第39話 ミンファは、アラタについていく

「ねぇ、あんた。何してるの?」


 カウンターで手続きをしていると、ミンファがアラタに声をかけた。


「ミンファさん」


 サラは彼女の所属するパーティーを担当しているので顔馴染みである。


「アラタさん。こちらはミンファさんといって、【草原のあかつき団】というパーティーに所属する冒険者です」


「どうも。アラタです」


 アラタは会釈した。


「さっきはありがとう。本当に助かったわ」


 ミンファはお礼を言ったが、当のアラタは、何が? と首を傾げていた。


「キョウキから助けてくれたじゃない」


「助けたといっても注意しただけて、別に大した事はしてない」


「謙虚ねぇ。冒険者なら謝礼くらい寄越せって言いそうなモノなのに。で、何してるの?」


「野草の採取クエストを受注してるんだが」


「え?! 今から? もう暗くなるよ」


「まあ、この時間からしかできないからな」


 アラタには勇者の訓練などがあって昼間にギルドの依頼を受ける事は出来なかった。


「じゃあ、結構ランクが上なんだ。それであのキョウキに……へえ」


「ギルドランクならFだけど?」


「え? えふーーー?!」


 ミンファがすっとんきょうな声を上げた。

「あんた、ギルドランクFであのキョウキから私を助けてくれたの? さ、さらに今から夜の森に入るの?!」


 ミンファは驚きを隠せなかった。


「アラタさん。これ、麻袋です。追加しますか?」


「そうだな。二枚程」


 アラタは手数料を払って麻袋を追加購入した。


「ねえ。アラタって言ったよね? 冒険者になってどれ位なの?」


 アラタとサラが手続きをしているのに、ミンファが割って入ってくる。


「多分、十日くらいかな」


「十日? ねえ、サラさんも止めないと。夜の森は初心者には危ないじゃない。この人、何も分かってないんじゃないの?」


「ミンファさん。私達、ギルド職員は冒険者の意向には逆らえませんので。提案はしますが、それも本人の自由意思で選択してもらうしかないです」


 サラは、アラタが能力的には夜間に依頼を受けても大丈夫なのは分かっていたのだが、それを故意に他の冒険者に伝える事はしない。

 なぜなら、冒険者の能力というのはそれだけ価値のある情報となりうるからだ。


「ふーん。じゃ、私も行く。アラタ、私と臨時のパーティーを組みましょ」


「「え?」」


 その提案にアラタとサラがハモった。


「アラタ。私これでも三ヶ月は冒険者やってるのよ。だからアラタより先輩よ。一人よりも二人で行った方が安心でしょ?」


 ミンファが自分の胸をポンっと叩いた。


「そうですね。アラタさんは一度遭難されてますし。何かあった時に誰かいるのは安心できます」


「え? あんた遭難した事あるの? 危ないわねえ」


「……冒険者に危険は付き物だろ?」


「そうだけど……。で? どうする? 私と行くでしょ?」


 ミンファはアラタにぐいぐい迫る。顔が近い。おまけにミンファの胸の谷間も見えて魅力的で、思わずアラタは頷いてしまった。


「よし! サラさん。私もアラタのクエストに加えてちょうだい」


 そう言って自分のギルドカードを提示した。


「はい、承りました」


 そう言ってサラは手続きをする。


「アラタ、私ちょっと宿に装備を取りに行ってくるから王都の正門で待ってて」


「分かった」


 アラタとミンファはギルドから出ていった。


「いってらっしゃいませ」


 サラは二人を見送った。ソロで依頼に行くよりは安心である。アラタに能力があると分かっていても心配であったサラはほっとしていた。


「サラ。あんたあれで良いの?」


「はい? 何がです?」


「何であの子を同伴させたの? アラタさんの能力なら一人で充分な成果を上げられるわよ?」


「でも、不測の事態という事もあるし、ミンファさんも冒険者として慣れてきてるので、それなりに──」


「ちょっと、何言ってんの?」


 イズミはサラの発言を遮った。


「何がですか?」


 サラは首を傾げた。


「あなた、本気なの? さっきの子。ミンファだっけ? アラタさんに興味津々なの分からなかった? それをあなたは、ホイホイ手続きして。良いの? 夜の森に若い男女が二人きり。何があってもおかしくないわよ?」


「え? え?」


 サラは一瞬、何を言われているか分からなかった。


その時「あの、すんません」と声をかけられたサラだ。

 見るとカウンターで待ってる男がいた。

 格好は冒険者ではない。どちらかと言うと粗末な服装で、手や顔には汚れがあって、黒ずみがあった。


「さっきチラッと聞いたんだけど、下水道の掃除の仕事があるって」


「ありますよ。受けますか?」


「ぜひ」


 すると、遠回しに見ていた仲間もカウンターに集まった。

 五人で行くと言う。全員、どう見ても冒険者ではなかった。

 ギルドカードを提示してもらい、サラは説明した。


「下水道の掃除は朝の十時から十八時までです。十時に下水道出入り口に集合して下さい。担当の者が鍵を開けます。歩合制になっているので、配布されたゴミ袋の量で、支払いが決まります。十八時までは、出入り口の鍵は閉められます。これは以前、不正があったからです。ゴミを他所から持ってきた人がいるからです。食事は支給されます。出入り口に入って奥に、休憩所があります。掃除するエリアに制限はありません。何か質問ありますか?」


「ゴミは砂とか石も入るのか?」


「それはダメです。袋は網目になっていて、それをすり抜ける物は基本的にダメです。木材はゴミになります」


 五人とも頷く。


「期間はどれくらいやりますか?」


「そうだな。二週間だ」


「分かりました。では明日からお願いします」


 サラがサクッと手続きを済ますのを見て、同僚の先輩であるイズミは

(本人は気付いてないだろうけど、さっきのアラタって子とあからさまに扱いが違う)

 と思った。

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