第68話 ロイズを探す

 森の中を歩き回ってロイズを探す。

「そんなに遠くにはいないと思うのですけど」

 ミンファに付いていく。

 スキル【探知】は作動してると思うが、よく分からない。

 ほどなくして、ぐったりと地面に横たわるロイズを発見した。

 どうやら、探す対象に意識がないとスキル【探知】は効果的ではないようだ。

「ロイズ、大丈夫?」

 ミンファはかけよって声をかけたが反応はなく、顔を見ると腫れ上がっていた。

「何でロイズは気絶してるんだ?」

「キョウキにやられたんじゃないでしょうか?」

「なるほど。で? どうする?」

「私の幼なじみですし、このままにしてたら魔物の餌になってしまうので……」

「でも、これは起きないんじゃないか?」

「うーん」

「とりあえず、俺のテントまで運ぼう」

「はい」

 ロイズの両足を持って、ズルズルと引きずっていく。

 引きずっているとはいえ、人間一人の重さである。

 アラタは汗が吹き出てきた。

「結構、きついな」

「私、スキル【荷物持ち】を取得してるので、代わりましょうか?」

「いや、いい」

 女の子に代わってもらうのは、恥ずかしかった。

「それにしても、俺にスキルの情報なんて教えて良いのか?」

「アラタさんだって、ポロポロとスキルについてしゃべってるじゃないですか」

「そうだな。何でだろ?」

「私も何でかな? って思います」

 思い当たる理由がないわけではない。

 ミンファの自分の事を尊敬してます、みたいな目線が心地よいのだ。

 しかも美少女。

 ついつい口が滑るというものだろう。


「ガル……」

 人食い狼が現れた。アラタは剣を構える。

 体力を消耗していて動きに、いつもの切れがない。

 太刀筋が空をきる。

 人食い狼に見切られて避けられているのだ。

「あー、疲れた」

 悪態をつく。自分の体力のなさにイラついてしまう。

 ミンファはアラタの援護に人食い狼に果敢に責めるが、ギルドランクFの冒険者である。

 全く相手にならない。人食い狼の前足で凪ぎ払われた。

 ミンファは飛ばされ、したたかに樹木にその身体を打ち付ける。

「あうっ」

 衝撃で肺から息が吐き出される。苦悶の表情を浮かべて動けない。

「ミンファ!」

 一瞬ミンファに駆け寄ろうとした。だが、今は人食い狼の相手が先である。

「火弾」

 攻撃魔法を連射させて、上手く誘導する。ようやくアラタの剣が人食い狼の首に刺さった。

「火弾」

 その首もとに直接手を付けて攻撃魔法を放つ。その熱量でブクブクと首が膨れてはじけ飛ぶ 。

「うわっ、汚ね! 風滑!」

 アラタは人食い狼の首から血が吹き出たので待避した。

「ひゃあ、ちょっと返り血がかかったな」

 とはいえ、それどころではない。アラタは踵を返してミンファの元へ向かう。

「ミンファ、大丈夫か?」

 アラタはミンファの両肩を掴んで抱き起こす。

「うっ……アラタさん。大丈夫です」

 気丈にも立ち上がろうとする。

「しばらく休んだ方が良いな」

「いえ、足手まといにだけは……」

 なりたくないと言おうとしたその時──元々、応急措置として付けていた革鎧がポトリと地面に落ち、はらりと胸を覆っていた布もほどけた。

「……!」

 ミンファの両肩を掴んでいたアラタの眼前には当然の事ながら、彼女の胸が真正面に飛び込んできた。

 ミンファは、アラタが自分の胸を瞬き一つせずに凝視するので、真っ赤になった。

 サッと胸を両手で隠す。

「み、見ないで下さい。恥ずかしい……です」

「あ……、ご、ごめん」

「す、すみません、お見苦しいものを……」

「いや、結構なお手前で」

 その台詞で、ミンファがさらに真っ赤になった。

 アラタは気まずいので、彼女から離れた。ミンファはその間に身支度を整える。

(み、見られたわ。どうしよう……!)


 アラタは人食い狼の解体を始めた。作業に没頭して気を紛らわそうというのだ。


「あの……手伝います」

 身支度を終えると、ミンファはアラタの隣に腰をおろした。

「いや、ミンファは休んでた方が。先ほどのダメージも残っているはずだ。背中を打っただろ?」

「いえ。私、アラタさんの足手まといには、なりたくないんです。それに私、結構頑丈なんです。あんなの何て事ないです」

 と、両手を上げてマッスルポーズを取る。

 それはアラタと今後も依頼を受けたいという意思表示でもあった。

「そんな事は思ってないぞ。ミンファは可愛い後輩っつーか、妹みたいな感じだし遠慮するなよ」

 だが、当のアラタは朴念仁。そんなミンファの気持ちなど分かろうはずもない。

「ガーン! 妹って……」

 その言葉にショックを受ける。

「アラタさん!」

「な、何?」

「私は、妹なんかじゃありませんからね!」

「あ、ああ、まあ、そうなんだけど……」

 ぐいっと迫るミンファの迫力に、焦るアラタ。怒っているように見えるが、アラタには、ミンファが何故そんな風になっているのか、さっぱり分からなかった。


 二人が人食い狼の解体も終わる頃、気絶していたロイズが目を覚ました。

「あれ? ボクは何でこんなとこに?」

「ロイズ、アラタさんに感謝するのよ。助けてくれたんだからね」

「なんてこった」

 ロイズは頭を抱えた。アラタに借りを作ってしまったのだ。

「いや、別に気にする事はない」

「気にするよ。あー、何でボクはこんなに弱いんだ。……あた!」

 うなだれるロイズの頭を叩くミンファ。

「どーでもいーけど。アラタさんにありがとうございます。って言ーなよ」

「え? あ、あり、ありが……」

 ロイズは苦しそうだ、

「いや、いーいー。そんなのは」

 ロイズにも何らかのプライドがあるのだろうと、不憫に思ったので、慌てて止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る