は、クレイスにはやや退屈な旅だった。探査シャトルを操縦は全てパイロットのセティがやっていて、クレイスは惑星探査員席に座り、座席の横の窓から遠ざかる惑星の景色と、近付いて来る惑星探査船の姿を見ているだけだ。黙って窓を見詰めているうちに、探査シャトルは円筒形をしたイオストルの船体に近付いて行き、イオストルのドッキングポートに納まり、クレイスとセティは惑星探査の活動中は生活の場となっている惑星探査船イオストルに、無事帰還したのだった。

 惑星探査船に戻ったクレイス達を待ち受けていたのは、探査シャトルが惑星探査船に戻った時に義務づけられているセキュリティチェックだった。探査シャトルは複数のセンサーで機体を丸ごと調べられ、クレイスとセティもシャトルのエアロックにあるセンサーに掛かって全身を調べられた後、シャトルをから出る手筈になっていた。そしてその後クレイスには、シャトルから出た後の医学検査が待っている。クレイスはドッキングポートを出るとセティと別れ、イオストルのメインブリッジに向かう通路の途中にある医学検査用の小部屋に向かう。

「あぁもうややこしい。早く自由になりたいのに」

クレイスは不満をぶつくさ呟きながら小部屋に入る。惑星探査を終えて帰った後の医学検査が煩わしいのだ。それに、惑星探査中のクレイスの健康状態のデータなら、プロテクトスーツを通じてイオストルのコンピューターに送られているはず。惑星探査員の身体に、何等かの寄生生物が付くのを防ぎたいのなら、プロテクトスーツで防げるはずだ。無駄な検査を割愛して、早く自由になりたかった。いや今はそれよりも、早くキンナラで出会った生命体の事を、イオストルのクルーに報告したかった。

「お帰り、クレイス」

部屋に入ると、部屋の壁にあるモニターから年配ら女性の声がした。イオストルの船医、グェンがモニターの向こうからクレイスを見ている。

「ただいまドクター」

クレイスは不機嫌を隠さずモニターのグェンに答える。

「クレイス、気が進まないかもしれないけれど、兎に角スキャナーの下に立って」

「はい」

クレイスはグェンの指示通り、小部屋の中にあるスキャナーの上に立つ。床の円形に区切られた部分に立つと天井のスキャナーが作動して光がクレイスの周囲を回った。

「はい医学検査終了、異常無し。もう自由にしてもいいから」

クレイスの身体を回っていたスキャナーの光が消えると、モニターのグェンが医学検査の終了をクレイスに伝え、クレイスはやっと自由の身となった。

「有難う、グェン先生。今回も私に寄生生物がくっつく事はなかったね」

クレイスが冗談を言うと、グェンが思わず吹き出すのがモニターから見えた。

「おそらく、これから先も無いはずよ」

モニターのグェンは笑ながらクレイスに話し掛ける。

「そうであってほしいわね。そうじゃないと、生身の体で惑星探査員なんかやってられないよ。それより私はこれからメインブリッジにいって、キンナラの生命体の事をクルー全員に話すから、貴方にもメインブリッジにきてほしいの。じぁあ、またね」

「解ったわ、またね」

クレイスが話し終わるとモニターからグェンの姿が消え、クレイスは医学検査室を出て、メインブリッジに通じる通路に出る。

「確かに、寄生生物にとりつかれてはいないようね」

メインブリッジに向かいながら、クレイスは自分の手を見たり首の後ろを触ったりしながら独り言を言う。もちろん厳重な防護柵を施して、微生物も着かないようにしてあるプロテクトスーツを着て行けば大丈夫だし、第一簡単に人間に寄生する生物などそういないだろうから心配する必要もないのだろうが。それなのにクレイスに厳重な防護柵が施されるのは、クレイスが数少ないサイボーグではない惑星探査員で、しかも感応力を使って未知の生命体と接触する事を主な仕事をする惑星探査員なのだからだ。

「意識を集中させ感応力を使うこちらの身になって考えてくれたらいいのに」

クレイスは一人ぶつぶつ言いながら通路を歩き、メインブリッジに辿り着いた。

 メインブリッジのドアを通り抜けて中に入ると、惑星キンナラの立体映像を前にアンドロイドのセティと七人の男女が集まっていた。惑星探査船イオストルの船長ゼノビア・グレイとクルー達だ。

「お帰りなさい、クレイス」

メインブリッジに入って来たクレイスに、まずゼノビア船長がクレイスに話し掛ける。

「ただいま、船長。そちらに送った画像をみました?」

「ええ、見たわ。あの岩みたいな物が、貴方の言う通りに光を放つなんて……信じられない」

ゼノビア船長は、肩をすぼめながらクレイスの質問に答える。それに対して、クレイスは自分がこれからしようとしている事を話した。

「これからもう一度、みんなとキンナラの生命体の映像を見てもらおうと思っています。映像に写っている透明な岩が、間違いなく生命体である事を確認してほしいんです。タビィ、私が送った画像を、すぐ再生してちょうだい」

クレイスがクルーの中にいる背が高い赤い髪の青年タビィに言うと、タビィは手にしたコントローラーを動かし、キンナラの立体画像の後にあるスクリーンに、透明な岩の静止画像を映し出した。

「それからキンナラの映像を、私が送った映像が撮られた時間のものと合わして」

クレイスが指示すると、タビィはさらにコントローラーを動かし、キンナラの立体映像を静止画像にした。

「スクリーンの画像とキンナラの立体映像はちょうどおなじ時刻のものです。キンナラの画像は、私がいた渓谷を中心にした画像になっています。タビィ、両方の画像を動かして」

メインディッキにいる全員の視線を感じながら、クレイスがタビィに指示すると、二つの画像が動きだし、画像に映し出された透明な岩が、光を放ち始めた。

「もう見ていただいてお分かりでしょうけど、これから私の指示通りに、透明な岩が光を放ちます。しかし今私がみてほしいのは同時刻のキンナラの立体画像の方です。さぁ、よく見てください」

クレイスがクルー達に説明し終わると、画像の中のクレイスが透明な岩に指示する声が、嵐の音と共に聞こえ、クレイスの指示通りに透明な岩の光が点滅するのが映し出される。

「さぁ、定点観測用カメラと一緒に、キンナラの立体画像を見てください。ほらここです」

クレイスがキンナラの立体画像を指差すと、クルー達が一斉に惑星表面に刻まれた渓谷のあたりに目を向け、渓谷に現れた光を見詰めた。

「これは渓谷の透明な岩が放っている光です。これから重要な物が映りますから、しっかりと見ていてくださいね」

クレイスが話し終ると、渓谷で輝いていた光が画像の東の方向へと延びて行くのが映し出され、イオストルのクルー達は黙ってその様子を見守った。

「何? これ」

渓谷から伸びた光が東の海に浮かぶ島に到達し、さらに渓谷の画像のクレイスの声に合わせて光が点滅すると、クルーの一人から驚きの声があがった。

「渓谷にいる透明な岩たちは、風と光で他の場所にいる仲間と話し合っているのです。彼等は私の言葉通りに光を点滅させ、その様子を彼らは他の場所にいる仲間に風の音を使って伝え、その仲間が同じ様に光を点滅させてさらに他の仲間に伝えていっているのです」

クレイスが説明している間にも、二つの画像に映る光の点滅は続き、イオストルのクルーの目をくぎ付けにする。

「確かに、生きているみたいね。少し信じられないけど」

二つの画像から光が消え去り、モニターの画像が静止して立体画像のキンナラが消え去ると、ゼノビア船長が重い口を開けた。

「確かにあの岩の光は、クレイスの言葉に反応している。しかしこの画像だけでは、岩が生命体であると言う決定的な証拠にはならない。別な理由で鉱物が光を放ったのかもしれないから」

ゼノビア船長の話しは、まぎれも無い現実だった。実際、探査している惑星の生命が居るのかの判断は厳格だ。特に惑星探査機構の開発部は、なかなか生命の存在を認めようとはしない。生命の存在が、惑星開発の障害になると思われているからだ。だがクレイスの声に反応する透明な岩の光の映像は、探査期間を延長させる理由にはなるかもしれなかった。惑星開発を急ぎたい人間達の妨害さえなければ。

「船長、まずはこの二つの画像を運営委員会のコンピューターに送って、探査期間の延長を申請してください」

クレイスは、ゼノビア船長に進言する。

「難しいかもしれませんね。岩みたいな生物なんて、前例がなしね。画像だけでなく、クレイスがあの岩の様な生命体を探し出すまでに何があったのかを説明するために、報告書を作って送らないとだめでしょう。これから探査期間の終了までに、作成出来ますか?」

イオストルのコンピューターオペレーターの青年、ロコが横から口を挟む。

「だからと言って、最初から諦めていたらなにも出来ないじゃないの。みんな、協力してくれる?」

クレイスはロコに反論すると、クルー達全員の顔を見詰めた。実際問題として、探査を終了させる時間が刻々と迫っていた。でも、何もしないで諦めるのはいやだったし、クルー達が力を合わせれば、報告書を作成できるだろう。助け舟を出してくれる人がいると信じていたのだ。

「みんな、お願い。協力して」

クレイスは祈るような気持ちで、クルー全員に訴える。

「そうね。やってみましょうか。報告書作りなら、幾らでも手伝うから」

クレイスの呼びかけに最初に答えてくれたのは、ボルテだった。

「それでは、さっそく始めましょうか。クレイス、まずコンピューターに今での経過を音声入力してください。船長、いいですね」

「こうなったら、言いも悪いも無いでしょう。さぁ、報告書を作りましょう」

船長が許可を出す前に、イオストルのクルー達は自分達の持ち場に着くと、報告書作りを始めていた。クレイスはコンビューターの前にロコと一緒に座るとマイクに向かい、キンナラに降り立ってから透明な岩と出会うまでの経過を、細かく正確に話し始めた。


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