第95話 ヒナコの加入

 103号は傷が塞がったが、毒におかされていた。これは古代治癒師のスキルでは完治しないという。

 専門外であるからとコルネラが解毒薬を用意してくれた。

 うなされる103号に解毒薬を飲ませた。


「回復には時間がかかる。しばらくここで養生させればよい」


「コルネラさん、ありがとう」


「兄ちゃんが視たっていうこの子の身の上を聞かされてはの……。追い出すわけにもいかなくなったわい」

 はあ、疲れた疲れた、と自分の肩をもみながらコルネラは治療室の出口に向かった。


「わしもあの魔法使いには煮え湯を飲まされておる」

 そう言って、部屋を出ていく。

 アラタはそんなコルネラの背中を見つめた。

 何があったのかと疑問に思った。

 それから103号の方に顔を向けた。

 今は寝息をたてている。

 不眠で動くアラタを追いかけ、監視し続けていた103号は、非常に疲れていた。当面起きることはない。

 そんなことをアラタが知る由もないのだが。


「さて、どうしようか……」

 宿舎に戻ってスズと朝ごはん食べて。それから冒険者ギルドに顔を出すか。

 そんなおおまかな予定をたて、治療室を出て暗い階段を上がる。

 コルネラは粗末なロッキングチェアで毛布にくるまって眠っていた。

 アラタはコルネラのために朝食を用意して、部屋を出た。


 外に出ると、鳥がさえずっていた。

「もう朝か……」

 コルネラの住処の外側の壁面に、転移の印を付ける。

 それから自室に転移した。

 宿舎でシャワーを浴びて、身支度を整える。

 時間までステータス画面にストックされた書籍の中から、適当に本を読んだ。


「お、もう時間か」

 アラタは食堂に向かった。


 そこでは、スズともう一人思わぬ人物が待っていた。

「横峯ヒナコ……」


「おはよ、アラタ」


 ヒナコがほほえんだ。スズも「おはよう」とほほえむ。


「おはよう。一体どうしたんだ? ちょっとびっくりしてるんだが……いや、招いてないとかそういう意味じゃなくてだな……」

 アラタはしどろもどろになっている。


「ねえ、アラタ」ヒナコは、ずいっとアラタと距離をつめる。アラタはゴクっと唾を飲んだ。


「わたしと一緒に行動しない?」

 ヒナコから漂うシャンプーの香りがアラタの鼻腔をくすぐる。

 異世界のシャンプーは天然素材のみで作られており、悪くない香りだった。


「へ? 一緒にって……一体どういう……」

 アラタは戸惑うばかりである。


「ちょっとね。わたしもスズも今の訓練に限界感じてるのよ。ね、一回試しに」

 ヒナコが手を合わせる。その可愛さに思わず身を引いてしまう。


「まあ、いいけど」

 戸惑いながらも、アラタは受け入れた。


「ホント? ありがとう!」

 パッとアラタの手をつかんだ。


 人懐っこいな、とアラタは思った。タレントゆえの距離のつめ方であり処世術。男によっては簡単に勘違いして好きになってしまうのだろう。

 自分がウブな高校生なら確実に恋に落ちると確信している。

 いや、いまでも勘違いする可能性はある。現に俺はドキドキしている!

 そんな事を考えていると、スズが冷ややかな目で自分を見ていた。

 誤魔化すようにコホンと、アラタは咳払いをした。

 なぜか背中に冷や汗をかいていた。

 何だ、このプレシャーは?!


「今日は冒険者ギルドにいくけどいいか?」


「うん。一回行ったことあるね。アラタはいつもそこで?」


「いつもってことはないけど、それなりに」


「へえ、アラタは自分のやり方で、魔王討伐にむけて頑張ってるんだね」

 尊敬するわー、とヒナコの白い歯がこぼれた。


「魔王討伐って……」

 アラタは魔王討伐には興味ない。そもそも琴子と一緒に合流して旅に出るなど愚の骨頂である。考えたくもなかった。

 だが、そんなことをいちいち言う必要はないと思いアラタは口をつぐんだ。


「ま、とにかく腹ごしらえをしよう。ちょっと待っててくれ」

 そう言ってアラタは朝食を準備した。


「え? これって」

 ヒナコは目をまるくしている。


「オムレツとパンだけど?」


「なんでこんな?」

 今度はヒナコが戸惑っていた。


「どういう事? 気に入らなかった?」


「いや、その逆よ。何で元の世界の食事が?」


「まあ、似たような食材を探してきて、再現してるんだ。あー、もしかしてヒナコはこっちの世界の食事しか食べてないのか」


「うん。異世界の食事も悪くはないよ。でもやっぱりこういう食事が恋しくなるものよ」


 この手の料理はスキルさえあれば再現出来るのだが、誰も持っていないのだろう。


 ◆◆◆


 朝のギルドは活気がある。冒険者は自分のペースで仕事が出来る。とはいえ日雇いであるし、割の良い依頼は早い者勝ちである。

 よって掲示板に新しい依頼がはりだされる朝は冒険者が集まる。

 ギルド掲示板を見る。


「これなんかどうだろう」


「悪くないんじゃない?」

 ヒナコがそれに答えた。


「アラタにまかせる」

 スズも同様の意見だ。


 それは王都より北、モルグ遺跡の魔物を間引く依頼だ。

 魔物は放置していると、いつのまにか大所帯になってしまう。

 魔物が増えすぎると王都にやってくる恐れもあり厄介なのだ。

 そのため常時、こうした依頼は張り出されている。


「じゃあ、これを受けてくるから、その辺で待ってて」


「ん」

 スズが返事をした。ヒナコはギルドに来たのが二度目ということもあり、物珍しそうにキョロキョロとしていた。

 アラタは掲示板に貼られたこの依頼をはがすと、受付に向かった。

 そこではサラが朝の業務におわれていた。

 カウンターに近づくと同じく仕事をしていたイズミがこちらに気がついた。

 サラの肩をポンと叩いて、アラタを指差す。


「あ、アラタさん」

 受付嬢であるサラの表情がパッと変わった。デスクワークをしていたサラがカウンターにパタパタとかけよる。


「サラさん、忙しそうだね」


「朝は段取りがあってどうしてもバタバタしちゃうんです。昼はわりと落ち着くのですが。アラタさん、それで今日はどんな依頼を探してますか?」


「これなんだけど」

 掲示板から取ってきた依頼の用紙を、アラタはサラに見せた


「モルグ遺跡ですか。なるほど。では徒歩よりも馬車を使ったほうが良いですね」


「そうなのか?」


「はい。ではこちらの方で手配しておきます。ちなみに今日もお一人ですか? それともミンファさんと?」


「いや、そのどちらでもない。今日は勇者のメンバーが二人来てるんだ」

 そう言って、スズとヒナコがいる方に、アラタは振り返った。


「ちょっとしつこいのよ!」

 他の冒険者に囲まれた、ヒナコとスズがもめていた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 仕事をしながらコツコツと書いてます。少しでも楽しんでいただけた方は、♡や☆を入れていただけると執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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