第24話 アラタ、王女に治癒される
「命に別状ないわ。それよりクロエ、説明して貰えるわね」
アラタに治癒を施したソフィア王女は、クロエに向き合う。
ソフィア王女は、アラタを数日前も診ていた。
その事で多少なりとも縁を感じていた。
ソフィアは王女なので、自由に動けるわけではない。
クロエとソフィアは竹馬の友であったので、御付きのメイドに手紙を渡し連絡を取り合う事ができた。
連絡を受けたソフィアは公務終了後、城の隠し通路より、クロエの自宅に来たのだ。
「話さないわけにはいかないか」
クロエが、スズに確認として目線を送る。相手が相手だけにスズは止めなかった。
クロエは、ゴブリン討伐に三人でギド村に向かった事。そこで、新しい洞窟を発見した事。アラタが遭難した事。ギルドに捜索隊の派遣を断られた事。そして、もうひとつの事実──
「アラタ様がスキル【転移】を獲得されたと?」
ソフィア王女は驚いていた。
「それを秘密にしておいて欲しいのよ。治癒師の能力を持ち信頼できる人が貴方ってわけ」
「確かに、その様な能力。大魔法使いのゲイリー・オズワルド辺りが、食いつきそうね」
聡明な王女は察しがいい。
そしてソフィア王女はアラタの顔を伺う。
そっと頬に手をやる。
「ちょっ、どうしたの?」
「唾付けちゃおうかしら」
「フザケないで」
「あら、どうして? 勇者と王女のラブロマンスなんて物語にはよくある話じゃない? 優しそうに見えるから、付き合ったら尽くしてくれそうで、無くはないわね」
美しいソフィア王女がアラタに言い寄ればすぐ陥落してしまうのは目に見えていた。
「と、兎に角ダメなものはダメなの!」
議論になってないし理由も答えようがなかったが、クロエは感情的にそれを許容出来なかった。
ソフィアはクロエの顔をジッと見つめる。
「な、何?」
「この前の話。本気にしたのかな?」
「そ、そんな事は……私は勇者の教育係としてゴニョゴニョ」
クロエがゴニョゴニョ言っている。
「王女様、アラタのスキルは内密にしてくれますか?」
スズが口を挟んだ。
「スズ様、勿論ですわ」
クロエとスズでは態度が違うソフィア王女だ。
ソフィア王女は勇者を公賓として扱う予定であった。
だが、剣聖アイザックと大魔法使いゲイリーの反対に合い、予算を削られてしまった。
結果的に庶民レベルの衣食住の保証程度に留まっている。
更に、勇者の訓練プログラムも最低限の魔法の訓練になっていた。
だが、それでもソフィア王女は勇者を敬愛する態度は変えていないのだ。
「アラタはレベル1だから剣聖にいらないと言われました。でも本来、私達は望んでこの世界に来たわけではありません。それを考慮して頂きたいのです」
「私の力不足故、このような扱いになってしまい申し訳ありませんが、それでも勇者様が不自由がないように務めさせていただきます」
「分かりました、王女様」
スズは引き下がる。
一呼吸おき、ソフィアはクロエに向き合う。
「それからクロエ。貴方にクレームが入ってるわ。アラタ様一人に懸かりきりになっているから、教育係として、それは如何なものか?という声が挙がっているわ」
クロエには思い当たる節があった。ありすぎる程のここ数日だ。
「クロエの勇者に対する気持ちを汲んで、今回の任につけさせたのよ。本来なら騎士団長としての業務を行って欲しいのよ」
「けれど、このままではアラタが──」
クロエが食い下がろうとした時、
「俺は大丈夫だから」
アラタが目を覚ました。
「アラタ様」
ソフィアが語尾にハートマークでも付いてるのかと言うような声音を上げた。
「「アラタ!」」
クロエとスズがアラタに寄っていく。
アラタから見れば、美少女が三人である。
それぞれが魅力的で、付き合いたいくらいではある。
まぁ、付き合ってはくれないだろう。
こういう人種はイケメン金持ちに持っていかれると相場は決まっている。
アラタは失恋の痛みもあって、色々と諦めていた。
「クロエには立場もあったな。今聞いて分かった。無理させて悪かった」
アラタは社会人だ。世間に揉まれて相手の立場もそれなりに理解出来るようにはなっていた。
二十歳は世間的には成人だが、至らない面も多い。しかし、親のいないアラタは自分なりに自立しようと頑張っていた。
「無理なんて、そんな事は……」
クロエは無理している訳ではない。孤立しているアラタが心配でもあったのだ。
アラタは、ソフィア王女を見る。やはり相当な美少女だ。
きめ細かい白い肌。白銀に近い金髪。青い瞳。ドレスで締め上げられた胸元が、溢れんばかりだ。
彼女の年齢は分からない。だが、クロエとそう変わらないように見える。
「アラタ様どうかされました?」
まじまじと見てしまった。
「今後、俺はどうすればいいのか。ソフィア王女の意見を聞かせてもらいたい」
王族と会話出来る機会はないだろう。
彼女が、自分の事を把握してるとは思えないが、聞いておいて損はない。
「アラタ様、今夜は遅いので、もう寝てください。癒しの魔法はかけましたが、睡眠不足では、効果が弱まってしまいます。今度、王城にいらして下さい。その時にゆっくりお話しましょう。」
美しい声と、美しい微笑みを残したソフィア王女は、クロエの家屋を後にした。
王女が居なくなって程なく、若い可愛らしいメイドが部屋を訪れた。
アラタは実物のメイドを始めて見た。
アニメでは定番のキャラではある。
メイド喫茶のイメージもあるが、実際は折り目正しく、教養のある女性だ。
正直、容姿もレベルが高く、付き合って欲しいくらいだ。
結局、誰でもいいんかい! と言われそうだが、アラタの回りにいる女性が可愛すぎるのだ。
どちらにしろ自分には縁のない女性達なんだが。
彼女は鞄を持っていて、それをアラタに渡す。
中には衣服が入っていた。
アラタの服を用意してくれたのだ。
王女がパンツ一枚では不自由だろうと用立ててくれたのだ。
「明後日お迎えに参ります」
お辞儀をキッチリとして、メイドは戸を閉めて帰った。
名前を聞くのを忘れた。
アラタは少し残念に思った。
その後 三人で話し合って、アラタは明日の夜に王都に自力で生還したというシナリオにした。
そのアリバイ工作の手筈はクロエに任せてしまった。
アラタとスズは余所者で、何もやりようがなかったのだ。
「またクロエに手間をかけてしまったな」
アラタはクロエに頼りきりだと思い知った。
「アラタ、私は進んでそれをしているの。遠慮しないで」
クロエはアラタの手に自分の手を重ねた。
その上にスズも手を重ねる。
「私もよ」
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