29-3

「ここまでか」

「そうだな、これから受験あるし」

「楽しかったな。最後出れなかったけど」

 試合が終わった後、三年だけでミーティングをした。

 高総体を最後に引退する者。

 冬の高校サッカー選手権大会まで残る者。

 それを決める大事なミーティングだ。

 三年生は今後の進路を左右する分岐点で、サッカーだけをずっとやっていけるわけにもいかない。

 故に去る者は引き止めることはできない。

「王様どうする?」

「俺は残る」

 飛田の質問に当然というように、腕を組んで頷く王様。

「榊兄弟は?」

 飛田が俺たちを交互に見た。

「俺は残るよ。兄貴は?」

 晃次が俺の方を見る。

「晃一は仮に間に合ったとして試合に出る程のクオリティーに戻るのか」

「分からない」

 正直なところ、俺自身分からない。

 もう少ししたら、走ったり足を使える運動をできるようになるだろう。

 でも、それは試合に使いものになるかどうかと言われると分からない。

「医者はなんだって?」

 早々に残る側で挙手した古橋が、俺の顔を覗き込むように見る。

「冬は間に合うよ。それは間違いない」

「だったら、残れよ晃一」

 そう言ってくれんのか。一度はチームを勝手に離れた奴に。

「俺が選手として残っていいのか」

「俺はお前が残る前提で残るんだ」

 王様がそう言って俺を見た。

「今回の試合で一年生を中盤で中心に使った。勿論、悪くは無かった。一年にしてはよくやってくれたと思う。だが、状況を打破できる創造性は生み出せなかった」

 瀬野も狗宮も香野にしても、どちらかといえば守備的な役割を得意とするプレーヤーだ。

 攻撃における違いを生み出すのは、少し難しかったというのは確かにそうかもしれない。

「新戸は?」

 俺の質問に新戸が口を開いた。

「悪いけど、俺は引退するよ。そうすると、小林は必然的にキーパーになるんじゃないかな」

「新戸やめるのか?」

「俺じゃ無理だと思う。俺で全国にいけるとは思えない。それに勉強だってあるし」

「新戸行きたい大学あるって言ってたよな」

 飛田の言葉に頷く。

「理系の少し難しいとこ目指してるんだ。サッカーも勉強も両立させてやってくのは難しい」

 そうなのか、新戸はいなくなるのか。

 試合が終わった後に、一番辛い表情をしていたのは新戸だ。

 本人の中で、もう引退するのは決まっていたんだろう。

「俺は勿論残る。やり残してることあるから」

 飛田は続ける。

「だが、次期キャプテンは決めておきたいと思う」

 俺はキャプテンは引退するよ、と飛田が静かな口調で言った。

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