第二章

第35話 異世界召喚装置

 *注・ここまで、「今日勇者を首になった」をお読みいただきありがとうございます。

 色々ありまして、これ以降のストーリーは現在刊行されている書籍内容を元に書かれています。


 引き続き、よろしくお願い致します。





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 大聖堂の数百メートルに及ぶ地下には秘密の空間がある。大規模な魔力装置。複雑な幾何学模様と古代神話時代より伝わる文字で描かれた数百に及ぶ魔方陣。

 黒いフードを被った多くの魔法使いが、作業を進めている。

 蒸気が立ち込め、視界は悪く室温、湿度は高い。三十分もここにいれば、汗だくになる。

 そこに目立つ二人の人物が現れた。

 王女ソフィア・メリル・アルフスナーダ。宰相カル・ケ・アルク。の二人である。


「既に現在、十二年後の勇者の異世界召喚に向けて、魔力の充填を始めております」


 カル・ケ・アルクは大仰な仕草でソフィア王女に話しかける。


「そうですか。ご苦労様です」


 柔和な笑みを浮かべるソフィア王女であるが、内心はこの男が苦手であった。

 その男、カル・ケ・アルクは尖った鼻と出っ張った頬骨や鋭い目つき、丸眼鏡というアイテムで優男風を装っている。

 背が高く一八十センチメートルはあるのではないか。手足は細くて長い。それが不気味さを醸し出していた。

 三十二歳という若さで宰相にまでのしあがった。元々はスラムの出身で、どうして彼がここまで登り詰める事ができたのか謎である。

 彼の出世の壁となる人物は全て排除されていったという黒い噂もあり、信頼できるとはお世辞にも言えない。

 確かに彼の対抗馬となる人物は、不可解な死を迎える事が多々あった。

 だが、証拠はなくそれらの事件は闇に葬られる事となっている。

 そのほとんどの醜聞はソフィア王女の耳に届く事はないが、彼女は王族の持つ直感に従って彼が苦手なのだ。この男は信用出来ないと。


「勇者様方への待遇はきちんとしてますか? 失礼のないようにしていただきたいですわ」


「はい、それはもちろんでございます」


 いちいち大仰な仕草で答えるこの男の事は苦手であるが、優秀な男には変わりない。


「それにしても、ここはいつ来ても落ち着かないわね」


「そうですか? 魔法工学の粋を集めた異世界召喚装置ですよ? 素晴らしい景観じゃあありませんか?」


 大聖堂地下に鎮座する異世界召喚装置は数百年の昔からこの場所にあった。

 現在の魔法工学ではこれを再現して作る事は出来ず、いつ誰がどうやってこの装置を製造したのかは分かっていない。

 だが、脈々とその使用方法だけが伝えられ、今に至る。

 各地より集められた魔石やダンジョンコアによる充填、または大人数の魔法使いが毎日魔力を注ぎ込む。

 上記の様な方法で魔力を十二年の歳月をかけて充填し、ようやく異世界より勇者を召喚できる装置である。

 一体どれ程の魔力を必要としているのか皆目見当もつかない。


「今回召喚された勇者様方が魔王を討伐してくれれば、この装置も必要なくなるでしょう。そうすればここに貯められた魔力も民に友好的に活用して豊かな生活が営めるハズです」


「そうですね。さすが心優しきソフィア王女です」


 だが、そう言いながらもカル・ケ・アルクは、今回も魔王討伐は失敗するだろうと考えていた。

 報告された書類に目を通したが、召喚された勇者は一般の取るに足らない学生と社会人である。

 何故か分からないが、勇者はニホンという国から召喚される事が殆どであるが、この国の人間は大体が、戦士というには程遠い人物像ばかりである。

 ソフィア王女は勇者に妄信的であるが、とても魔王討伐の旅に耐えられるような者達とは思えなかった。

 そしてカル・ケ・アルクにとって、異世界召喚は事業の一つでしかない。

 彼にとって重要なのは、いかに出世していかに自分の欲しいモノを手に入れるか。

 それに終始しているのだから。

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