第8話 アラタ、図書館へ行く

 アラタが図書館に着いたのは夕方の六時だった。

図書館は七時に閉まるのであまり時間がない。

 いくらスキル【読書】が使えるとはいえ、一ページづつ目を通さないとステータス画面の【書籍】に入らない。


「そう考えると意外に読めないかもな」


 読書に没頭しているとあっという間に七時になってしまった。

 コツコツと足音が聞こえた。閉館なので人がいないか図書館の係員が見て回っているのだろう。


 もう終わりか……。


 そう思っているとステータス画面に変化があった。


【隠密】スキル取得可能。


 これで係員をやり過ごせという事だろうか?

 取得して、レベル10まで上げる。

 とりあえず、本棚の後ろに身を隠し息を潜めていると、係員が一通り室内を見て回るので、こそこそと見つからない様に逃げ回る。


「あれ? 誰もいない。一人いたと思ったんだが」


 と独り言を言って去っていった。

 しばらくして奥の方で鍵を閉める音が聞こえた。

 スキル【隠密】が発動したのかどうかは分からないが、上手く撒いたようだった。


 だが、困った事に図書館内の照明も消されてしまった。

 外は既に日が落ちて窓から入る光も僅かばかりだ。

 日本のように街灯もない。

 照明は魔石によって作られているのだが、窓から外に光が漏れて館内に人がいるのがバレてしまうので、付ける訳にもいかなかった。


 だが、ステータス画面にスキル【暗視】取得可能の文字を見つける。

 暗い中で本が読めるのだろうか?

 10レベルにしたところ文字がギリギリ読めた。だが全くの暗闇では一切読むことが叶わなかった。

 月明かりでもいいので、僅かな光源が必要なので、暗い室内で少しでも明るい場所を探して読んだ。

 本来は暗闇で戦闘を行ったり、移動したりする程度のスキルなのだろう。

 その為か、速読のペースが落ちた。

 暗い部屋の中で、黙々と読書にはげむ。

 しかし、暗い中で本を読むなんて目が悪くなったりしないだろうか?

 スキル関係の本を読んでも、スキルの種類に関しては余り網羅されていない。

 というのもスキルを取得した人がそれについて公言する事が稀だからだ。

 スキルの本を十冊程度読んだのだが、【隠密】については一行、「暗殺者が持つスキル」の一文だし、【暗視】【読書】については今の所、一行の記述も発見できていない。

 ただ、【剣士】【料理】はメジャーなスキルらしく色々と書いてあった。

 国立の図書館だけあって大量の蔵書があるのだが、ここから必要な情報を探すのは大変だ。

 地道にやるしかなかった。

 九時まで読書をして、裏口のドアから出ていった。


◆◆◆


 他のパーティーメンバーは酒場で親睦会をしていた。

 親睦会といっても勇者チームで酒が飲めるのはアツシと琴子だけである。

 冒険者のガイルとルスド、コモランと五人で盛り上がっている。

 琴子は誰とでも仲良くなれるタイプなので、ムードメーカーになっていた。


 テーブルの席はお酒を飲む人と飲まない人で別れた。

 別のテーブルではクロエ、スズ、タカヒト、ミク、向かいにヒナコ、トウカ、ツバサ、リーナの順に座っていた。

 クロエはお酒は飲めないと言う。

 タカヒトはちゃっかりスズの横に座っていた。


「スズ、今日は自然の中に入っていったけど、虫とか大丈夫だった?」


 タカヒトがスズの生足を見て言う。

 タカヒトの眼鏡が光っていた。


「あぁ、これ? スカートの裏に虫避けの魔石が縫い込まれてるから、大丈夫」


 さすがにスズは昼間の様にスカートの裏は見せなかった。

 代わりに


「タカヒト、これよこれ」

 ミクがスカートを捲し上げて見せた。

 太い太ももとパンティーまで見える程スカートを上げてきた。


「見せなくていい!見せなくて!」

 タカヒトは叫んだ。


「あら、いいじゃない。じゃあ、あんたのも見せなさいよ」

 といって、ズボンのベルトに手をかける。


「止めろ!」

 ズボンの裾を必死に持って抵抗する。

 勢い余ってそのまま二人とも床に倒れこんでしまった。


「ツ、ツバサ! 助けてくれ!」


「あぁーあー、何やってんだか。なぁ、ヒナコ」

 ツバサはヒナコに声をかけた。


「ん? あ、ゴメン。聞いてなかった」


 ヒナコはクロエと話込んでいた。

 ツバサは自分に対するその扱いに少々驚いた。ほとんどの女は自分に注目しているものだからだ。

 その証拠にトウカと今日会ったばかりの魔法使いのリーナがツバサと積極的にコミュニケーションをはかろうとしていた。

 まぁ、何かの間違いだろう、と思い直したツバサは、トウカとリーナの相手をした。


 後ろではミクがタカヒトを半ケツ状態にしていた。


「何で今日の採取結果にあれだけ開きがあったのかな?」


 ふと、トウカが疑問をもった。

「あー、あれはアラタが……」


 ヒナコがそれに答えようとした所、


「そりゃあ、もちろんクロエと一緒に採取したからって事だろ?」


 ツバサの声にその意見が掻き消えてしまった。誰もがまさかアラタの適切なアドバイスのせいだとは思わなかったのだろう。

 そのまま、話が流れてしまったので、ヒナコも敢えてわざわざ訂正する事もなかった。

 スズとクロエがいたら訂正されたかもしれないが、その時お手洗いに行っていなかった。


◆◆◆


 宿舎に帰ったアラタはお腹がすいたので、住み込みの使用人用のキッチンに向かった。

 誰もいないので、一人分の料理を始めた。

 ご飯を炊いて、野菜スープと、冷蔵庫に入っていた何か分からない肉を焼いた。

 調理師のマーサからは冷蔵庫の中も勝手に使っていいと言われていた。

 勇者の生活費全般の費用は国からの補助金が降りるので、問題ないらしい。


「もしかしてアラタさんですか?」


 調理している所、声をかけられた。

 見ると眼鏡をかけたおじさんが魚と酒瓶を持って立っていた。


「昼間は義母と娘がお世話になったそうで」


 どうやらマーサの旦那のようであった。

 名前をカイルという。マーサと夫婦共々、宿舎の使用人として働いているらしい。


「これ、朝市で仕入れたのですが、よろしかったら。」

 食堂で余ったという魚をくれた。


 朝市。ここでは常設的に毎朝、開催しているらしい。


「朝六時から八時までそこの大通りでやってますよ。昔、召喚された勇者が日本食を伝えてくれたので、味噌とか醤油も売ってますよ」


 それは興味深いと思いアラタは近々行く事にした。


「それとこれ、よかったら一緒に飲みませんか?」


 カイルが酒瓶を揺らす。


「いいですね、ぜひ」

 異世界の酒も興味を引いた。


 ついでもらった酒は少し濁っていて飲んでみるとアルコール度数が高いものと思われた。


「やべ、カーっときたー!」


「はは!アラタさんには少し早かったかな?」


 と言ったカイルは水を飲むように、その酒を飲んでいた。

 確かにカイルの言う通りだ。酒の味などよく分かっていなかった。明日もあるので無茶な飲み方も出来ないので、チビチビと飲んだ。

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