第96話 アラタ、逆恨みされる
「俺たちとクエストいこうぜ」
屈強な二人の冒険者がヒナコとスズにからむ。
「もお、何なのよあんたたちは」
ヒナコの眉間にしわがよっている。
「行かない……」
スズが静かに断る。
「愛想のないねえちゃん達だなあ。でもそんな事いってるとこの界隈では活動できなくなるぜ。なんせ俺はランクBの冒険者だからよ。エドって名前知らないか? 俺は冒険者仲間でもわりと有名なんだぜ」
エドが鼻をふん!と鳴らしてふんぞり返った。
「知らないわよ」
「知らない……」
ヒナコとスズはそっけない態度をとる。
要はナンパである。二人共、美少女であるから、男達が放おっておくわけがないのだろう。
アラタはサラに断りを入れて二人の元に向かった。
エドの肩をポンと叩く。
「すまない、彼女達は俺の仲間なんだ。余所を当たってくれないか?」
振り返ってアラタを見たエドの瞳にあきらかに見下したような光が灯った。
「ああーん、この俺に指図するんじゃねぇよ。てめぇ、殺すぞお?」
エドという名の冒険者はアラタを威嚇した。こんな奴は敵ではない。相手するまでもない。しっしと追い払おうとする。
すると隣の仲間の冒険者がアラタの顔を見て青ざめた。
「殺すって……なるほど」
はぁ、とため息をアラタはついた。冒険者ってこんなやつばかりなのか……。
「また決闘するしかないか……」ボソリと一言。降りかかる火の粉は払うしかない。それがイザベラの教えだし、アラタはそれに忠実である。
「い、いや!そんなわけないです! 申し訳ありません!」
青ざめた冒険者が震える声で頭を下げた。
「おいおい、こんな奴にどうしたってんだ?」
エドが仲間の怯えように戸惑う。
「ば、バカヤロー! このお方が誰だと思ってるんだ」
エドの胸ぐらをつかみかかる。
「なんだよ急に!?」
耳元で、この方が噂のアラタさんだよ、と伝える。
「マジか?」
「マジだ」
「あのキョウキさんを瞬殺したとかいう?」
「そうだ。お前は見てないだろうが、相手を間違えるな」
エドは信じられないといった顔をした。
だが、ふと周りを見渡すとギルド内はしんと静まりかえっていた。
それでようやくエドは悟ったのだ。巨漢のエドは威圧感がある。それなのにアラタは全く物怖じしていない。
むしろギラギラと瞳に冷たい光を発している。
ランクBの冒険者の勘であろう。エドの頭に警鐘が鳴り響く。生存したければ切り抜けよと。
あいつ死んだな、と誰かが言った。
「ここじゃ、なんなんで」
アラタはギルドの入口のドアを指す。
「外で――「すみません! あのアラタさんとも知らず!」
エドはそれはそれは折り目正しく90度以上に腰を曲げて無礼をわびた。
「お詫びの印といっちゃあ何なんですが」
震える手で腰の皮袋を差し出す。金銭の類が入っているのだろう。
「いや、別にいらないし」
アラタはドン引きしていた。
◆◆◆
受け付けをすませて冒険者ギルドをあとにする。
「ねえ、アラタって何者?」
ヒナコがアラタの顔をまじまじと見つめた。
「ランクFの冒険者だけど。ヒナコと同じだよ」
何を言ってるんだ、という反応をアラタは示す。
「一緒ねぇ」
ヒナコは納得がいかない様子である。
「アラタは特別」
スズが口をはさんだ。
「スズの特別はちょっと意味がちがうでしょ?」
スズは首をかしげる。
「まあ、いいけど」
スズが自分の気持ちに気づいてないなら仕方ないわね、とヒナコは思った。
◆◆◆
アルフスナーダ大聖堂にある治療院に、宰相カル・ケ・アルクの側近であるナージャが訪ねた。
「はぁ? 何で俺が!?」
「ふ、ふざけるな!」
治療院で怒号が響く。
元ランクA冒険者の冒険者であるキョウキと勇者の護衛に任命されている盗賊のルスドである。
「ふざけてはいません。これは国の決定です。お二人は冒険者ギルドとの契約を解除されます。よって、お二人のギルドカードは使用不可になります。またルスド様は魔王討伐の冒険者契約も解除いたします。さらにルスド様には勇者の護衛についた契約の前渡金の返還を求められます」
ナージャが淡々と説明する。
「ウソだろ?」
ルスドが信じられないといった面持ちで呟いた。
「いえ、嘘ではございません。もう一つ、お二人の今回の治療費は冒険者ギルドの保証は効かずに、全て自己負担となります」
ナージャが書面を持って説明した。
「どういうことだ? 説明しろ!」
キョウキは納得がいかない。
「この国において勇者はなによりも優先すべき存在であるという事です。あなた達はその勇者に危害を加えようとした。結果的に危害を被ったのはあなた達ではありますが。この処罰は妥当な判断となります」
「お、俺はランクAの冒険者だぞ? それを手放すというのか? あ、剣聖の意見はどうなんだ? あの人は冒険者を第一に考えてくれている。剣聖ならこんな処罰は反対したはずだ」
さあ? とナージャは肩をすくめる。
「わたしは駒の一つにしかすぎませんので。今回のお二人に対する処罰の決定にいたる経緯はわかりかねます」
「兄貴! アラタと決闘したってのは本当ですか!?」
そう言って入ってきたのはルスドと同じく勇者の護衛の任についている冒険者であるガイルだ。
冒険者ギルドで、駆け出しの頃からキョウキに世話になっているガイルは、彼を兄のように慕っていた。
「いいとこに来た兄弟。こいつに説明してやってくれ。俺がいかに冒険者達に貢献してきたかを」
「ガイル、俺が優秀な盗賊のスキルを持ってることを説明してくれ、このままじゃ……」
二人共、高位の治癒師に治してもらったので傷はほぼふさがっていたが、この治療費が自己負担となると大赤字になるのは目に見えていた。
だが、状況の分からないガイルは戸惑うばかりである。
「ガイル様。それには及びません。わたしはただ事務的にお二人に決定事項を伝えにきただけであり、たとえガイル様にこの二人がいかに有能かと説明を受けても、この決定をくつがえす事が出来るような存在ではありませんので」
「はあ、そうですか……」
内容を知らないガイルは、わけも分からずそう返事する。
「では、わたしはこれで」
「お、おい! こっちの用はまだ終わっちゃいねぇぞ!?」
「わたしはあなた方にはこれ以上の用件はありませんので」
ナージャはそういうと、部屋を出ていってしまった。
取り付く島もない。
「畜生、なぜこんな事に」
ルスドは頭をかかえた。
「アラタ……あいつと関わってから、ろくな事がねぇ。あいつがいなければ、全部上手くいってたはずなんだ。くそ!! あいつだけは!」
キョウキの瞳にメラメラと復讐の炎がともる。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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