第66話 山の中で

 103号は、冒険者ギルドに入ったアラタを待っていた。

 彼は依頼を受けたのだろう、ギルドから出て来た。

 暫くアラタがギルドの前で待っていると、二人の冒険者が出てきた。

 どうやら一緒にギルドの依頼に行くらしい。

 女の方は見覚えがあった。確か一度アラタと野草採取の依頼に出掛けた冒険者だ。

 103号から見ると何て事のないランクの低い冒険者である。

 そのまま王都を出る。103号は厳しい訓練を生き抜いてきた。103号という数字からそれくらいの大人数の部隊と思われるかもしれないが、単に百三人目の隊員であるというだけである。現在は十人しかいない。残りは全て訓練や任務で亡くなっている。

 

 道中、魔物を狩り、解体して素材を入手するアラタ。103号から見ても手練れの冒険者に見えた。

 アラタに付いてきた二人の冒険者はアラタの冒険者としての能力に付いていけない様に見える。女の冒険者はそれでもアラタに付いていこうと必死で魔物に食らい付いている。

 だが、男の方は怯えているようで、へっぴり腰である。


「あれで冒険者か……」


 選んだ職業が間違っているとしか思えなかった。

 いつもの場所で、薬草を採取していた。

 ぶらぶらと歩いては、薬草を摘む。手慣れた感じで選別して集めているのが分かる。

 アラタに付いてきた冒険者は、彼と離れて野草の採取をしている。

 どうやら男の方が女の冒険者をアラタから離そうとしているように見えた。

 何故あのような使えない冒険者達と共に活動するのか103号には理解出来なかった。

 どう見ても得るモノなどなさそうだし、むしろ足手まといと言っても過言ではないからだ。

 しばらく作業していたアラタはテントを建てる。スクロールを使ってテントの周りに結界を張る。

 使っているアラタはその効果はあまり分かっていないが、103号から見ると結界を張られると、アラタに対する意識が消えていくのだ。テントは見えるが、見えていないような。自分の意識から彼の存在が阻害されるのだ。

 103号はなるべくアラタに意識を集中していた。

 スキル【探知】が効果を発揮する。

 そうすると何となく彼が、焚き火をして、肉を焼いてパンに野菜と挟んで食べているのが、ぼやーっと見えた。

 103号はグーっとお腹が鳴った。よだれも口の中に溢れてきた。お面の下から滝のように流れる。

「お腹すいた……」

 103号は自身が付けているお面によって変声された声で呟いた。


 ◆◆◆


 アラタは夜食を終えた後、コーヒーを飲んでいた。

 そこで、スキルについて考えていた。サラとのやり取りの後にその事ばかりが頭にこびりついていた。

 スキルとはこの世界では無くても生きていけるが、あった方が尚良いという能力だ。

 例えば、小中高と長いことバスケットボールをしている男子が、高校から始めた男子にレギュラーを取られてしまう。それがスキルの有り無しの差になるという。

 スキルがなくてもバスケは出来る。だがスキルのある奴には絶対に勝てない。要するにモノが違うという言い方になる。

 こちらの人間と、異世界召喚された勇者のスキル取得やレベルアップの難易度についても差がある。

 こちらの人間は、スキル取得、その後のレベルアップに時間がかかるようだった。

 アラタは自分が、あっという間にスキルを取得して、それが身体に馴染んでいくのが分かった。例えば、スキル【料理】だが取得した当初は、元々自炊をしていたから、これくらい出来ると思っていたが、いざスキルを設定で使えないように切ってみたら、美味しくない料理になっていた。

 つまり元々アラタは料理をしていたが、あまり上手くなかったという事なのだろう。

 それとも、食材が微妙に違うとか。何らかの補正がかかっているのか。

 アラタは元々低スペックであった。とも考えられる。

 剣道もやっていたが、別に強くなかった。

 大会に出ても、3回戦までで敗退していた。本当に何て事のない男だと自分でも思う。しかし、スキルを取得してから自分の能力が劇的に上がったのを実感した。

 これは異世界召喚された者にしか味わえないのかもしれない。こちらの人間は少しずつしか強くなれないからだ。

 もちろん、大魔法使いゲイリー・オズワルド、剣聖アイザック・グローリア、騎士団長のクロエなどは天才の部類だと思う。

 

 一緒に魔王討伐する旅に出る勇者の事を考えた。彼らはアラタを下に見ている。

 その事には気付いていた。特に男連中はそれが顕著に現れていた。

 女達は、アラタを特に気にしていない、というか素より相手にされていない感じだ。生活スキルがない事で彼らの旅は苦痛の多い旅になる事だろう。

 だが、アラタはそれはどうでも良かった。辛いなら諦めるだろうから。

 ただ、スズの事を思うと心配になってきた。

 彼女は自分の味方をしてくれていた。

 スズはどうするのだろうか? アラタはスズに対して好意を感じていた。

 ただ、アラタ自身は琴子に振られたばかりで今どうこうしたいという気持ちにまだなれない。

 だが、スズにしろクロエにしろ、アラタは彼女らに好意があるし、時期がくれば恋愛だってしたいと考えていた。

 もちろん、その時に付き合えるかどうかなんて分かった事ではないが、それは先の話で、今はそれどころではない。


 ◆◆◆


「ちょっと、何で邪魔するの?」

 ミンファはロイズを睨んだ。アラタがテントで小休止しようと言ったのをロイズが断ったのだ。

「邪魔って、何?」

「惚けないでよ。私、アラタさんと野草の採取しようと思ってたのに。あんた全部邪魔するじゃない」

「でも、野草採取はボクと来たんだろ? 一人で来たアラタにまとわりついたら彼が迷惑するんじゃないか?」

「何言ってんのよ。元々、それはあんたが……あー、もお!」

 ミンファは山の斜面を上がって行く。

「え? ちょっ。ミンファ! どこ行くの?」

「頭冷やしてくる! 一人にして!」

 そう言ってロイズから離れた。

「ミンファ……」

 確かにアラタとミンファが近付くのを邪魔していたロイズである。

 ミンファは一人になりたいと言ったが、こんな夜の山間に一人にしては魔物が出たらどうなるのか。

 アラタがいれば対処出来るのだろうが、自分とミンファでは追い払うのがやっとであろう。場合によっては死んでしまうかもしれない。

「やっぱり、アラタの側にいた方が良かったかな」

 ロイズはミンファをアラタに取られたくなかったが、アラタが人食い狼を討伐したのを見た事で、実力を認めざるを得なかった。

「勇者ってズルいよな。何にも努力とかしないで、強いんだもん。ボクもあれだけ強ければミンファだって……」

 だがそれでもロイズにはミンファを諦めるという選択肢はなかった。

 幼なじみというアドバンテージは何よりも勝り、アラタに例えミンファが興味を持とうと、それは一時の気の迷いであると考えていた。

「ミンファ」

 ロイズはミンファの歩いた方へ向かう。

 がさりと茂みの中から人影が見える。だが、それはミンファではなかった。

「ばあ!」

「キョウキ?!」

 何故? ロイズは混乱した。キョウキはロイズの前に立ち塞がった。そして一発ロイズをぶん殴った。

「へぶっ!」

 ロイズは、岩壁に激突してそのまま動かなくなった。

「ふん」

 キョウキは鼻で笑うとロイズが向かおうとした所へ足を向けた。

 その顔は欲望にまみれた表情をしていた。

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