第97話 モルグ遺跡

 王都より北へ徒歩で半日。

 モルグ遺跡がある。数十年前までは魔石の採掘場であったという。

 すでに魔石はとりつくされており、現在は廃墟となっている。

 ここらで巣くっている魔物を狩ることで、冒険者は金銭を得ているのだ。

 半日も歩いていられないので、アラタ一行は馬車を借りてモルグ遺跡に向かっていた。

 馬車を使えば一時間半の道程だ。

 荷台で三人、馬車に揺られながら雑談をする。

「そういえば、二人共、限界を感じてるっていってたな。それはどういうことだ?」

「うーん、一応訓練をマジメに受けているんだけどね。あまり強くなってない気がするのよ。このまま魔王討伐の旅に出発しても大丈夫なのか、不安なのよ」

「ん」

 ヒナコの説明にスズも同意を示す。

「それで今回はアラタについていって、どんな感じになるのか体験したいなって思ったの」

「ん」

「なるほど、じゃあ今回はお試しって感じか。じゃあ、パーティーを組むのは今回一回きりってことでいいのか?」

「まあ、そういう事ね」

 ヒナコがうなずく。

「わたしは違う……アラタとずっとパーティーを組む」

 スズがヒナコに異を唱えた。

「そうなのか?」

「ん」

 スズがこくりとうなずいた。

「ずっとって言っても……」

 アラタは魔王討伐の旅には行くつもりはなかった。ということはそれまでの仮のパーティーだろう。

「ダメ?」

 顔が近い。

「だ、ダメじゃないけど……」

「そ、良かった」

 スズの唇がほんの少し笑みをうかべた。

 ひゃーっとヒナコがなぜか真っ赤になってこちらを見ていた。


「ん?」

 ステータス画面の反応にアラタが気づいた。

 アラタの探知スキルが、いくつかの反応をキャッチしていた。

 二つの反応があるがこれはスズとヒナコを監視しているナンバーズのものだろう。

 そしてもう少し離れて団体の反応。これはおそらく冒険者パーティーのものだろう。

 アラタ達と同じくモルグ遺跡に向かっているものと思われる。

 まあ、何にしても避けたほうが無難だ。

 他所の冒険者パーティーとはこのまま距離を取っておいたほうが、無難であると思うアラタであった。


 ◆◆◆


 アラタ一行を追うように馬車が走っていた。


「アラタはモルグ遺跡にいったらしいな。とするとあの馬車か」


 豆ほどに小さく見える馬車を睨んで、キョウキが言った。


「多分そうだろう。仲間の情報だと二人の女を連れているらしいな」


 ルスドが答えた。


「はっ、良いご身分なこって。とすると、ミンファでも連れ回してるのか?」


 嫉妬でキョウキの歯がギリッと鳴った。


 アラタ一行を追うのは、冒険者のキョウキ、ルスド、ガイルである。

 全ての治療代を払わされ、治療院を退院した二人はアラタを恨んでいた。

 ルスドにいたっては、借金になっている。

 文無しなうえに冒険者ギルドを追放されてしまっては、今後の食いぶちがない。

 それを仕返ししようというのである。

 ガイルはキョウキに付き従っているので、ついてきていた。


「しかし、キョウキのアニキ、勇者に手を出すというのは……」


 ガイルは付いてきたものの、気が進まない様子である。


「ふん、冒険者が依頼の最中に命を落とすことはよくあることだ。わかりゃしねーよ」


「そうですが……」


「ガイル、俺もキョウキもアラタには煮え湯をのまされてんだ。サラさんもアラタがいなけりゃ、目が覚めるだろうよ。お前だって、キョウキが惨めなのは嫌だろうが」


 ルスドがガイルを諭そうとする。


「そりゃあ、アニキには恩を感じているが……」


「ガイル、ここまで来たんだ。一蓮托生ってやつだ。覚悟決めろ」


 キョウキがガイルの肩に腕を回した。


「……はい」


 ガイルは決心した。


「大丈夫だって。俺に考えがある」


 ルスドはニヤリと笑った。



 ◆◆◆


 アラタ達はモルグ遺跡に着いた。御者に礼を言った。


「ギルドからは料金をもらってますので。あっしはここで待ってます」


 御者は元冒険者だという。

 スクロールを広げると、魔物除けの結界を張った。


「助かるわ。帰りはどうしようかと思ってたの。徒歩だと大変だし」


 ホッとしたようにヒナコが言った。


「サラさんが手回ししてくれてたんだな」


 アラタは彼女に感謝した。


「普通は帰ってしまうんですがね。なんでも勇者には補助金が出るとかで、こうして高価なスクロールも貸してくれましたし」


 御者はほくほく顔だ。どうやら儲けがあるらしい。


「しかし、モルグ遺跡は気をつけた方がいいですぜ」


 御者は自分の左のももをトンと叩いた。

 膝から下が、なかった。


「この遺跡でヘマしちまったもんで、冒険者を引退ってわけです」


 ヒナコが不安げな顔をして、こちらを見た。


「危険はつきものだ」

 アラタはそう答えるしかない。


「そうだけど……」


「ヒナコ、魔族と戦うことになれば、無傷ではすまないと思う」

 スズはとっくに覚悟を決めているようだ。


「そうはいっても、スズだって嫌でしょ。傷モノになっちゃうじゃない」


「わたしは女優を目指してない。生きて帰るのが一番大事」


 宮森家の跡継ぎとしての行持が、スズにはあった。


「危険な事くらいわたしだって分かってるわよ、子供じゃないんだから。ただわたしは女優志望だから、肌に傷なんて考えられないもの。でも……行くしかないわ。魔王討伐の旅が始まれば四の五の言ってられない事くらい分かってるもの」


 アラタは決意するヒナコを見て、好感を持った。

 また、夢を持っているヒナコを羨ましいとも思った。

 アラタには夢がないからだ。

 いや、一つあったな、とアラタは思った。それは琴子と幸せになることだった。今となってはそれは叶わないし、叶えたくもない夢であるが。


 モルグ遺跡に入る。

 採掘場なので、ひたすら掘り進められている。

 坑内は広くはなく、大剣を振り回す事はできない。

 アラタは片手剣を選択した。

 スズとヒナコも同様である。

 ランタンを灯して、奥へと慎重に歩を進めていく。

 二十分ほど進むと、広場に出た。


「何かいる」


 広場の中心でアラタは足を止めた。


「本当に?」


 スズがアラタに尋ねた。


「ああ、気をつけて」


 アラタはスキルにより探知していた。おそらく魔物であろう。

 三人が警戒していると、キーキーと鳴き声が聞こえた。

 ランタンに灯されて二つの目が光ってるのが見えた。

 それも無数に。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 仕事をしながらコツコツと書いてます。(先週はハードワークで精神的にやられました)少しでも楽しんでいただけた方は、♡や☆を入れていただけると執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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