第3話 アラタ、勇者メンバーを把握する

 ステータス画面はオープンしたままでも良さそうだった。画面を小さくしたり大きくしたり出来るからだ。


「いちいちステータスオープンとか唱えるの恥ずかしいからな……」


 それに開いていれば、新しいスキルの獲得など変化があればすぐ気付く。視界右下の端に小さくして見えるようにしておく。

 ちょっと気になるが、慣れていけばいいかと思う。


 読書スキルにより大量の書籍がストックされた。【読書】スキルはかなり便利で、知識が深まった。もちろんアラタの頭程度の記憶力の範囲ではあるが。そしていつの間にか日が落ちていた。


「アラタ、迎えに来ました」

 クロエだった。わざわざ騎士団長が来た。


「聖堂になかなか戻らないので」


「本に夢中になってた」

 戻りたくなかった。ただの言い訳である。


「アラタ、失礼だけど事情は聞いたわ」


「……」


「でもここはどうか私情を捨てて、私達に協力して欲しいの」

 クロエが頭を下げる。アラタは複雑な心境であった。


「事情を聞いたって、あそこにいた奴全員か?」


「はい。琴子さんから聞きました。私が別れを切り出したから、アラタは自分と一緒なのは嫌がるだろうと」


 気まずいな! 琴子バカなのか?


「召喚したのはそっちの勝手だろ?俺の都合はどうなる。それにこちらの世界など、今のところ俺には何の愛着もないしな」


 ホントにどうでもいい。


「確かにアラタには思い入れのない世界だわ。言ってる事は間違ってない。だけど……」


「クロエ。俺はついさっき失恋したばかりなんだ。そんな中、突然勇者だ何だと言われても。甘えかもしれないが、やる気が全くでない。……だが戻ってやってもいい」


「そ、そうですか!感謝しま……!?」


 アラタはクロエの手を掴んで引き寄せる。


「クロエが俺の彼女になるというのはどうだろう?失恋を忘れさせてくれるのは新しい恋だろ?」


 クロエの顎をくいっと持ち上げる。そして唇を近づけていく。

 完全にイケメンがやるような行動ではあった。そしてアラタはイケメンではない。

 中の下といった男だ。

 とんっとクロエに押されて、二人は離れた。


「ひ、ひどいですよ。アラタは!」

 涙目でクロエが訴える。


「分かったよ。行くよ。騎士団長になる程なんだから男の経験位あるだろうに」


 ちょっとやり過ぎたかと思うが、罪悪感はあまりなかった。自分の都合を押し付けてるのはこいつらの方なのだ。

 ドアに手をかけて出ていく。クロエはうつむいていた。


「経験なんてない……」

 その声はアラタには聞こえてなかった。


 アラタは琴子に振られて情緒不安定になっていた。女に対しては奥手ではある。

 だが、やりたくもない事を押し付けられて苛立っていたのも、また事実である。


 ◆◆◆


 連れていかれた場所は騎士団の宿舎であった。

 通された食堂に召喚された皆がいた。

 アラタと琴子の事情を知らされたからか、特に非難される事もなかった。

 が、好奇な目で見られている気がした。


 自己紹介をする事になった。


「西山アラタ、二十歳です。工場勤務です」

 小さな下請けの町工場で、給料も安い。アパートで一人暮らしをしていた。両親はいない。アパートに住むまでは、施設で育った。


「私の名前は安藤琴子です。二十歳の大学生です」


 アラタとは高校の同級生でその時からの付き合いだ。

 可愛らしく、人懐っこい性格のため、男子にモテていた。


「田中アツシです。二十四歳です。父親がやってる運送業を手伝っています」


 琴子の新しい彼氏である。ゆくゆくは跡を次いで社長になるのだろう。

 琴子はようは将来性のある男に乗り換えたという事である。

 本当によくある話だ。


 次に高校生だ。

 全員、高校三年生で受験も終わり、後は卒業を待つだけであった。

 武内ツバサはイケメンでタレントもしている。

 横峯ヒナコもタレント兼女優。かなりの美少女だ。

 二人ともテレビで見た事のある顔だった。

 アラタは仕事にブラック気味の町工場で働いていたので、仕事に追われてあまりテレビを見ていなかった。

 琴子やアツシの反応を見る限りそこそこ有名人なのだろう。


 宮森スズは、大人しい雰囲気のするこちらも美少女。芸能人ではないが、ヒナコに匹敵するほどの容姿だ。


 猪熊トウカは学級委員長で、ハキハキとしたオサゲ女子。背が低めでピクシーと言った印象だ。生徒会もやっていていかにも真面目な女子だ。


 設楽タカヒトは眼鏡男子。こちらは生徒会長をしている。父は議員をしていて、こちらも真面目男子といった印象だ。


 あずまミクは太っていて力士の誰かに似ていた。

 ちなみに女である。


「皆さんには一ヶ月の訓練期間を設けて、それから魔王退治の旅に出てもらいます。」


 すっかり気を取り直したクロエが言った。

「短いな」

 アラタが口を挟む。


「基本さえ覚えれば、あとは実践しながら成長すればいいかと」


「そうなのか?」


「そうです」

 確かに仕事はそうやって覚えるが、命のやり取りをするのだから、しっかり訓練した方がいいのではと思う。

 だが、議論する必要はなかった。

 だから黙りこんだ。


「まぁ、とにかく一ヶ月訓練すればいーんだろ? とにかく頑張ろうぜ」

 イケメン高校生のツバサが主人公然とした感じで意見した。

 本人も自覚してるんだろう。

 いかにも自分を中心に世界が回っていると思っている男にみえた。


「明日は冒険者ギルドに行って身分証を発行します。食事はここで済ませてもいいですし、町に出てもいいです。その場合は言ってくれれば予算が出ます。」


 寝る部屋も個室が用意された。今日は初日という事で、解散となった。


 アラタはクロエに声をかけた。


「クロエ、食事は自分で作ってもいいか?」


「いいですが、料理出来るのですか?」


「自炊の経験はある。先ほどの埋め合わせという訳ではないが付き合ってくれないか?」


「あ、はい」

 クロエの頬に赤みが射していたのは、図書館での事を思い出したからか。

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