第74話 アラタ、イザベラに相談する
イザベラから訓練を受ける。
本日は格闘術だ。イザベラと拳闘をする事となった。
素手で殴りあう。拳闘というやつだ。
念のために、怪我した時のために自作した回復薬を用意してある。
とはいえ、これを使うのは主にアラタなのであるが。
「お前さん、何か悩んでおるだろ?」
イザベラは、ジャブを繰り出す。
「イザベラさん、何で分かったんです?」
アラタは、何とか避ける。
「訓練に身が入っておらんからな」
「色々と問題が多くて……」
「ふん。一人で悩んでても仕方ないだろ。どれ、ワシに相談してみたらどうだ?」
「しかし、それではイザベラさんに迷惑がかかってしまうかと」
「今さらだろ。とにかくあと半月しかない。それまでに体裁を整えないと、この国ではどうなるか分からんぞ」
「そうですけど、こうして冒険者の手解きを受けてるだけでも……、ぐふっ!」
イザベラのボディブローが腹に食い込む。
「くだらん遠慮はいらん。とっとと教えろ」
「げほっ。マジできつい! 何? そのパンチ。引退してますよね。イザベラさん」
「ふん。衰えたとは思っておらん」
イザベラは仁王立ちだ。アラタはそのまま腰かけて、ふー、と一息ついた。
「イザベラさん、コルネラという女性を知りませんか? スラムに住んでいるらしいのですが」
イザベラは目を見開いてほんの少しの間、茫然としていた。
「お前さんの口から意外な奴の名前が出たな。意外すぎて最初、誰の事を言っているのか分からなかったぞ」
「知っているのですか?」
「ワシの思うコルネラと同一人物か分からないが……」
「いえ、どうせ情報が無いので。ぜひ教えて下さい」
アラタはそう言いながらもかなり期待していた。直感的に当たりだと思っていた。
「今は縁が切れているが、昔はお互い冒険者だったからな。たまにパーティーを組んだりしてたが。久しく見ないと思っていたがスラムに居を構えているのなら、見つけるのは難しいな。あそこは人の出入りが激しい。しかし、どうして、ひと探しをしているんだい?」
アラタは腕組みして考える。国の暗部に関わる問題は知らない方がいいのかもしれない。
「イザベラさん。それを話したら、さらに迷惑がかかるかもしれません。出来れば、イザベラさんに心当たりのあるコルネラさんの情報だけ教えて欲しいのですが」
勝手な言い分と分かりつつも、説明を避ける。
「ここまで、関わらせておいて水くさいぞ。気になるじゃないか。わしが力になれる事もあるかもしれん。それとも何か? わしが力不足だとでも言うのか?」
イザベラは握りこぶしを作る。
「いえ、そんな滅相もないです」
たははと、情けない笑い声をあげる。
アラタは図書館で見つけた藤堂トモヤの手紙について話した。
「ふむ。とすると、やはりアラタの言うコルネラというのはワシの知っておるコルネラで間違いないな。コルネラは昔、【勇者の人権を守る会】を発足していたからな」
ビンゴである。
「そうなんですか? もしかしてイザベラさんも?」
「いや、ワシはただの冒険者だった。たまにコルネラに頼まれてギルド経由でその手の仕事をした事もあるが。コルネラは変わった奴で、治癒師としても一流であったのに冒険者をしていたからな」
一流の治癒師は冒険者になる必要がないと聞いた事がある。
「十二年前、勇者の施術をしてたのか。【勇者の人権を守る会】が消滅し、コルネラが居なくなったのは、この時期だったかもしれん」
アラタは考える。藤堂トモヤや、コルネラに何かあったのかもしれない。確かにあの手紙は魔石の摘出前に書かれたようであるから、その後どうなったかは分からない。
そもそも二人とも生きているのか疑わしくなってきた。
ただ、訓練期間が今回は一ヶ月に対し、前回は三ヶ月もあったので、もしかしたらその間に随分と強くなっているとも考えられる。
生きている可能性は捨てられない。
「何があったかは、やはりコルネラさんに会わないと分かりませんね」
「それにしても、国がそんな事を勇者にしていたとは、だが、これでますます猶予がなくなってきたな」
「猶予?」
「アラタ。スラムは先程も言ったとおり出入りが激しい。だが、情報通のマットと言う男を訪ねてみろ。奴は顔が広いから何か知っているかもしれん。スラムの大通りに面した酒場に出入りしているから、まずはそこから当たってみろ」
「はい、行ってみます」
アラタは素直に頷く。それ以外の手も浮かばない。
「今日の訓練は無しだ。問題は早めに解決した方がいい」
「はい、じゃあ、いってきます」
「ああ、気を付けてな」
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