第40話 即席パーティー
二人は森の中を歩いていた。夕方を過ぎると辺りはあっという間に真っ暗になっていく。
ミンファはランタンを付けた。
アラタにはスキル【暗視】があるために、月明かりの中でも充分に活動できた。
今回は片手剣である。攻撃力は低いが取り回しが便利な剣である。値段も安価で、個人での整備もしやすい。
「え? アラタさんって年上だったんですか?」
アラタが年上だと知って、言葉使いが変わった。
ミンファは十八歳だという。
「ほえー、同い年か年下だと思ってました」
「俺って、そんな子供っぽいか?」
「まあ、見た目の問題ですよ?」
ミンファはいたずらっ子みたいな顔をしていた。確かに童顔とはよく言われる。
「……でも、ランクFで私を助けてくれたんですね」
「助けたっていうのか? あれで」
アラタとしては注意した程度の話だ。実際はクロエが追い払ったと考えていた。
「私は、アラタさんに助けてもらったと思ってますので」
ミンファがぐいっと近づいて言った。
「まあ、今思えば、考えなしだったか」
あの時キョウキがギルドランクAの冒険者だとは知らなかった。
とはいえキョウキは自分よりも強そうであった。それは分かる。
日本にいた時の自分なら、あんな男は避けて通る筈であるが、どうやら異世界に来てから、どうも恐怖心が薄らいでいる。
そのせいで度々、危険な目に会っている気がしてならない。
「アラタさん。その考えなしのお陰で助かったんです。私はアラタさんが持っているモノに助けられたんです」
「それは何だ?」
「勇気ですよ」
「勇気か……俺にあるのか?」
「え? アラタさんは持ってますよ?!」
「いや、そんな事は……」
勇気なんてものがあれば、琴子を取り返す気概があろうというものだ。
暗闇を歩いていると人食い狼が出た。
何故こんなに繁殖しているのか分からないが、デカいだけでそこまで脅威ではない魔物なんだろうというのが、アラタの人食い狼に対する評価である。
国周辺に設置された魔物避けの結界石の効果がほんの少し薄れるような距離で、人食い狼が近づけて、天敵が近づけない絶妙な場所になっているのだろう。
何せ、結界石は魔物が強ければ強い程、その効果を発揮するのだ。
ところが事態はそんなに単純でもない。
例え強い魔物が近づけないといってもそれはアラタの感覚である。
人食い狼自体は決して楽に討伐できるような魔物ではない。
例えていうなら、今回魔王討伐に同行する冒険者がパーティーを組んで相手するような魔物であり、決して闇夜で対峙していい相手ではないという事だ。
ミンファは恐怖した。ランクFの冒険者では対処できない魔物である。
だが、アラタには関係がない。
「
アラタは攻撃魔法を放つ。
暗闇の中で闇の魔法。多少の青白いエフェクトがかかるが、見えにくい。
何発かヒットした。
光は物理的な攻撃力がなく意味がないとしても、五属性の魔法が、どの程度なのか試した。
結論からいうと、属性魔法の耐性は人食い狼にはなく、光属性以外の全ての属性魔法のダメージが通った。
なるべくヒットさせて、片手剣で仕留める。
攻撃力が片手剣では弱いので、魔法と組み合わせながら手数を増やした。
ミンファも剣を構えていたが、ほとんど戦闘には参加できてはいなかった。
ミンファはアラタのように魔法と剣を組み合わせて戦う冒険者を初めて見た。
「ほえー、すごい! アラタさんって魔法戦士なんですか?」
「そういうワケではないが……あまり言いふらさないで欲しいけどな」
「あ、そうですよね。冒険者は能力は知られたくないですもんね」
今回は仕方なかった。アラタは片手剣の装備であったし、魔法を組み合わせて戦うしかなかったからだ。もちろんミンファがクエストに動向するのだから、武器も替えれば良かったのだが、そこまで気が回らなかった。
それでもミンファが戦力にならなければ、魔法と組み合わせて戦う事には変わりない。
ミンファの口が軽ければそれまでの話である。だが、それならばそれで仕方ないともアラタは思っていた。
出し惜しみして死んでしまえば、それまでなのだ。
人食い狼を仕留めると、戦闘時に手放した背負い袋を拾い、中からナイフを取り出し人食い狼の解体を始めた。
素材報酬になるからだ。何度か解体したのでそれなりに手際よくなっている。
「あ、アラタさん。私、手伝います」
アラタの戦闘を見て、その余韻に呆けていたミンファが気を取り直して、声をかけた。
「良いのか?」
「はい、私はカデナ村っていう村の出身なんですが、自給自足で賄っていたので、動物も捌いたりしてたんです。スキル【解体】も取得してるので」
「そうか。だけど、その情報は隠しておくべきじゃなかったのでは? スキルは冒険者にとっては生命線だ。俺に教える必要はないだろ?」
「良いんです。アラタさんがいなければ、今頃【人食い狼】のお腹の中ですよ。言ってみれば命の恩人ですね」
「そもそも俺に付いてこなければ、こんな事にはならなかったぞ?」
「それでもです!」
ミンファは力強くそう言うと、ナイフで人食い狼の解体を始めた。
手際はアラタよりも全然良い。丁寧に無駄なく解体されていく。また、ミンファは解体方法を説明しながら作業してくれた。
それはアラタが図書館で読んだ魔物の解体方法よりも優れた解体方法であった。
やり方は人それぞれであるが、ミンファの解体は上手で、何より血に汚れない。
血が吹き出る部位などを上手くかわして解体しているのだ。
アラタが解体すれば、血でベトベトになっていただろう。
「ミンファ、良かったら次の人食い狼は、解体の手解きをしてもらっても良いか?」
「え? 良いですけど……帰らないんですか? こんな魔物と遭遇した後だと普通は撤退しますよ?」
「何でだ? まだ野草の採取をしてないぞ?」
「ほえー」
ミンファは驚いた。
それから野草の採取場所に着くまで、二回、人食い狼と遭遇した。
アラタは人食い狼を討伐して、ミンファに解体方法の手解きを受けた。
するとステータス画面にスキル【解体】の取得が可能になったので取得した。
どうやら人から手解きを受けるとスキルの取得も出来る様である。
だが、取得方法はランダムなのでこれといった攻略法はないようだ。
欲しいスキルは本で読んだり、試したり、教えてもらったりしていれば、その内どこかで取得出来るようになるのかもしれない。
野草の採取場所に着いた。
二人で野草を採取する。ミンファはそれなりに野草には詳しかったが、それは村で人から見聞きした程度の知識であった。
本で勉強はした事がないという。やはりこの世界の人間は本をあまり読まないらしい。
アラタはミンファの採取した野草を仕分けた。
先程の解体の手解きのお返しというワケだ。
ミンファは興味深くアラタの野草の説明を聞いていた。
採取作業が終わるとテントを出した。
なるべく、テント生活に慣れておきたい。
アラタは今後、パーティーを抜けた時の事も考えていた。
林田のノートには勇者パーティーを抜けると国に追われた生活になるとも書いてあったので、アラタはその可能性もあるのかもしれないと思っていた。
もちろん穏便に勇者パーティーを抜けれるのならば、それに越したことはない。
勇者が魔王討伐の旅に出る日に、自分がこの国でどんな扱いになっているのか想像が出来ない。
異世界で来たばかりのアラタにはまだまだ情報が足りなかった。
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