第34話 アラタ、スズと採取クエストに行く
アラタは一度、道具屋に戻ってスズのためにテントを購入した。
それから、スクロールという一度だけ魔法が使える巻物を購入した。
使い捨ての道具ではあるが、使った後に道具屋に使用済みの巻物を持っていくと、購入額の一割が戻ってくる。
アラタが購入したのは【結界】のスクロールである。休憩中にモンスターに襲われないように結界を張るためだ。
アラタはスキル【徹夜】があるので、夜通し活動出来るが、スズは出来ないので、アラタはそのために配慮した。
アラタはスズを割れ物の様に大事に扱っていた。
だが実際、森に出て二頭の人食い狼に遭遇すると、一頭にアラタが対応し、スズは残りの一頭をレイピアで対応出来ていた。
スキル【剣士】を取得したと言う。
スズは勇者なので、けしてか弱い女子ではないと言う事だ。
ただ、レイピアは攻撃力はあまり無いので、アラタが、駆けつけるまでの牽制程度ではあったのだが。
素材報酬は諦め解体しなかった。
女子がいて、手をモンスターの血で汚して行くのは気が引けたからだ。
ただ、これもアラタの勝手な思い込みで、スズは冒険者なのだからと、割りきる性格だ。
要はリアリストなのだ。
夢見る少女ではない。
採取するポイントに到着したら、テントを設営して、スクロールを使用した。
テントの四隅に水をたらして、スクロールに魔力を加えると、結界が張れるという。
設営が完了したら、スズはテントに入った。
アラタは採取をするために行こうとすると、スズが、「アラタ、ちょっといい?」と声をかけられたので、アラタはテントの中に入った。
「剣士レベルが、3から上がらないんだけど、アラタ何か知らない?」
経験値はあるが上がらないと言う。
アラタは図書館で調べた知識を教えた。
「それ、限界値だな」
「限界値?」
人には向き不向きがある。
例えば高校生で野球をやって、レギュラーになれる者もいれば、なれない者もいる。
「人によって能力に限界があるのね? 私は剣士には向いていない?」
「そう言う事だ。スキルを持ってる人といない人でも差はあるが、レベルも絶対に最後まで上がるワケじゃない」
長くやってれば上手くなるワケではない。
それが、才能として現れる。
この世界はスキルとしてそれを見る事が出来るのだ。
「でも、生き残るには剣士スキルも必要だから、取っておいて正解じゃないか?」
「そうね。確かに」
「スズは他に……」
──持ってるスキルあるのか? と聞こうとして止めた。
人に聞くという事は自分のスキルも明かさねばフェアじゃないからだ。
別に教えてもいいのだが、教えてしまうと、彼女に迷惑をかけてしまうという懸念もあった。
「何?」
「いや……」
「何なの?」
スズが、ぐぃっと四つん這いで近寄ってきた。
テントは密室であり、今は二人きり。
やましい気持ちになりそうだった。
「あー、俺はスキル【剣士】をカンストしてるんだ」
話を続ける事で、気持ちを紛らわす。
「それで、あんなに戦えるのね」
「それなりに戦って【練度】も上がったと思ったんだけど……」
アラタはドキドキしている。顔が近い。
「……イザベラさんに簡単に負けてしまった」
口が勝手にうごく。
「イザベラさんって、あのお婆さん?」
「……そう。イザベラさんって元冒険者なんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「? どうしたの?」
思った以上に顔が近かった。一人用の狭いテント内。
アラタにスズの息がかかった。
すっげー美人……。
スズを壊れ物の様に大切に扱おうというアラタでさえ、その誘惑に抗えない。
アラタはスズの頬に手をやって、ぐっと唇を彼女の唇に近づけていく。
特にスズは抵抗する事は無かった。
本当に僅かで、お互いの唇が重なりそうな所で、
「……アラタ、本気?」
とスズは言った。
本気?
それは本気で私に何かするの?と言う意味に取れる。
それは本気で私が好きなの?と言う意味にも取れる。
両方なら、本気で私が好きだから、何かするの?とも言えた。
これが、武内ツバサなら、
「本気だって」
とか言ってスズを押し倒してしまうだろう。
だが、アラタは、急に目が右に左に揺れ動き、明らかに挙動不審になった。
そして、
「お、俺、野草の採取に行ってくる」
と言って、テントからピョンと飛び出していってしまった。
「アラタは意気地がない」
と一人呟いた。
「でも、私も抵抗しなかった。なぜ……?」
スズは自問自答するが、その答えは返ってこない。
ほんのりと頬が赤くなっている事にも気がつかなかった。
◆◆◆
結局、朝方までアラタはテントに戻らなかった。
夜通し、人食い狼に襲われ討伐しつつ、薬草採取に精を出した。
朝になりスズは目を覚ました。
アラタの買ったテントは、小さいが、マットも敷いてあり、暖かった。
これはアラタが、全額叩いてスズのために高級な一人用テントを購入したからだ。
思えば自分から付いて行くと言いながら、あまり役に立っていないスズだ。
自分でもどうなのかと思うが行動せずにはいられなかった。
だが実際、アラタはスズがいる事で、かなり精神的に助けられていた。
人に親切にする事は精神衛生面から言って、有益な効果がえられるのだ。
アラタがスズの寝床を用意するという行動は、かえってアラタの為になった。
アラタは夜は、人食い狼の解体も行った。慣れてきたせいか、五頭の解体をした。だが、スキルの獲得はなかった。今のところ解体の才能は無いらしい。水溜まりがあったので、そこに手を突っ込んで手を洗った。
テントに戻り、火を焚き食事の準備をする。
スズが起きてテントから出てきた。
「おはよう」
スズはアラタの隣に座った。
「おはよう、はいどうぞ」
アラタはスズにハーブティーを淹れたコップを渡した。
「ありがとう」
スズの笑顔がこぼれた。
熱いので、息を吹きかけながらゆっくりと飲むスズを見てアラタは、ほっこりとしていた。
「スズといると、落ち着くな」
「ん」
スズは、ふーふーしてハーブティーを飲んだ。
◆◆◆
アラタとスズは、朝の八時になってギルドに戻ってきた。
「おかえりなさい」
迎えたのはサラの先輩のイズミだ。
本来なら、冒険者の顔を常連以外はいちいち覚えていられないのだが、サラとのやり取りが印象的で、イズミもアラタの顔を覚えていたのだ。
サラは二時間前に退勤している。
「途中で彼女に合流したんだ。報酬を折半したい」
そう言って、薬草とモンスターの素材をカウンターに置いた。
「アラタ、私はいらない。何もしてない」
「何言ってるんだ。前衛も後衛も同じだと、この前決めただろ?」
「うん……」
イズミはこの二人のやり取りを見て思った。
サラも、うかうかしてられないと。
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