第6話 アラタ、薬草を採りに行く
ギルドカードについて説明しておきたい。
この世界で最も簡単に申請し発行出来るのがギルドカードである。
持っていれば、とりあえず身分は保証される。といってもアルフスナーダ国内での話で、他所の国では通用しない。
他国では、その国公認のギルドカードを作らねばならない。
レベルやギルドランクは世界共通らしいので、カードも共通にして欲しい所だ。
またキャッシュカードとしても使える。
ギルドの依頼の報酬はカードにチャージされる。支払い方法は、カードリーダーに通し、さらに自分の魔力をカードリーダーに付いてある魔石に通す事で、本人確認が出来る。
この世界の人間は魔法が使えても使えなくても、魔力を持っている。
魔力は人によって違いがあるので、本人確認に使えるというのだ。
指紋ならぬ魔紋である。
もちろん現金化も出来る。
インターネットでも通っているのだろうか?
だが、その辺の技術情報は冒険者ギルドの機密になっていた。
ちなみに冒険者ギルドの仕事を一度はこなさないと身分証としての効力を発揮しない。
受ける依頼の難易度は別としてギルドの仕事を引き受ける程度の力はあります。というのが最低限の身分保証になるためだ。
だから、クロエが選んだ簡単だという依頼を受ける事になった。
野草の採取クエストである。
主に薬草や毒消し草といったRPGではお馴染みのアイテムを採取するのだ。
国からレザーアーマーとブロードソードが貸出された。女性はレイピアという細身の剣である。男共はテンションが上がって、何度も鞘から剣を抜き差ししていた。
年季の入ったレザーアーマーを装着してアラタはクロエに尋ねた。
「これは前回の勇者も使ったのか?」
「ええ、そうよ」
「彼らはどうなった?」
「……資料によると全滅したそうよ」
とたんに、皆のテンションが下がった。
◆◆◆
昼休憩の時間になった。
アラタは一度宿舎に戻った。
皆は町に出て外食である。アラタも誘われたが断った。
食堂は騎士の人々がいて、混雑していた。
調理師のおばちゃんにキッチンを貸して欲しいと言ったが、今は忙しくダメらしい。
代わりに住み込みの使用人が使うキッチンがあるので、そこならいつでも使っていいと言われた。
そこは質素なキッチンで手狭ではあったが、きちんと掃除が行き届いていた。
先客がいた。
老婆と、女の子がダイニングテーブルの椅子に腰かけて飲み物を飲んでいた。
先ほどの調理師のおばちゃんの子供と母親だという。
「お嬢ちゃん、お名前は何ていうの?」
アラタは女の子に目線を合わせて聞いた。
「……ルチア……」
女の子は恥ずかしいのか声が小さい。
「ルチアは何歳かな?」
「ん、五歳……」
「そうか、えらいねぇ」
と言って頭を撫でる。孤児院にいた頃を思い出した。
アラタに親はいない。孤児院ではアラタと同じような両親のいない子供達もいて、年上のアラタが度々面倒をみたりしていたのだ。
高校を卒業し町工場に就職して、ある程度の貯金が出来てからアパートを借りた。
孤児院を出ていく日は子供達に泣かれて困ってしまった。
「お二人は食事はされましたか?」
「いや、まだじゃ。マーサが仕事中だからな。この婆は料理が苦手でな。娘が戻るまで待っておるのじゃ」
老婆が答えた。マーサとは調理師のおばちゃんの名前なんだろう。
「良ければ、ご一緒しませんか? ここで食事の準備をする予定でしたので。マーサさんにはキッチンを使っていいと許可をもらってます」
「いいのかい?」
「ええ、もちろんです」
スキルの練度を上げたかったのもあるが、アラタの中にある孤独感が、他人との会話を求めていた。
ホットケーキを作った。
ルチアはもぐもぐと食べている。
気に入ってくれたようだ。
「すると、アラタさんは勇者なんかい?」
「ええ、そうらしいです。実感はありませんが」
老婆はイザベラという名でかつて冒険者をしていたそうで、現役の頃に勇者に会った事があるそうだ。
「彼らはどんな感じでした?」
「うーん、何と言うか普通の人って感じで。今のアラタさんと同じで、とても強そうには見えんかったなぁ」
アラタは苦笑いするしかなかった。
◆◆◆
昼食を済ませ冒険者ギルドに戻ると、既に全員が外で待機していた。
そして見知らぬ者達もいた。
いかにも冒険者といった者達だ。
重戦士のガイルと名乗った壮年の男。
両刃のグレートアックスと全身鎧のプレートメイルを装備している。
魔法使いのリーナは眼鏡をかけた女性。
こちらは若いが愛想はない。ローブを身に纏っている。武器は
盗賊のルスド。盗賊のイメージ通り抜け目のなさそうな男に見える。
動きやすそうな服装である。
レザーアーマーを身につけていて、腰回りに盗賊が使う道具が入ったポーチを付けている。
治癒士のコモランはメイスを持っている。
治癒士というと、教会の牧師を思い浮かべるが、見た目は戦士である。
魔王討伐の際に彼らが護衛に付くという。
今日はお目通りも兼ねて、召集された。
立派な門をくぐって外に出ると、自然が広がっていた。
魔物が出そうなものだが、王都の回りには結界石という魔石が設置されていて、あまり出現しないらしい。
といっても万能ではなく、時々この結界を潜って魔物が出る事もある。
効果範囲もあるので、王都から離れるほど魔物の出現率は高くなる。
野草の採取も必ずしも安全とは言い切れないのだ。
重戦士ガイルと盗賊のルスドが先頭を歩く。その後ろを勇者チーム。
魔法使いのリーナと治癒士のコモランがその後ろ。
アラタは一番後ろでクロエと歩いていた。
アラタも勇者チームなのであるが、全く協調性がなかった。
なるべく琴子とアツシから離れたかったのだ。
それでも彼らの姿は目に入った。
意識せざるを得なかった。
琴子とアツシが並んで、話をしている。
琴子はアツシを見ていて、笑顔だった。
かつてはその笑顔を自分に向けていた。
本当は見たくなかった光景だが、どうしても目が離せなかった。
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