第69話 アラタ、サラを送る

 朝方、冒険者ギルドに帰ると、受け付けカウンターにサラとイズミがいた。

「じゃあ、ミンファ、ロイズ。先に俺の清算と、今回の件を済ませてくるから」

「はい、お願いします」

 ミンファはペコリと頭を下げた。

「じゃ」

 アラタは軽く手を上げる。

「はい」

 ミンファも手を振って答えるが、ロイズはそっぽを向いている。

 アラタは受け付けに向かった。

「おかえりなさい」

 サラが出迎えた。

「珍しいな。二人してこんな早朝まで」

「はい。実は……昨日ルスドさんに後を付けられまして……怖くなってまたギルドに戻ってきたんです。それで暫くイズミさんと帰る事にさせてもらったんです」

「それは、怖いな。大丈夫だった?」

 ストーカーじみている。日本なら通報されそうだが。

「アラタさん、差し支えなければ今日はサラを送ってもらえませんか? 私は少し仕事が残ってしまいましたので」

 イズミはカウンターから上半身を乗り出す。

「もちろんです。サラさんさえ良ければ」

 アラタの申し出に、サラはほんのり頬を赤くして

「よ、宜しくお願いします」

 とペコリと腰を折った。

 イズミが、サラに親指を立てていた。

「あと、今日ミンファとロイズとクエストに行ったんだが、その時にトラブルがあった」

「トラブルですか?」

「キョウキって冒険者の事なんだが──」

 アラタはキョウキとミンファについての事件のあらましを伝えた。

「それは許せませんね」

「確かにキョウキさんに関しては、冒険者から苦情が上がってます」

 サラもイズミも憤慨している。

「ギルドの方でキョウキさんにペナルティの手続きが出来ますが。どうしますか?」

「お願いします」

「アラタさんの証言は、他の冒険者よりも優位な証言になります。その点を理解して、もう少し詳しく教えて下さい」

 勇者の特権。アラタは自分が勇者なんだと実感した。

 結論から言えば、キョウキはギルドランクAからBに降格。

 また、ギルドカードの一時的な使用停止。

 ミンファに対する金銭による慰謝料。それらが今回のギルド側からのペナルティとなる。

 手続きは一日両日中に終わるらしい。

「ギルドを辞めさせたりとかは出来ないんだな」

「そうですね。冒険者はやはり必要ですし。こういった人たちを放棄してしまうと、山賊とかになってしまうので」

「なるほど。結構きわどいな」

「もちろんルールを守る紳士的な方もいます」

 ギルドランクAのキョウキが、冒険者を辞めた場合どうなるか。

「これで大人しくなってくれれば良いけどな」

「そうですね」


 アラタは採取クエストの精算を終え、シャワーを借りた。クエストに関して言えばルーティン化してきたが、今までの事を思い返せば、毎日出来るわけでは無いだろう。だからいつもサラを送る事は出来ない。

「ルスドはギルドに来てるのか?」

 アラタはサラに世話になっている事もあり、ルスドの事を何とかしたいと思っていた。

「はい、あれから来ますね。ルスドさんはクエストを受注するわけではなく、こちらに来ているだけなんです。それで隅の方に立っていて、私の事をじっと見てるんです」

「ヤバくないか?」

「はい……ちょっと気になります……」

 ちょっとではないだろう。

「彼のギルドランクは?」

「ランクBです。ルスドさんは古株ですので地道に上げてますね」

 アラタより冒険者として実力、実績、共に上のようだ。もちろんアラタも勇者の旅に付いて行く貴重な戦力を実力行使で排除しようとは思ってはいない。

 だが、あまり素行が良くないならそれもやむを得ないとも思う。だが、

「ランクBか……」

 ランクFのアラタからすれば、かなり強いのだろうと思っていた。

 とすれば、話し合いで解決するのが良いだろう。


 アラタはルスドの事ばかり話していてはサラの気が滅入るだろうと会話の内容を変える。

「そういえば、サラさんに奢る約束したな」

「はい。楽しみにしてます」

「と言っても俺はこの町に詳しくないんだ。良ければサラさんに案内してもらえれば。ってそれじゃあ埋め合わせにならないか」

「い、いえ、もちろん案内させて貰います」

 アラタはこれは何気にデートの約束ではないのかと思った。だが、それは自意識過剰というものだ。サラには男としては見られていないと考えているからである。


 ◆◆◆


 ロイズとミンファは、サラと連れだって歩くアラタを見送った。

 ミンファとしてはアラタについて行きたい気持ちがあったが、それは不自然であるし何よりアラタにしつこいと思われたくなかった。

 二人の歩く姿を見て、胸がざわざわとした。

 サラは冒険者の間でも人気のあるギルドの受付嬢だ。

 アラタが熱を上げてもおかしくない。

 だが、それよりもロイズの様子がおかしくなっていた。

「野草の採取依頼で五百リギル? そんなのアリかよ」

 そうなのだ。アラタは野草の納品と、人食い狼の素材報酬で破格の収入になっていた。

 ちなみにロイズの野草は十五リギルにしかならなかった。ミンファもロイズと同じような報酬額だ。

「だから、アラタさんと一緒に野草採取したら良かったじゃん」

「いや……しかし」

 アラタとミンファが仲良く野草採取にいそしむ姿を見たくなかった。それにアラタが、人食い狼の素材報酬を分けようと提案してくれたのだが、ロイズはそれも断ってしまった。

 ロイズはプライドだけは高かった。

 キョウキにはあんなにペコペコするのに、アラタには強気に出てしまう。

 それはアラタが自分には危害を加えないだろうという計算もあったのだ。

(ホント、ズルいよな。ボクは……)

 ロイズは心の中で自嘲した。

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