第7話 アラタ、美女に囲まれる
心を閉ざさねば、痛みが増していくだけ。
アラタが、沈んだ目になっていると
「──……は、どうですか? 私は好きなんですが」
クロエに話かけられた。
クロエは軽量なプレートメイルを装備している。髪はアップして編み込んでいた。
クロエの美しい横顔が際立つ。
「髪型? いい感じじゃないか? クロエは元々整った顔してるからな」
ボンっと音がするように真っ赤になって、
「い、いえ?! 私の事じゃなく、この自然の景色の事なんですが」
「そうか、ゴメン。最初の方聞いてなかったから」
琴子がよく髪型を変えて感想を求めてきてたから、そうだと思ったのだ。
「私は別に……嬉しいというか……ゴニョゴニョ……」
クロエがゴニョゴニョ言っていた。
確かに景色は美しく、都会に住んでいたアラタは心が癒された。
クロエが話しかけてくれたおかげで琴子の事から気が逸れた。
案内された場所はちょっとした斜面で、薬草採取に適した場所らしい。
クロエが、草を一つ手に取り皆に見せる。
「これが薬草です」
おおーっ! と皆からなぜか歓声があがる。
採取依頼に失敗も何もない。ギルドで買い取りをしてくれるので採取する量が少なければ報酬が減るだけの事だ。
質や量などが買い取り額に関係するので、いい薬草を持っていけば買い取り額が増える。
冒険者はこの手のチマチマした仕事を嫌うので人気がなく、薬草が不足しているので薬草採取の依頼は年中問わずされていた。
アラタはステータス画面に薬草の図鑑を開いて見て回った。
薬草と一口に言っても種類が沢山あるのだ。
その中でも価値の高い物を順に選んで採取していく。
皆から離れて黙々と作業する。
没頭する事が出来た。
「アラタ、どうですか?」
クロエとスズがアラタの隣にしゃがみこんで来た。
両隣に挟まれて、ドキリとしたアラタだが、
採取した薬草類を見せた。
クロエも薬草の細かい種類までは把握していなく、アラタの薬草類を見てもピンと来ていなかった。
アラタはスズの採取した薬草を見せてもらい、
「これはいい。これは価値がない」
と選別していく。
「アラタって詳しいの?」
「少しだけ」
「へえ」
そう言った彼女の笑顔にみとれる。
ふと、足元を見るとスカートの下は生足だった。
「足は虫に刺されたりしないのか?」
「これ?スカートの裏に虫避けの魔石が縫い込まれてるから大丈夫」
スズはスカートをペロリとめくって見せた。
──?! 天然か?こいつ!
スズの太ももがあらわになる。アラタは魔石など見ていなかった。白くプルンとした太ももに視線がロックオンである。
「アラタ、どこ見てるの?」
クロエがジト目でアラタを見ていた。
真剣な表情で太ももを見ていたらしい。
「え?太ももだけど?」
アラタも開き直って、それが何か? という感じで返事した。
「アラタってエッチなの?」
スズは男性のスケベな視線に嫌悪感を感じないのかサラっと聞いてきた。
「そうかも」
男は皆そうだと思う。
「そうなんだ」
なんだ、この会話? アラタはスズを計りかねた。
──「あ、いたいた、スズ」
見ると斜面の上方向に横峯ヒナコが立っていた。
アーモンド型の目にふっくらとした唇。長い黒髪がさらさらと風に揺れている。
スタイルは抜群で長い足がスカートから覗いていた。
おそらく産まれた時から、可愛いと言われ続けてきたのだろう。
「へぇ」
ヒナコはスズの横にいるアラタを見ると意味深な目線を送る。
「アラタが野草に詳しいから、見てもらってたの」
「やるじゃない」
そう言うとヒナコはアラタの前にしゃがんだ。
「私のも見てよ」
斜面なのでアラタが少しヒナコの顔を見上げる感じになった。
薬草の入った袋を地面に置いてアラタに見せようとするので、目線を落とすと足の隙間から、白い何かが!
──あれはまさかパンティー?!……
真剣に両足の脛の隙間を見ていると
「ち、ちょっと、どこ見てんのよ!? 薬草を見てって言ってんのよ! 薬草!」
足をくねっと交差させて、スカートを手で押さえる。
「あぁゴメン。あまりに無防備だったから」
「アラタはエッチなの」
スズは何のフォローにもならない台詞をはいた。
クロエがゴミでも見るような目でアラタを見ていた。
「バッカじゃないの?! 変態!」
ヒナコは鼻息荒く怒っていたが、それでもアラタが薬草に対して適切なアドバイスをくれるので、ギャーギャーとやかましくしつつ四人で採取した。
その頃、武内ツバサと設楽タカヒトは、東ミクと猪熊トウカと薬草採取をしていた。
だが、ツバサとタカヒトはアラタのグループが気になって仕方なかった。
琴子とアツシは二人仲良く薬草採取をしている。だが、薬草の知識が全くないのだから草を適当に摘んでいた。
新規加入の冒険者は、周囲の警戒をしていた。
魔物に遭遇する事はなかった。
冒険者ギルドで集めた薬草を換金してもらう。
アラタは百リギル(リギルはこの国の貨幣の単位)
スズは八十リギル。
ヒナコは六十リギル。
クロエは九十リギルで、自分でも驚いていた。
後のメンバーは五リギルとかそんな感じだった。
リギルの価値は一回の食費が三リギルから十五リギル程度と考えればいい。
一般的な数字であるから、当然もっとお金のかかる食事もあるわけで一概には言えない。
この稼ぎだと、命懸けで魔物と戦わなくても、生活出来るのではないか?
なぜ皆この依頼をやらないのか。
アラタは不思議でならなかった。
その後、新規加入メンバーとの親睦会をする事になった。
アラタはそれを断った。
去っていくアラタを見て、ツバサは
「チームがまとまらないな」
と愚痴をこぼした。
だが、ほとんどの者はアラタを気になどしていない。
スズがアラタの後ろ姿を見ていた。
ヒナコがそれを見て、スズに小声で
「何? アラタの事、気になってんの?」
「うーん、分かんない」
踵を返し、皆の下へと歩き出す。
分からないのは、アラタがどんな人か分からないと言う意味か、それともスズ自身の気持ちの事か?
「疎いんだか、何なんだか」
ヒナコはスズの後を追いかけた。
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