第65話 ミンファは融通がきかない

 アラタが冒険者ギルドに入るのを見て、ミンファは席を立った。

「ミンファ、ホントに行くの?」

「もちろんよ」

 会計を済ませて大通りを横断する。ロイズはミンファに付いて行った。

 ギルドのドアノブにミンファが手をかけた時に、ロイズはその手を掴んだ。

「何? ロイズ」

「分かった。だったらボクと野草の採取依頼を受けよう。二人で訓練がてらギルドに行ったら、たまたまアラタと同じ採取依頼を受けたって事にすれば良いんだよ」

「何言ってるの? ズルじゃない」

「だってウチのパーティーはまだ駆け出しなんだよ? ミンファは戦士として戦力になってるのに手放すわけないだろ? 理屈が通れば見逃してくれるよ」

 ミンファはうつ向いて黙っている。何だか皆を騙してるようなそんな気になっているのだろう。そういった腹芸の出来ない所が彼女の良い所でもある。

「そ、それにアラタだって、迷惑するんじゃないかな? 一緒に依頼に行ったらパーティーを首になったなんて」

 ハッとしたミンファである。確かにそれは押し付けがましい。アラタが自分を避けるようになるかもしれなかった。

「それもそうね。ロイズ、あんたの提案に乗るわ」

「良し! じゃあ善は急げだ」

 二人はギルドの建物内に入った。ロイズはヒヤヒヤした。ミンファは割りと無鉄砲に自分の感情に赴くまま突っ走るタイプだからだ。

 今回もパーティーを除籍になったらそれは仕方ないとばかりに行動したに違いなかった。


 受付に向かうと丁度アラタが出ていく所であった。

「あ、アラタさん。こんにちは」

 ミンファが駆け寄った。それを見たロイズは胸が締め付けられた。

「こんにちは。今日は彼と?」

 アラタはロイズを見た。ロイズは思わずアラタを睨んでしまった。

「ええ、アラタさんは今日も野草の採取依頼に行くんですか?」

「ああ、そうだ」

「私達も野草の採取依頼に行くんですけど、ご一緒しませんか?」

「良いけど。彼はそれで良いのか?」

 アラタはロイズを見た。

「ボク達はボク達で依頼を受けるので、アラタの報酬は減りませんから安心して下さい」

 とロイズは言った。

「別にそういう意味じゃないんだが」

 アラタは戸惑っていた。

「アラタさん、私達依頼を受けて来るので少し待っててくれませんか?」

「ああ、構わないけど」

「じゃあ、行ってきますね」

 そう言ってミンファはロイズを連れてカウンターに向かう。

「ロイズ、あんたアラタさんに変な事言わないでよ。失礼でしょ? それに私達より年上なんだし、『アラタさん』でしょ?」

「何だよ? ホルンやキョウキだって年上だろ? ミンファはさん付けなんてしてないじゃないか」

「ホルンはパーティーメンバーだし、キョウキは尊敬出来ないから良いのよ。何か文句ある?」

「ないけど……」

 ロイズは納得出来ない。アラタが尊敬に値する冒険者とは思えなかったからだ。


(勇者ってだけで弱そうだし、顔だって大した事ないじゃないか。ボクとどう違うって言うんだ)

 ロイズは心の中で悪態を付いた。

「サラさん、私達もアラタさんと同じ野草の採取依頼を受けたいんだけど」

「はい、今手続きしますね」

 サラはてきぱきと作業をする。なんだか機嫌が良い様に見える。

「サラさん、何か良い事あったの?」

 ミンファはホンの少し嫌な予感がした。女の勘で、アラタが関わっている事ではないかと思った。

 サラはミンファの表情を見て、「別にないですよ。いつも通りです」と言った。

 二人の依頼を受注すると「いってらっしゃいませ」と見送った。

「サラ、あのミンファって子、ほっといて良いの?」

「はい? 何がです?」

 早速イズミが声をかけてきた。この手の話が大好きなのだ。

「アラタさんは私のモノなんだから、彼の周りをウロチョロしないでって言いなさいよ」

 イズミはニシシシと笑っている。

「そ、そんな事言えるわけないじゃないですか! それに私のモノだなんて。アラタさんはモノじゃありません!」

 サラは真っ赤になって抗議した。


 キョウキはギルド内にいて、アラタやミンファの姿を目敏く見つけた。

 ギルド内にあるお食事処で今日の依頼を済ませて飲み食いしている最中である。

 キョウキは、ミンファの身体のラインを見るに付けてムクムクと欲望が上がってくる。

「キョウキさん、どうしたんです?」

 取り巻きの冒険者がキョウキがイヤらしい表情をしていたので怪訝な顔をする。

「いや、何でもねー……」

 暫く眺めていると、ミンファとロイズはカウンターで依頼を受けてギルドを出ていった。

「ふーん」

 キョウキは自分の武器を持って立ち上がる。

「キョウキさん。どうしたんです?」

「俺、帰るわ。お前らは遊んでけよ」

 そう言って、ポケットから金を出してテーブルにばら蒔く。

「ゴチになります!」

 取り巻き達が全員立ち上がり口々に礼を述べる。

「おう」

 キョウキは大物のような態度でギルドを出ていく。

「あんな弱そうな男が好みか? だが、あれでは先がないだろ。そういう所をおしえてやんねーとな。冒険者の先輩として身体でな」

 とワケの分からない事を言っている。

 キョウキは欲望さえ満たせれば良い。欲望に忠実に生きる男であった。

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