第36話 武器屋

「かー。ボロボロじゃねぇか? 一体全体、何とやりあったらこんな事になるんだ」


 アラタのブロードソードと片手剣を見た武器屋の主人は悪態をついた。


「人食い狼とブルベア」


「嘘つけー! ルーキーがそんな魔物、相手にできるワケねーだろ!」


「そうなのか?」


「ったく。ホラ吹くのも大概にしとけよ」


「吹いてないし……で、直せるか? 自分でも砥石で研いでみたけど上手くいかないんだ」


「まあ、素人だからな。ちょっと待ってろ」


 ったく、最近の若いもんは……ぶつくさと言いながらもアラタの剣を研いでくれた。


「ジジィかよ。あんたはまだそんな年じゃないだろ……」


「お前に比べりゃ、おっさんだろ」


 四十代にさしかかった年齢と聞く。働き盛りの主人は愛する嫁と小さい娘がいるらしい。

 アラタは店内を見渡した。剣だけではない。ランスや弓矢、ボウガン、メイス、斧、刀。ゲームでおよそ出てくる様な武器が目の前にずらりと並んでいた。


「こうして見ると色んな武器が置いてあるな」


「そりゃあな。冒険者のニーズにあわせていかねぇと商売やっていけねぇからよ」


 王都という事もあり、冒険者の人数も多い。数千人の冒険者がいると聞く。

 そのために冒険者ギルドの支店も幾つかあり、それにならい必然的に武器屋や、道具屋の店舗数も増えていく傾向になる。

 それぞれの店が趣味趣向を凝らして熾烈な生き残りをかけて競争しているのだ。

 アラタは冒険者ギルドの本店を贔屓にしていた。最初にギルドカードを作った場所であるし、滞在する騎士宿舎と勇者の訓練を行う闘技場の間に位置するので、立地も良かった。

 ちなみにここ冒険者ギルドのある大通りは幾つもの武器屋や道具屋、酒場等が建ち並び人通りも多く賑わっている。

 アラタが今いる武器屋は元冒険者のイザベラから紹介された。

 新参ものの冒険者は、物の価値を知らないので、店によっては事もあるというが、主人と仲の良い冒険者の紹介となれば邪険にはされない。

 つまり、ルーキーは経験豊富な冒険者と仲良くなっておくと良いのだ。

 ただその相手は選ばねばならないが。

 その点イザベラは、間違いのない善良な元冒険者である。名前を出したら、武器屋の主人は「あのイザベラさんか?! 元気にしてるのか?」と破顔した。

 どうやら、主人が新人の頃お世話になったらしい。武器に関するノウハウも教えてくれて感謝しかないというのだ。

 イザベラさん、どれだけ面倒見の良い人なんだろうか。

 ちなみにここの武器屋の主人は新人の冒険者からボルような真似はしない。

 何でも「新人はいずれ経験者になるからよ。面倒を見てればその内高い商品を買ってくれるようになる。ま、それまで生きてればの話だがよ」との事だ。

 アラタは一振りの剣に目が行った。豪華な装飾が施してあり、店の一番目立つ奥に鎮座してある。


「ライジンオルソード。二万リギル……高いな!」


「鍛冶師の名家であるストーク公が製作した逸品だぞ? 付与魔法も施されて、切れ味、耐刃、雷属性も付いた優れもんだ。客寄せに置いてあんのさ。だから仕入値の倍はふっかけてあるけどよ」


「それはまた大層な事だな。誰が買うんだ? こんな剣……」


 アラタはそう言いつつも手を伸ばす。


「おい! 汚ねー手でさわんじゃねーよ」


「いいじゃないか。客だぞ?」


「お前みたいなルーキーじゃあ手の出ない商品だろうが。その辺の既製品じゃねーぞ? お前が触ったら剣の格が落ちる! しっし」


「俺は犬か」


 アラタは突っ込みを入れたが自分では手が出ない価格なのは事実である。


「ったく、目を離すとロクな事やりゃしねぇ。ほら出来たぞ」


 そう言って主人は研ぎ終えたアラタの剣を渡した。


「ありがとう。幾らだ?」


「要らねーよ。研師じゃねぇし。その代わり何か買っていけ」


「分かった。そうするよ」


 アラタはナイフを買った。

 研いで貰った剣は、それはプロの研師に研いで貰った方が切れ味も良いだろう。だが、見た感じ良く研がれていた。

 卑下する程、悪い腕ではない。

 要するに主人は口は悪いが人が良くて面倒見が良いというだけの話なのだ。


「ルーキーに優しい店。イザベラさん流石だな。いい店知ってる」


「おい、おだてても何も出ねえぞ?」


 そう言いながらも武器屋の主人は笑顔だった。

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