第19話 アラタ、装備を買う

「装備を変えたい」


 アラタはそう申し出た。スズもアラタもレザー製の防具である。

 軽量という利点があるが刃物を通しやすい。

 やはり鉄製の方が命を守る上では必須の装備だろう。

 アラタとスズのプレートメイルを購入した。

 胸と前腕、すね部分を金属プレートで防御力を上げた。

 それと耐水性のマント。

 これは、防寒にもなる、雨が降った時にもポンチョのように雨風を凌げる。

 スズはミニのフレアスカートを風になびかせる。


「可憐だな」


「そうね。悔しいくらいね」


 アラタはそう言ったクロエを見た。

 凛々しい佇まいの大人然とした中に少女の幼さも持ち合わせた絶妙なバランスが、またスズとは違う美少女感を演出している。


「クロエもいい勝負だけどな」


 その言葉でクロエはボンっと赤くなる。


 武器はブロードソードだと長い。

 ゴブリンは洞窟に住み着くので、刃が壁に当たる長さだと振り回せず危険なのだ。

 青銅の片手剣を購入した。

 これは、丸い木製の盾とセットになっていて、安かった。

 ゴブリン討伐に高級な武器は必要ないという。

 砥石もおまけしてもらう。


 道具も追加購入した。

 ソロで参加した事で足りないものに気づいたのだ。

 コンパスと地図。衣服の替え。行動食。それと水袋だ。これは、手を洗ったり自炊したりするのに使う。重ければ中の水を捨ててもいいし、水場があれば補充も出来る。

 道具屋には便利な探検家セットも売っていた。中には小さな鏡、チョーク、塩、マッチ、麻ヒモ。持ってると何かと使えるというので買っておく。

 携帯用調理器具であるコッフェル。

 とりあえず、これだけ揃えた。


「こういう所に来ると色々欲しくなるね」


 スズが色々な商品を手に取り言った。

「買えば買うほど、持ち物の重量が増えるから厳選して買わないと」

 そんな会話をしていたクロエとスズはアラタの購入した装備とほぼ同じ物を揃えた。


 荷物を腰のポーチと背負い袋に振り分けた。腰のポーチは小さな袋が4つ。その内一つは水獣の皮を使っていて、完全防水になっている。その中にはマッチと麻ヒモを収納した。


 結果的に背負い袋は五キロ程度の重さになっていた。

 魔王討伐の旅では、数日分の食料やテントを入れる事になるだろう。だとすれば十キロは余裕で越えるだろう。

【空間収納】のスキルが無いと厳しいが、そんなものがあるのかクロエに聞いた所。


「レアなスキルとして、存在はしてるわ。でも今回の冒険者の中にそれが使える者はいないわよ」


 一応そのスキルを持っている者が国内にいるので、同行を打診しているらしいのだが、いい返事は貰えていないという事だ。

 危険な旅だ。例え高額な報酬があっても安全な方法で稼げるならそちらを選ぶだろう。

 期待は出来ない。


 ゴブリン退治の依頼は冒険者の目撃情報により、国からの依頼扱いになっていた。

 こういうのは、近隣の村からの依頼になる事があるが、それは村の財政を圧迫しかねないので、国家予算から出る事もある。

 今回はそのケースだった。


 ギドの村は首都から馬車で三時間程度の距離の小さな村だ。

 ここでゴブリンの目撃情報があった。

 アラタ達は馬車に乗って向かった。

 といっても人を運ぶための馬車ではなく、村に向かう行商の馬車に乗せてもらったのだ。

 本来はぎゅうぎゅうに荷物を詰めて、村に向かう馬車なのだが、三人分のスペースを空けてもらっている。

 もちろん本来の売り上げが減る分のお金は包んだ。


 馬車の乗り心地は最悪であった。

 だが、アラタは寝てないせいもあって、うつらうつらとして、その内眠ってしまった。


「ア、アラタ。着いたわよ。起きて……」


 クロエの声が聞こえる。

 狭い馬車のスペースで膝を抱えて横になっていたアラタだ。

 そして頭はクロエの太ももの上にあった。


「ふともも……」


 いつの間にここに頭を置いたのか。

 ヨダレがふとももにベッタリ流れていた。

 上を見るとほんのりと頬の赤いクロエが、見えた。


「何か、熟睡してしまった」


 アラタは起き上がる。

 最初は体育座りで寝ていたアラタであったが、揺れる馬車の上でその内眠ってしまい、クロエの膝に倒れてきたらしい。


「ぴゃっ?!」


 という奇声をその時上げたクロエであったが、それから膝枕したまま固まっていたという。


「ヨダレが」


 アラタはふとももを手で拭いた。


「ちょ、ちょっと……」


 ふとももを綺麗に拭った。クロエのふとももは柔らかくアラタは、ふとももを拭くついでにその感触を堪能した。

 クロエはされるがままで、真っ赤になっていた。


「アラタはエッチだからね」


 スズはそれを見透かして言った。


 馬車から降りる。

 アラタはスズが降りるのを受け止める。

 クロエは颯爽と降りようとしたが、足が痺れていて、馬車から落ちそうになった。


「危ない!」


 アラタはクロエの下に回って受け止めた。

 そのまま二人は地面に倒れてしまった。


「あ、ありがと……」


「い、いや、大丈夫か?」


「うん」


 二人は顔を付き合わせたまま、やはりアラタはクロエを見て、スゲー美人だな。と思った。


 ステータス画面にスキル【徹夜】の文字があった。レベルはなく取得するだけのタイプだ。

 このスキルは本に載っていた。

 肉体が限界に来るまでは起きていられるスキルというものだ。

 限界に達する時間は人それぞれであるが、発動中は日中のように活発に活動出来るという。

 だが、一度活動限界に達すると20時間の睡眠が必要になるため、二、三日で一旦眠った方がいいという事だ。

 一度寝ればリセットされるので、使いこなす者は、三日ごとに八時間寝て、時間を有意義に過ごすという。

 問題点は徹夜に強くなるというだけで、肉体が強くなる訳ではないという事だ。

 なので、疲労回復はそれとは別にしなければ、活動限界時間がどんどん短くなる。

 魔法などで、肉体疲労回復は必須だ。

 迷わず取得した。


 ギドの村は木造の家屋が点在する貧しい村だ。

 基本的には自給自足で、収益は村で作ってる豆腐を売る事で現金を得ているという。

 これも勇者が伝えた物だという。

 アラタとスズは見合って、うんと頷いた。

 昔の勇者いい仕事したな。


 豆腐定食が、村の名物になっていて三人で舌鼓を打つ。

 ご飯、味噌汁、納豆、田楽など。

 建物も、昔ながらの日本家屋。

 畳が敷いてある。

 アラタとスズはこの村を気に入った。

 クロエも日本の事は知らないが、何か落ち着くと言っていた。

 それ故に今回のゴブリン討伐に気合いが入った。

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