第12話 アラタ、クロエと対決する
百発位撃った処でクロエに止められた。
全弾外れてはいたが、少しコツを掴みかけてたので、不本意である。
「何だ、クロエ」
「アラタ、皆終わったので一旦ここで止めましょう」
周りを見ると、全員がアラタのことを見ていた。
「アラタ、レベルを上げてないのか?」
ツバサは怪訝な表情をしている。
「アラタは召喚された当初の経験値が、余りなくてレベルを上げれないのよ」
クロエが答えた。
アラタがギルドカードを作った時に言った嘘である。
「話が違うじゃないか。勇者は大容量の魔力と経験値を保有して召喚されると言ってなかったか?」
勇者メンバーの一人である設楽タカヒトが眼鏡をクイッとして言った。
「イレギュラーよ」
魔法使いのリーナが眼鏡をクイッとして言った。
「イレギュラー?」
タカヒトが眼鏡をクイッとして言った。
「勇者召喚の儀はあらゆる条件が整ってこそ出来る神の御技よ。それを行使するのは人間なのよ。一人位使えないのが混ざっててもおかしくないわ」
リーナが眼鏡をクイッとして言った。
「とはいっても勇者だぞ。レベルが低いだけで、魔力はありそうじゃないか」
タカヒトが眼鏡をクイッとして言った。
「確かにあれだけの数の光弾を撃って息切れ一つ起こしてないのは素晴らしい事よ。でも一度に放つ量が圧倒的に少ないわ。戦闘要員としては落第よ」
リーナが眼鏡をクイッとして言った。
──いちいち眼鏡をクイッてやるなよ!
全員がそう思った。
「その為にもアラタにはレベルアップが必要なのよ。経験値を稼がないといけない。ギルドの依頼を受けてモンスターを討伐しましょう。それが一番経験値を稼げるわ」
クロエが言った。
「皆もどうかしら? アラタの為に一肌脱いでみない?」
その言葉に、え? マジかよ。みたいな雰囲気が漂う。
「効率が悪いな。なぜレベルの低い者に合わせないといけない?」
タカヒトだ。また眼鏡をクイッとしている。
「そもそも一ヶ月の訓練期間で魔王討伐の旅に出ろと言ったのは、そちらではないか? なら経験値稼ぎより、まずは我々のチュートリアルに時間を割くべきだ。実際、魔法のコントロールもまだまだなんだ。今はそんなリスクは犯したくない」
タカヒトの言う事も最もである。
アツシとツバサはその意見に賛成なんだろう。頷いている。
「じゃあ、こうしましょう。アラタ以外の勇者はチュートリアルに専念して。残りの冒険者チームは私達と行きましょう」
クロエが提案した。それに待ったをかけた者がいる。
「嫌よ、何でそんな事しないといけないのよ」
リーナだ。
「私達は勇者の護衛が主な任務よ。今日みたいに講師程度の事はしても、この一ヶ月で命をかけるような真似はしたくないわ」
「リーナの言う事も最もだ。我々の契約にギルドの依頼を受ける事は入っていない。それに今月は生活費と少しの給金が支給されてるだけだしな。」
戦士のガイルが言った。冒険者は無駄なリスクは取らない。
昨日、採取に付いて来たのは、ギルドカードが使える様にならないと魔王討伐の旅に支障が出るからだろう。
「弱いなら、弱いままで構わない。勇者はこれだけいるんだからな」
盗賊のルスドだ。要はアラタ一人位足手まといだろうと死んでも構わないと言うのだ。
アラタとしては、勇者の方が希少価値高くないか? と思う。
むしろ死んでいいのは冒険者だと。
だが、それは胸の内にしまっておく。
冒険者が行かないとなれば、勇者チームは行けないだろう。
「分かったわよ!もういいわ。アラタ──」
クロエは怒っていた。騎士団長である彼女もひと癖もふた癖もある冒険者相手では、まとめるのも一苦労だろう。
「私達二人で行きましょう」
アラタがついた嘘でひと悶着起きてしまった。やはり嘘はダメだな。などと今さらながら思うアラタであった。
一旦ここで昼休憩になった。
アラタはスキル【剣士】を試したかったのでクロエに声をかけた。
「クロエ、後で剣の稽古を付けてくれないか?」
「え?」
「二人だけで行くなら俺も多少は剣を鍛えた方がいいだろ?前の世界で少しは覚えがあるし」
同じレベル10という事でその差を見たかったのだ。
「うーん」
クロエは何故か渋い顔をしている。
「おいおい、お前さん相手は選んだ方がいいぞ?」
ガイルだ。アラタに協力しないと言っておきながら、話しかけてきた。
こういう図太さを持ち合わせているのが冒険者なのかもしれない。
「どういう事だ?」
「騎士団長は元々、剣聖アイザック・グローリアが保護した戦災孤児だ。幼い頃から剣の手解きを受けている。その天才的な剣技はただ一つの欠点を除いて完璧だ」
随分評価されているんだと分かる。若く騎士団長になったのは伊達ではないという事だ。
「ただ一つの欠点?」
「彼女は剣において手加減出来ない」
なるほど。怪我したくなければ、止めておけと教えてくれてるんだな。案外見た目によらず優しいのかもしれない。それにしても……。
「剣聖って。新キャラがまた出てきたな」
「あなた達が召喚された時、大聖堂にいたわよ」
クロエが付け足すように言った。
確かにクロエの鍛えられた体つきを昨日見ているので、アラタは自身の華奢な体つきを比較しても無謀な気がしてきた。
何より、強いなら多少の手加減はしてもらえるという甘い考えもあったのだ。
「私は手加減出来ない。で……どうするの?」
クロエが顔を近づけてきた。いい匂いがして。
「や、やる!」
つい言ってしまった。腰は引けていたが。
そして、なぜ手加減出来ないのか聞きそびれてしまった。
「そう……」
クロエは傍目から見て表情に変化はなかったが、アラタは見抜いていた。
笑っていると──。
◆◆◆
宿舎使用人のキッチンで昼食を取る。
昨日と同じで元冒険者のイザベラと、孫のルチアが待っていた。
「アラタ、ホットケーキ作ってー」
ルチアがアラタの手を引いた。
子供になつかれた。
今日もホットケーキだ。
そして、昨日よりホットケーキを美味しく作れるようになっていた。
「で、アラタさんは、騎士団長と一戦交えるんかい? 歴戦の猛者に一戦申し込もうなんて、物好きだねー」
「そうかもしれません。あとイザベラさん、俺にさん付けしなくてもいいですよ」
「そうかい? じゃあアラタよ。騎士団長ってのは相当だからね。気を付けな」
「まぁ、当たって砕けますよ」
アラタとしてはスキル【剣士】をカンストしているので、それなりに戦えると踏んでいた。
「ふむ。発言内容とは逆に自信があるようだね」
イザベラに心の内を言い当てられてアラタはまた苦笑いするしかなかった。
◆◆◆
午後、もう一度闘技場に戻った。
クロエと剣を交えるためだ。
木剣と、頭部を守るメットと、皮素材の防具があてがわれた。
クロエも同じ装備だ。
クロエは久々に剣を交えるので、気分が高揚していた。
勇者メンバーは多少の魔力が回復したので、また練習を始めた。
「光弾」
先ほどより、自分の攻撃魔法が的に近づくのを実感した。
スズは自分の練習もそこそこにアラタの剣の訓練を見学しようと思っていた。
だが、それは叶わなかった。
勇者メンバーが魔法の練習を初めて数分。
バカン! とメットが割れる音と共に
「コモラン!」
冒険者の治癒師を呼ぶクロエの声だ。
「ありゃりゃ、こりゃいかんわ!」
見ると、メットが砕け頭から血を流し、気絶しているアラタの姿があった。
「あいつ、全然じゃね?」
誰かが言った。
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