第58話 話し合い その2
「ゲイリー・オズワルドにアイザック・グローリア……。何故こうも異世界召喚者に協力的じゃないんだ? 召喚したのはそちらだろ?」
アラタは首をさすった。
「この国も一枚岩というわけではないのです。お恥ずかしい話ですが」
ソフィア王女は沈痛な顔をしている。
「アイザックが、協力的でないのは確かだけど、そこまでは……」
クロエがアイザック・グローリアの肩を持つ。彼女は剣聖を敬愛している。
「あなた。本気で言ってる? いくら親代わりに育てて貰ったからって。現状を見れば明らかじゃない」
ソフィア王女がクロエに怪訝な表情をした。
「あら、彼はああ見えて部下思いで──」
「クロエ、あなたの剣聖に対する気持ちはどうでもいい。アラタが遭難した時に彼は何もしないどころか、捜索隊を出す判を押さなかった。それが全てを物語ってるの」
スズがクロエの意見を遮る。
「それでも、私は……」
クロエがそれに反論しようとするので、アラタは手を軽く上げて、それを制した。
「二人の目的は何だ? 王女、心当たりはあるか?」
「おそらく、自分たちの権力を維持したいのかと。いずれ勇者様達はギルドランクSになってしまわれます。その時に自分たちの思い通りになるか監視しているのでしょう」
「俺の考えと同じだ。そして、違う場合は消してしまうんだろう」
「アラタ……! そんな事は」
クロエが青ざめた。クロエは親代わりのアイザック・グローリアを心の底から信じているのだ。
「現に……」
アラタは口をつぐんだ。【爆砕の魔石】の事はここで言うべきではない。
スズもいるのだ。
「アラタ、何?」
スズが何かを感じとった。
「いやあ、スズの言うとおり、この前遭難した時に死にかけたから」
アラタは誤魔化した。
「……ああ、そういうことね」
スズは納得した。
結局、現状で打つ手はない。
今夜はお開きになった。
ソフィア王女とメイドのタマキ・シロは戻っていった。
そして、スズは
「私は泊まっていくわ。アラタも動けないし」
スズは足に巻かれた包帯を見た。
「寝てれば治るから朝には動けるって話だぞ?」
「だから?」
「帰──」
と言いかけて口をつぐんだ。スズが帰れば、この家は自分とクロエの二人きりになるからだ。
「じゃ、私とクロエは寝室で寝るから」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
つまり、信用されていない。まぁ、もちろん今までの事を考えればそうなるが。
部屋の灯りを暗くする。魔石を使った灯りであるが、光量も調整出来るのだという。
「異世界のシーリングライトだな」
アラタはこの魔石というのは便利だと思った。冷蔵庫や風呂など生活のほとんどに使われている。
【魔石産業】という言葉がある位で、魔石を征する者は世界を征すとも言われていた。
◆◆◆
朝になった。
クロエとスズは目を覚ました。
リビングに行くとアラタは朝食を用意していた。
いいにおいがした。
「さぁ、三人で食べよう」
すっかり足が治り、朝市で魚を仕入れてきたアラタはアクアパッツァを作った。
アクアパッツァはアルフスナーダの料理にはないが、アラタは施設で料理の手伝いをしていたのでレパートリーは多い方である。異世界の食材で似ている物を使えば再現出来た。
魚と貝の出汁が効いている。
パンと一緒に食べた。
「「美味しい!」」
クロエとスズも喜んでいた。
「クロエ、今日から勇者の訓練をパスして良いか? 俺はあの訓練では強くなれない。勇者達はあれで良いのかもしれないが」
アラタは前から思っていた事を伝えた。
「いいわ。でも毎日何をしたか私には報告してね」
分かった、とアラタは頷いた。
「それから、レベルアップの件だが、無理して調べないでくれ」
アラタはクロエが寝不足で倒れるんじゃないかと心配していた。
「でも、レベルが最低でも10にならないと勇者認定を取り消されてしまうわよ」
クロエは
「いいんだ。勇者訓練の担当をしてるクロエには悪いが俺は魔王討伐には興味が無いんだ。だから勇者である必要もないと俺は考えてる。まあ、当分はスキルでやっていけそうだし」
「初めて会った日に言ってたわね。この世界に愛着はないって」
クロエは暗い表情をした。
「もちろんクロエには感謝してる。クロエが困っていたら助けたいと思う。それは本当の気持ちだ。だが、俺達はこの世界の都合で召喚された……被害者だ。君が俺達をそうでないと言うのなら俺は自由に生きたい。人は自分の生き方を自由に選択する権利がある。それが出来ないと言うなら、俺達はやはり被害者と言ってもいいのではないかと思う」
アルフスナーダ国に戦闘訓練を受け、彼女達が知らないとはいえ、監視もされている。
この国に不適合な人物に認定されたなら、おそらく消されるかもしれなかった。
クロエは勇者に憧れの様な感情を持っていたが、アラタが勇者で無くなったとしても協力したいと思っていた。
窓際に置かれた鉢に咲く
◆◆◆
スズと朝帰り。
といってもそんな艶っぽい話ではない。
何だか、一晩でぐったりと疲れてしまった。
魔術師学園、ゲイリー・オズワルド、ナンバーズ、捻挫、話し合い。
「異世界に来てから、一日が濃厚だな」
「前はどうだった?」
前? 仕事して、仕事して。琴子と会うだけの……。
アラタは建物の隙間から覗く朝日を拝む。
──そんな毎日でも、よかった。琴子がいたから。幸せだと信じていた。
「全部失ったから、何もないな」
失って、また何かを手に入れる?
「アラタ?」
いつの間にか立ち止まっていたようだ。
ほんの少し先を歩いていたスズが、振り向いた。
疲れていても、今日が始まる。
冒険者になるため、この世界で生き抜くには休んでいられない。
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