第4話 アラタ、料理をする
食堂のキッチンで調理をする事にした。
調理士のおばちゃんがいたのだが、快く貸してくれた。
「勇者も料理するんだねぇ」
意外そうである。
他の勇者達は、いなくなった。全員町に出て食べに行くそうだ。異世界の町を堪能したいのだろう。
アラタも誘われたが断った。
琴子が喫茶店の前で「もう会うこともない」と言われたので、頑なになっているようだった。
クロエは料理するアラタの横に立って見ている。
普段着のラフな格好になっていた。
クロエと目が合った。健康的でさらさらの金髪。鍛え上げられた手足がスラッとのびて、驚く程の美人だ。
自分が迫っていい女ではない。
クロエは少し微笑を浮かべた。アラタは恥ずかしく目線を外した。
冷蔵庫を開けた。どういう原理なのか聞いたら冷却する力を持った魔石を埋め込んでいるそうだ。
異世界だからなのか見た事のない食材が多かった。
だが、料理の本も読んでいたので、大体把握出来た。
ステータス画面に『アルフスナーダの郷土料理』の本を開いていた。
カンニングだが、他人からは見えない。
料理スキルのレベルMaxがどういうものか試してみたかったのだ。
自分の舌に自信はないので、クロエも誘ったのだが。
「何を作ってくれるの?」
実はそわそわしているクロエだ。男性と付き合った経験はなく、料理を振る舞ってくれた事もないのだ。
「こちらと元の世界で、同じメニューがあった。オムライス」
使う食材はビミョーに違うがほぼ一緒。
「後は野菜煮込みのトマトスープだな。デザートはヨーグルトで」
手際良く材料を刻んで、調理を開始した。
「わぁ、スゴい!」
テーブルに並んだ料理を見てクロエが感嘆の声をあげた。
「さ、食べよう」
「はい。いただきます」
食べてみたが、味は普通だった。レシピ通りに作ったからそうなのだろうか。
自炊していたからなのか、スキルなのか、調理はすんなり出来た。
「美味しい」
クロエは喜んでいる。
「それは良かった」
クロエの機嫌も治っているようにみえた。
◆◆◆
デザートを食べ、食後にお茶を二人で飲む。
「はぁ、至福の時間……」
クロエは満足しているようだ。
「本を読んで知ったんだが、勇者の召喚は十二年の周期で行われているんだな」
クロエの手が止まる。
「そうです」
「それがこの国とあと二つの国で順番に行われて、結果的に四年に一度、勇者が召喚されているという事だな。だが、あまり結果が出ていないようだが」
実際に魔王を退治した記述があったのは二百年も前の話だ。
「そんな事はないと思います。それぞれの国で攻略法を見出だしてそれを実践しているので少しづつではありますが先に進んでいます」
「アルフスナーダ国の攻略法とは?」
「勇者とはいえ、素人です。魔の国にたどり着くのは容易ではないといえます。だから、勇者には熟練の冒険者を付けて連れて行く手筈になっています。」
「成る程、護衛か」
「その代わり勇者には、私達では実現出来ない火力を補ってもらうのです」
◆◆◆
月が出ていた。
大きな月と、小さな月が二つ。
それだけでここが異世界だと実感した。
宮森スズは宿舎のテラスからそれを見ていた。
「ホントに異世界だね」
横峯ヒナコはスズに声をかけた。
二人して月明かりに照らされている姿は、可愛らしくもあり、美しくもあり絵になった。
「お父さんとお母さんは心配してるかな?」
「だろうね。でも、ま。仕方ないわ。それにスズは良かったじゃない」
「何が?」
「タカヒトがいて」
ヒナコは含みのある笑顔を向ける。
「タカヒト?家どおしは昔から仲はいいけど、別にただの幼なじみよ」
あっけらかんとスズは言った。
(全く何とも思ってないみたいね。タカヒトも可哀想に)
ヒナコは思ったが口にしなかった。
華道の家元の娘であるスズの実家と、代議士の息子であるタカヒトの実家は付き合いがある。
「なーに? 恋ばな?」
猪熊トウカと
「そんなんじゃないけど……」
スズはその手の話にかなり疎い。
「タカヒトに興味ないなら、私いただこうかしら」
どこかで手にいれたらしい肉をムシャムシャ頬張りながらミクが言った。油が付いた唇がテカテカしていた。肉食系女子である。
「タカヒト彼女欲しいっていってたから喜ぶかも」
スズがタカヒト情報を教える。
(それは遠回しにあんたを彼女にしたいって言ってんじゃ)
ヒナコは思ったが口にしなかった。タカヒトとヒナコの恋模様に興味があったわけではないからだ。
「ヒナコはどうなの?やっぱりツバサ?」
トウカがオドオドした上目遣いで聞いてきた。
「いや、全然。確かに現場では良く会うけど、仕事仲間って感じね」
芸能界では人気が出て来た二人なので、バラエティーやドラマで共演する事も少なからずあった。
ツバサはイケメンで現場のモデルや女優も狙っているとの噂もあった。
またツバサもそれなりに女遊びをしていた。
確かに姿格好はいい。
だが、ヒナコは容姿は親から与えられるもので、そこに価値を感じなかった。まぁ、そのお陰で芸能界に入れたのだが。
(外見も大事だけど中身よね)
「トウカはツバサ好きなんでしょ。頑張んなよ」
ヒナコはさらりと言った。
「え?!」
「あんた隠してるつもりでしょうけど駄々漏れよ」
ミクも勘づいていた。
「ええーー?!」
トウカの絶叫がこだました。
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