第27話 アラタ、夢を見る

 町の小さな遊園地。

 アラタと琴子は余り儲かっていないような遊園地に遊びに来ていた。

 琴子は大学受験も終わって後は結果を待つばかり。

 アラタは金属加工の工場に就職が決まっていた。

 校則では禁止だが、就職組は理由いかんによってはアルバイトが出来る。

 アラタは一人暮らしをするので、その資金繰りのため学校から許可が下りた。

 その為少し懐に余裕が出来たアラタはこうして琴子とデートに来たのだ。

 皿洗いのバイトをしていたアラタだ。

 だが、洗剤が合わず、手はボロボロで、絆創膏を貼りまくっていた。


「うわー、痛そう」


 琴子は絆創膏をツンツンする。


「そこまで痛くはないけどな。ちょっと痒みがある」


「じゃあ、手は繋げないね」


 琴子は残念そうに言う。


「え? いや、繋ぐよ」


 と言って琴子の手を握った。

 琴子の歯がこぼれる。


 小さめのジェットコースター。

 メリーゴーランドや、ビックリハウスなど、手当たり次第に乗って遊んだ。

 昼食は遊園地内の食堂だ。

 それで、ちょっとふざけてお子さまランチを頼んだ。

 本来お子さまランチを頼むには年齢制限があるものの、客足も遠のいたさびれた遊園地だ。

 うるさい事は言われなかった。

 新幹線の器に入っていて、ピラフやプリンやら内容は良かった。

 意外に旨かった。

 二人で美味しいねと言って食べた。


 動物園も併設してあり、全部見て回った。


 夕暮れ時、やはりこれじゃね? という事で、観覧車に乗った。


「結構高いね」


 琴子は、はしゃいでいた。


「そうだな」


 アラタは景色をあまり見ていない。

 琴子の事を見ていた。

 ベタ惚れと言っても良い。


「そっち行っても良い?」


 アラタは聞いた。


「うん、良いよ」


 アラタは腰を上げた。

 少し観覧車が揺れた。


「あれ、乗ったねぇ。メリーゴーランド」


 琴子は遊園地の眺めを見ている。

 アラタは「そうだな」と言いながら、琴子を見ていた。


「琴子」


「ん?」


 アラタは琴子にキスをした。

 始めてキスをしてから毎日キスをする様になっていた。

 今日はキスをしていなかった。

 アラタはどうしてもしたくなったのだ。


「もう!口紅とれちゃうから」


 怒っているのかいないのか。

 アラタはそれを見てやはり、可愛いなと思った。


 ◆◆◆


 日が射して朝になっていた。

 アラタは目覚めた。顔がニヤけていたようだ。

(何だ、夢か……)

 現実に気付いて落ち込んだ。

 これは昔の記憶だ。

 ため息が出た。

 昨夜、琴子にほんの少し関わっただけで、こんな夢を見てしまう。


 食堂に行くと、スズがいた。

 過去の夢を見た事で落ち込んだが、スズの姿を見ると、明るい気持ちになった。


「おはよう」


 美少女は少し笑顔でそう言った。

 アラタは美少女って強烈だな。と思った。

 味噌が手に入った事で朝食は和食になった。


「この味噌、林田味噌って名前なんだって。アラタ知ってた?」


「……へー、そうなんだ。知らなかった」


 林田が、どんな男かはあのノートで知ってるが。

 腕が折れてるので、朝食はスズが作ってくれた。

 出来上がった料理はアラタが作ったものより味が落ちる。

(スキルの差だから仕方ないよな)

 だが、味とかそんな事ではない。

 女子の手料理が、食べれる事に新鮮な喜びを感じていた。


 右利きのアラタは、箸が使えず、左手で、スプーンで食べる。

 自然と笑顔がこぼれる。


「何、ニヤニヤしてるの?」


「結婚したら、こうして毎朝同じテーブルでご飯食べるんだよな」


 そんなセリフがついて出た。


「……そうね」


 スズはそう言うと、身を乗り出してアラタの口元に付いたご飯粒を手に取った。

 それをパクッと一口。


「世話を焼かすわね。アラタは」


 アラタはスプーンをグッと握りしめた。

 可愛い過ぎるだろ!

 楽しい時間はあっという間だ。


 ◆◆◆


 闘技場で今日も魔法の訓練である。


 行く道すがら、クロエから


「アラタに頼まれた、魔術師学園の図書館の使用許可だけど、却下されたわ」


 と言われた。

 魔術師学園は大魔法使いゲイリー・オズワルドが学園長を務めている。

 使用許諾の判を彼が突っぱねたのだ。

 彼といい、剣聖といい召喚したくせに勇者を邪険に扱っているとしか思えなかった。


 全員少しずつだが、攻撃魔法をコントロール出来るようになってきていた。

 アラタはその中でも群を抜いて上達していた。


「光弾」


 ビー玉程度の大きさで、もちろん威力は弱い。

 だが、的に当たるようになっていた。

 掌を的に向けたら当たる訳ではなかった。

 イメージだが、自分の魔力が出てる腹辺りから線を腕まで繋げて的まで通す感じだ。

 言葉にすると難しいが、当たれ! というよりは当たっていいよ、みたいな感じで打たなくてはならない。

 魔法を使うときは冷静にならないと精度が落ちるようだ。

 だが、冷静にならないと当たらない魔法が、実践で使えるのだろうか?

 アラタは自分の魔法に疑問を持った。


 ただ、アラタの事に全く興味のない連中はアラタの成長に気付く事はなかった。

 食堂に集合した時も、話かけてきたのは、ヒナコだけだ。


「心配したよ。良かった良かった」


 と、背中をバンバン叩かれた。


 スズとクロエはアラタの魔法の上達ぶりに目を見張った。


 そして、もう一人太った女勇者の東ミクが、アラタの様子を見ていた。

「フン」と、不敵な表情をして、自分の訓練に集中した。


 ◆◆◆


 昼は使用人の宿舎でイザベラとルチアとカイルがいたので、四人で食事した。

 マーサが、食事を用意してくれていた。

 アルフスナーダの郷土料理だ。

 そこで、カイルだけが、アラタの事をさん付けで呼んでいたので、呼び捨てにしてもらおうとしたが、断られた。

「では、こうしましょう。アラタ君で」と代案が出された。

 カイルは、勇者として召喚されたアラタに敬意を払っていたが、わりと心配させる辺り、弟のようで、可愛くも思っていた。

 面倒をみたいと、そんな気にさせていた。

 イザベラやマーサも似たような感情をアラタに抱いていた。


 ルチアがアラタのホットケーキが好物になったと言うので、腕が治ったら作る約束をした。


 ◆◆◆


 その頃、勇者と冒険者メンバーは外食をしていた。

 大所帯になっていた。

 ちゃっかりスズの隣をゲットしているタカヒトが、


「何で、アラタの手伝いなんかしたんだ?」


 と問いただした。

 スズはキョトンとした顔で


「さぁ、何故かな?」


 と他人事の様に返事した。

(このホントに分かってないのかな?)

 ヒナコはそう思ったが口にはしなかった。

 タカヒトはスズがアラタに興味を持ち出しているのを感じていた。

 だが、彼は嫉妬しているわけではなかった。

 どちらかと言うと、スズの実家である宮森家の力に興味があった。

 華道の家元である宮森家は多くの弟子を抱えている。彼女との繋がりは、そのまま組織票になる。

 政治家の息子としては、理にかなっているのだ。

 そう言う意味では設楽タカヒトは宮森スズを出世の道具としてしか見ていなかった。


 ◆◆◆


 午後の訓練をアラタは休んだ。

 やはり、本回復というわけにはいかなかった。

 身体がダルい。

 それに正直、的に当てる訓練など、どうでも良かった。

 腕のギプスも付いたままだ。

 スキル【古代治癒師】があるので、薬草を食べれば更に回復するので食べれば? と思われそうだが、薬草は草である。

 不味いのだ。

 草と、根っこの土臭い味が口の中で混じりあって本来は食べれた物ではない。

 出来れば食べたくなかった。

 あんなものは、気の迷い、もしくは危機的状況でないと食せないとアラタは思った。


 夕方まで自室で、回復薬と、解毒剤を作っていた。

 これが意外に面白い。

 日本ならこんな機会に恵まれる事はないからだ。

 この前は思わず飲んでしまったが、大丈夫なんだろうか?

 誰でも作れる薬って信頼性に欠けると思うアラタであった。

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