第20話 アラタ、ゴブリン討伐する
ゴブリンは村外れの山間に、拠点を築いているという。
アラタは、薬草や山菜などを採取しながら歩いた。
クロエ、スズ、アラタの順で歩く。
四時過ぎにゴブリンの巣を発見したので、これからどうするか話し合う。
クロエは一泊してから討伐する方針。
アラタはこのまま討伐する方針。
スズはよく分からないという事なので、リーダーの方針に従う事になった。
ゴブリンは夜行性なので、早朝に討伐するというのだ。
「そんな慎重にならなくても大丈夫だろ?」
「だから油断大敵よ」
大きな岩を背に焚き火をする。
米や味噌、山菜を使ってアラタは調理を始めた。
米を炊き、山菜入りの味噌汁を作った。
さらに山菜を天ぷらにする。味は塩を振った。
「「おいしい」」
クロエとスズはモグモグと食べた。
美味しい食事は、士気にも係わる。
食後にお茶を入れた。
「今夜は冷えるな」
テントの購入も考えなければならないと、アラタは思った。
◆◆◆
その頃、冒険者ギルドでは、サラが受付嬢の仕事をしていた。
家に朝方の五時過ぎに帰宅したので、結局、昼三時過ぎの出勤になってしまった。
遅刻にはあまり厳しくない。
「昨日は忙しかったみたいね」
同僚の受付嬢に労われた。
アラタさんは今日は来ないのかな? などと思うサラだ。
インパクトがあったので、多くの冒険者がいる中で覚えてしまった。
事務処理をしてると、
「あれ?これ……」
アラタが既にゴブリン討伐に出ている表示があった。
パーティーを組んでいるようだが
「あの人、寝てないんじゃない?」
また、気を揉むサラであった。
◆◆◆
山の日没は早い。
スズは疲れからか、眠ってしまった。
頭をアラタの肩に置いていた。
汗をかいているハズなのに、いい匂いがした。
スズはスヤスヤと眠っているという表現が似つかわしい寝息だ。
クロエは膝を抱えて、火を眺めていた。
アラタはクロエを手招きした。
クロエは、両手を振って遠慮したが、アラタは手を伸ばしてクロエの手を引いた。
左にスズ。右側にクロエ。
二人を両手に抱いて、休む。
クロエはおとなしくアラタの胸に頭を寄せていた。アラタの顔を見上げる。
「騎士団長としては、部下に見せられない姿だな……」
「イヤか?」
「イヤでは……ない」
クロエの肩を抱いた手を腰に回して手を握る。
クロエは目を瞑る。
アラタはスキル【徹夜】と【暗視】を使う。
見張りに、その力を発揮するスキルだと思った。
その夜、魔物に襲われる事はなかった。
朝方、焚き火は炭になって、火力を落としていた。
薪をくべて火力を調整する。
アラタはパンを捏ねて、火で焼く。
目玉焼きを焼いて、コーヒーも入れた。
クロエとスズが目を覚ました。
「ごめんなさい、見張りもせずに寝てしまった。こんな事は初めてだ…アラタのそばで寝たからか……ゴニョゴニョ……」
クロエは自分の醜態に恥じた。また、ゴニョゴニョ言っていた。
「もしかしてアラタ、一晩中見張りをしてくれてたの?」
スズが寄ってきた。
「ぐっすり寝てたから、起こしちゃ悪いかと思って」
「そういう問題じゃないでしょ?」
クロエも寄ってきた。
「まぁまぁ」
と言って二人に目玉焼きを乗せたパンを渡す。
これから討伐に向かうとは思えない、のどかな朝食となった。
◆◆◆
食事を済ませ、荷造りを済ませると、ゴブリンの住処に向かった。
「見張りがいない」
見張りがいないゴブリンの巣。
これは、そこまで大きくない集団だという事だ。
中のゴブリンリーダーも頭が弱いのだろう。
背負い袋は重いので近くの木の下に隠す。
入り口にはすんなりと入れた。
クロエはランタンを付けた。
中を照らす。
「行くわよ」
クロエは振り返り皆の意思を確認した。
クロエ、アラタ、スズの順で進む。
ランタンで灯しながら進むが、ゴブリンの姿は見当たらない。
洞窟内の広い場所に出た。
あちこちに壊れた木箱や、汚い布、生ゴミといった廃棄物が散乱していて、悪臭を放っていた。
洞窟に入った時も何か臭うと思ったが、ここが原因だったのだ。
スズはごほごほと、むせる。
クロエが歩いて過ぎた後、アラタは布の塊に剣を突き刺した。
「ギャッ!」
という叫び声が上がる。
振り替えるクロエ。
中にゴブリンが隠れていたのだ。
アラタはスキル【暗視】のお陰で、布の中のゴブリンが呼吸している微妙な布の動きが見えたのだ。
ぞろぞろと火の光に照らされた二つの目が暗闇に多数現れた。
「囲まれているな」
クロエは剣を抜く。
「その程度の知恵はあったか」
アラタとスズも剣を構えた。
「スズは光弾を撃てばいいからな」
アラタはそう指示した。
「え? でもあれは」
物理的な攻撃力はない。
「牽制にはなる。それに剣を使った事は?」
「ない……」
「今はそれでいい」
クロエとアラタはゴブリンに斬り込んでいった。
スズの光弾が放たれる。
ゴブリンには脅威に映る事だろう。
数分の後、今しがた襲ってきた全てのゴブリンの死体が転がっていた。
ゴブリンの耳を切り落とし、麻袋に放り込む。
討伐報酬が出るからだ。
片手剣が血と油でぬるぬるしているので、落ちていたボロ布で拭いた。
臭そうなので、なるべく触らないようにして拭いた。
アラタはゴブリンが使っていたこん棒を拾う。
次の部屋は布で目隠しして覆われていたので、それをこん棒で開ける。
ボンっという音がしてこん棒が砕けた。
「火弾か」
中にゴブリンリーダーがいた。
魔法を使うからメイジゴブリン、ソーサラーゴブリンとでも言うのか?
魔法が使えるとリーダーになれるのだろう。
「光弾」
アラタは光弾を10発ほど見舞った。
「ギャッ!」
ダメージもないのにゴブリンが驚いた。
「風滑」
一気に距離を縮めて、片手剣をゴブリンの胸に突き刺した。
声も出ずに絶命した。
勢い余って、そのまま壁まで押し当てた。
ゴブリンが壁から倒れると、アラタの髪が風に揺れた。
「ん?」
壁に近づくと、ヒビが入っていてそこから隙間風が吹いていた。
剣で少しゴリゴリと削ると、ゴブリンの臭い部屋の匂いとは別の清涼な空気が室内に流れてきた。
「クロエ! スズ!」
二人を呼んだ。
「どうしたの?」
クロエが入ってきた。
「この先に空間がありそうだ」
そこは石灰になっていて、柔らかい壁だった。
アラタは落ちていた斧を拾って壁を叩いて割っていく。
真っ暗な広い空間が出てきた。
「目的のゴブリン討伐はできたから、もう良くない?」
クロエはこの先はギルドに報告すればいいと言う。
「ちょっと位先に行かないか?」
アラタは見てみたい。スズは
「私も気になるかも」
と言った。
クロエはリーダーとして決断しなければならなかった。
「いいわ、行きましょう。ただし危険と判断したら引き返します」
一度外に出て、背負い袋からロープやクライミングに使う釘などを持ってきた。
それはスズが持っていく。
クロエとアラタが前を行き、モンスターが出たら戦う為には荷物を後衛のスズに頼むしかないからだ。
「疲れたら荷物持つの替わるから」
「うん、大丈夫」
アラタはスズに声をかけた。
そして、壁の奥の真っ暗な闇の中に足を踏み入れた。
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