第5話 アラタ、スズと交流する
黄金の光に包まれていた。
これはあの時の記憶だろうか。
琴子を失って強い喪失感のあったアラタは多少の驚きはあったが、何もかもが、どうでもよくなっていた。
その光が強くなり、真っ白な世界になったかと思うと、闇の中を漂っていた。
そこに我先にと、何かが自分の中に入り込んできた。
「我を選べ」
「いや、我を選べ」
「いやいや、我を選べ」
いやいやいや……いやいやいや……──
あらゆる何かがアラタに語りかける。
「我を選べば、あらゆる物を燃やし尽くす力を手に出来るぞ」
「我を選べば、あらゆる神性の力を手に出来るぞ」
「我を選べば、あらゆる物を闇の中に」
「我を選べば、大地の御業を」
「我を選べば、大気の力を」
「我を選べば、水の恵みを」
あらゆるそれらが、俺に売り込みをかけてくる。
正直どうでもよかった。
「お前らで決めろよ。俺はどーでもいい」
それらはお互いに会議を始めるが。
一向にまとまらない。
それぞれが主張していた。
「一時保留としよう」
「そうだな」
「我らの力を、それぞれ体験して」
「決めてくれ」
レベル20になるまでに──
「なぜ?」
それは……──
◆◆◆
ピピピ、ピピピ!、ピピピ!!
携帯のアラームが鳴る。仕事に行く時間だ。
今日も町工場できつい労働が待っている。
だが、目を開けてみると、そこは見慣れない天井。
「そうか、異世界にきたんだった……」
そんな台詞がついてくる。携帯の充電は切れそうだ。電気のないここでは充電出来ないし、そもそもネットがないので使えない。
不要といえば不要な物だ。
ふと琴子の事を思った。なんの感情もない冷めた目で自分を見ていた。
何が悪かったのか。
多分、全てなんだろう。
気だるい体を起こして、部屋を出た。
◆◆◆
早く起きすぎたせいなのか食堂には誰も居なかった。
腹が減っていたので、昨日作ったオムライスをもう一度作る事にした。
準備していると、
「おはようございます」
勇者メンバーの女子高生だ。
「おはよう、えっと、確か……」
「宮森スズです。アラタさん」
「そうだった」
宮森スズは美少女と言っていい。きりっとした瞳と眉。鼻筋は通っていて、凛として品がある。髪はさらさらとしていて肩口で切り揃えられていた。それでいて幼い印象もある。
肌は白くてシミひとつない。
「料理されるんですか?」
「うん。スズさん、敬語は必要ないよ」
「あ、はい。私もさん付けは必要ないです。実は昨日アラタさんが居ないときに、皆の名前を呼び捨てにしようって決めたんです」
「そうなんだ。じゃあスズって事で」
「はい。私もアラタって事で」
人見知りしないタイプのようだ。
「スズも食べる?オムライスなんだが」
「いいの?」
「二人分位なら手間は変わらないし、スズの前で一人食べるのも忍びないだろ?」
その絵を想像したら気まずい。
完成したオムライスを二人で向かい合って食べた。フルーツジュースも添えた。
「すごく美味しい!」
スズは感動していた。確かに昨日より旨かった。卵がふわふわとしていて、絶妙だった。
昨日より旨く出来ていたという事はスキルの練度が関係しているのか。
スキルを取っただけではダメだと本に書いてあった。
使い続ければ練度は上がるし、使わなければ下がっていく。スキルレベルがカンストしていてもダメらしい。
確かに料理のスキルレベルが、カンストしているからといって、作った事のないレシピが頭に降ってわいてくる事もなかった。
という事は知識や研鑽は必要なのだろう。
スズは、パクパクとよく食べる感じがするので、アラタは彼女に好感を持った。食べる事が好きな女はアラタの好みだ。ましてや可愛い。彼女に嫌な思いを持つ男も少ないだろう。
「スズは属性はなんだ?」
「光です。パーティーの中では後衛になるってクロエさんに説明されました」
光属性は攻撃よりは、治癒や浄化に特化していた。
「アラタは?」
「ひ、光!」
「あ、一緒」
アラタはとっさに嘘を言ってしまった。全ての属性持ちだと言うのは憚れたからだ。
いつかバレてしまうかもしれないが、だから何だと言うのだろうとも思う。
「一緒だな」
開き直ったからか動揺する事なく普通に答える事ができた。
基本的な勇者の訓練スケジュールは十時に食堂に集合し二時間の訓練。昼から一時間の休憩。そこから四時間の訓練。後は各個人で自由に、という事だ。
今日は冒険者ギルドに行くと聞いていた。
冒険者ギルドとは、冒険者にモンスターの討伐依頼や、薬草などの採取依頼などをして、町の生活を円滑にする組合である。
◆◆◆
「皆さんにはここで、ギルドカードを発行していただきます」
冒険者ギルドに着くとクロエはそう説明した。
ギルドカードとは冒険者が発行出来る身分証である。
可愛らしい受付嬢から用紙を貰う。
名前とレベル。ギルドランク。
後は自己申告制でアピールポイントを書く。
採血され血を一滴ギルドカードに落とすとカードが蒼白く光る。これで本人以外は使用出来なくなるらしい。
アラタ レベル1 ギルドランクF
光属性 剣士
嘘を指摘されるような事はなかった。
嘘発見機みたいな設備やスキルを鑑定出来るような人材はいないらしい。
虚偽申告も全て自己責任といった感じだ。
「アラタ、レベル上げてないんですか?」
クロエが発行されたギルドカードを見てそう言った。
「どういうわけか経験値があまりないんだ」
嘘をついてみた。
「そうなの?」
特に何も言われる事はなかったが、クロエは首をかしげていた。
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