29-4

「兄貴どうすんの?」

 玄樹が俺の部屋に入ってきてそう聞いた。

 俺が選手権まで残るのかどうか、ということだろう。

「……」

 どうするかな。

 本当なら辞めようと思っていた。

 高総体はどうせ使われないだろうな、と諦め半分の気持ちでいたから。

 でも使ってもらった。

 俺自身、自分の力量ぐらい理解している。

 吉田や園原のコンディションが良ければ、俺はメンバーにすら入れてないかもしれない。

 序列で言えば、俺がスタメンで出られるはずも無かった。

 だから、三年の高総体でスタメンで使ってもらって試合に出られた。それだけでも、俺にしてみれば、今まで続けてきたことが報われるぐらい嬉しい。

「兄貴、泣くなよ」

「……いや、別に……」

 それなのに、なんで負けてこんなにも悔しいんだろうか。

 無意識に泣くほど俺は悔しいのか!?

「……終わりだ」

「え?」

「俺はここで終わり」

 さらに涙が出るのは、本当は残りたいからなのかもしれない。

 でも、俺はこれ以上続けたとしても今回以上の頑張りはできない。

 限界はずっと前から見えていた。

 このチームに俺は相応しくないんだろうな。

 全国に行くとするなら、俺抜きの方が勝てるんだろうな。

 それでも、飛田も王様も他の奴らだって誰も何も文句は言ってこなかった。

 小林がレギュラーを掴んだ頃、俺はその頃もAとBを行き来していたと思う。

 たまたま、練習試合か何かで一緒に試合に出た。

 その試合でキーパーをしていた小林は、俺のミスのせいで失点してしまう。

『あの人は何が上手いんですか?』

 試合が終わった後に、当時の三年に小林がそう言っていたのが聞こえて、俺は逃げるようにそこから離れたことがある。

 そこから何ヶ月かは、俺が小林と一緒にプレーすることになると、嫌な顔をしていたのを覚えている。

 自分の力量は理解している。だからこそ、人より残って練習していた。

『……嶺井さん、まだやるんすか?』

 その声で振り返ると、小林が立っていた。

『今日、ランメニューで30キロ近く走ってますよ、もう足限界でしょ』

 その通りだ。もう、いつ攣ってもおかしくはない。

『でも、俺は上手くないからさ』

 そう返すと、小林は苦笑し俺も蹴ります、と言って二人で練習した記憶がある。

 そこから、小林の俺に態度が変わった。

 リスペクトみたいなのを感じられるようになった。

 他の奴らからも。

 そして、北河監督からはBチームにいる時はキャプテンをやってくれと言われた。

 そんなのが無ければ、途中で辞めてしまっていてもおかしくない。

 だから、続けてこられた。

 それだけで、三年かけた俺のサッカーは十分過ぎるだろ。

 そう思うしかない。

「玄樹、俺は辞める。お前も頑張れよ」

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