第10話アラタ、クロエに事の経緯を話す

 ……!……!……アラタ!


 自分を呼ぶ声がする。クロエの声だ。

 頬をペチペチと軽く叩いている。

 先程の状況を考えれば、これは起きない方が良いのではないだろうか。

 気絶した振りを続ける。


「アラタ!」ベシ!


「アラタ!」ベシ!!


「アラタ!」ベシ!!!


 だんだんと頬を叩く強さが上がってきた。

 もう一度ホントに気絶しそうなので


「うっ!……」


 気が付いた感じを装い、うっすらと目を開けると、心配そうな顔をしたクロエの顔。

 脱衣場のようだ。

 濡れ髪で、バスタオル一枚。

 こぼれそうな胸の谷間に滴が落ちる。上から下までじっくり観察してしまうのは男としての性か。


「ちょっと、どこ見てんの?!」


「あんまり魅力的だから」


 素直に感想を言った。


「バカ」


 スッと立ち上がる。


「私の訓練用の胴着があるから、その濡れた服脱いでそれ着て。後で話あるから」


 と言ってバスタオル一枚巻いた状態で、脱衣場を後にする。

 後ろから見ると鍛え上げられた肉体のシルエットがよく分かる。

 それでいて女性らしいラインも失っていない。


「話か……」


 さて、どうしようか。

 話すか、話さざるか。


 クロエは寝室で、部屋着に着替える。

 内心はかなり焦っていた。

 この家に男性を入れた事がないのだ。

 おまけに裸も見られた。


「出会って2日目で……そんな事あるの?」


 普通はないだろうと。


 ◆◆◆


 普通はない事もなかった。

 さらに上を行く者もいる。

 ツバサは魔法使いであるリーナを今しがた抱いた。

 魔術師専用のローブの上から見ても分かる位の大きな胸を見て、性欲を覚えたツバサは、彼女の実家を見てみたいと上手いこと言って入れてもらったのだ。

 そこはスラム区域で老婆と二人で暮らしていた。

 家は土壁で所々剥がれ落ちていて、お世辞にも立派とは言い難い家だ。

 父と母は、リーナを魔術師学園に入れるために出稼ぎに行っていた。

 一生働いて返せるかどうかの学費が借金としてこの家にのし掛かっていた。

 魔術師学園は学費が非常に高い。

 才能あるリーナではあったが、特待生になっても学費が全て免除されるような制度はない。

 今回、勇者と魔王討伐の護衛に参加したのは、国から金銭的な援助を受けられるからだ。


 ツバサはそんなリーナの身の上話を親身に聞いてる振りをした。

 正直、そんな話に興味などなかった。

 話を聞きながら徐々に距離を詰めて唇を奪った。


 家は壁が薄く、リーナの喘ぎ声も隣の部屋にいる老婆に聞こえている事だろう。

 リーナは眼鏡をかけているのだが、眼鏡を取ったら美少女という訳でもなく、ツバサの女性に対する顔面偏差値から言うと低い。

 顔にはニキビが多く、貧乏で風呂にもあまり入れないらしい。

 だが、その巨乳は気に入った。

 乱暴に揉みしだき、お互い果てた。

 芸能界に入って益々、女にモテる女ぐせの悪いツバサである。

 その為、常にゴムを持ち歩いているのだが、リーナに聞いた所、避妊具はそこまで発達していないという。

 女が飲み薬で避妊するという。ピルとはまた違う異世界独特の薬らしい。

 性病はわりと蔓延しているというので、ツバサはゴムのストックを後で確認しておく事にした。


 トウカは自分に気があると思われるが、ツバサはトウカに対して魅力を感じなかった。

 身体のラインがストンとしている様に見受けられたからだ。

 今いる面子ではヒナコを自分の女にしたいと思うツバサである。

 スズも美少女で顔面偏差値はツバサの合格ラインを越えていたが、スズはタカヒトが狙っていた。


「やはり、友人の好きな女の子に手は出せない」


 ツバサなりの美学である。

 まぁ、向こうから来る分には拒まないが。

 それもツバサの美学である。


 ツバサはリーナの巨乳に再び手を伸ばす。


「なーに?」


「もう一回」


「えっ?」


 リーナは喘ぐ。

 その内、ヒナコを抱けるだろう。

 ツバサは自信があった。


 ◆◆◆


 クロエの胴着に着替えたアラタは、何をどう話すか考えをまとめていた。

 まず全属性を持っている事や、いくつかの取得したスキルについては話す必要はないだろう。

 問題は、スキル【転移】について話すかどうかだ。

 これがレアなスキルであった場合、アルフスナーダ国で自分が、どのような扱いになるのか想像がつかない。

 危険人物として処分。研究の対象。

 またはそのスキルを使って利用される日々。


 また、スキルの事を黙っていた場合は、クロエの風呂場の天井から落ちた自分は、わざわざ忍び込んで、クロエの入浴シーンを拝もうとした、ただの変態覗き野郎。

 覗きがこの国の法律で、どれ程の罪になるかは別としても、この国での自分の立場はないだろう。


 では転移について話すべきか。

 話せば取り敢えず、訳もわからずクロエの風呂場の天井に転移したと説明出来るし、事実そうなのである。


 スキルの事を話したとして、クロエはどの様に自分を扱うか?


 だが、悩んでも結論など出るわけはなかった。

 出会って2日程度の女性を信用出来るか?

 いや、愚問だ。

 自分は出会って数年経つ女に裏切られたではないか。

 過ごした時間が関係ないなら。

 自分がクロエにどう思われたいか?

 覗き野郎か?

 それはないな。

 結論が出た。

 信用出来る出来ないよりも、信用したい。

 誰かに依存したい。甘えたい。

 異世界に来て2日目ではあるが、やはり孤独なのは嫌だった。


 アラタは転移した経緯を話した。

 隠密については話さず、偶然に琴子とアツシのキスシーンを目撃したら転移スキルが取得出来たと説明した。

 キスシーンについては、嘘をつくのも考えたが、やはり事実を言った方が、綻びがないと考えたのだ。

 クロエはかなり驚いていた。


「転移のスキルなんて聞いた事ないわ。」


 やはり、レアなスキルだったようだ。

 転移魔法ならあるという。

 だが高度な技術が必要らしく、この国でも一人しか使えないという。


「大魔法使いゲイリー・オズワルド。ただ一人しか使えないわ」


「誰?」


 新キャラが出てきた。


「あなた達が召喚された日、大聖堂にいたんだけど」


 いたような、いなかったような。


「覚えがないわね。まぁ、いいわ。いずれまた会う機会があるわ。さっきの事は不可抗力だと言うアラタの話も納得……納得? うん、納得したわ。それよりも……」


 クロエがジロリと、アラタを睨む。

 アラタは蛇に睨まれたカエルの様に硬直する。


「み、見た?」


 かなり赤い顔になっていた。


「見たぞ。上から下まで全部」


「正直に答えないでよ。デリカシーないわね」


「正直に答えないと信用されないだろ?」


「うーん」


 複雑な心境のクロエである。

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