29-2
「コバ」
「なに? ヤス」
「ラーメン食い行こ」
「……いいよ」
あんまり食べないようにしているラーメン。でも、今日ぐらい良いだろ許してほしい。
「なんにする?」
券売機の前でヤスが聞いてきた。
「豚骨醤油の大盛り」
「じゃあ、俺は味噌」
ヤスが財布から千円札を取り出し、券売機に投入すると自分の分の券を買う。
「俺の分は?」
「は? 自分で買えよ」
何言ってんのと言わんばかりの目で見られる。
「ヤスが誘ったじゃん」
「奢るとは言ってないし」
「……分かったよ」
俺は、渋々自分の財布を出して中からお札を取り出す。
味噌を押した後もヤスは券売機から離れない。
「チャーシュー丼も食べようかな」
「太るぞ」
「コバも大盛りって言ったじゃん」
「まぁな」
お互いに罵り合いながらも、それぞれ券を買うと席についた。
麺の硬さやら、味の濃さを店員に伝えるとグラスの水を一気に飲み干した。
「ヤス、水の入ったピッチャー持ってきて」
「……」
ヤスは何か言いたげな顔をしながらも、黙って席を立って近くに置いてあるピッチャーを取ってきた。
そして、席に座りながら言う。
「コバ、お前負けたら誰かに当たるのやめろよ」
いつもの悪い癖だぞ、とヤスが言ってくる。
「いつもは敗因になった奴に、詰めるように当たり散らかしてるけど、今回誰にも当たりようがないからって俺がとばっちり食らうのはあんまりだぜ」
「そうかもな」
冷静になろうと、グラスに入った氷を噛み砕きながら、ヤスの言葉に同意する。
「……瀬野は悪くなかっただろ」
「あぁ、あいつは悪くない」
むしろ、あそこまで読んで戻っていたことに驚いていた。
俺も柿さんが最後にパスを出すとは思わなかったから。
あの場面だったら普通、柿さんのシュートブロックに入るだろうに。
最終的にPKを取られたのは結果論だ。
瀬野は悪くない。
「俺たち全員が力不足だったんだ」
「そうかもな」
「こっから先どうやったら勝てんのかな」
走って、体を鍛えて、ずっと練習してきた。
できることはほとんどやってきたはずだ。
でも、ダメだった。
何が足りないのか。どうしたらいいのか。
分からない。
「俺たちにはあと一年あるだろ」
ラーメンが運ばれてきて、ヤスが味噌ラーメンを豪快に啜る。
レンゲでスープを味わった後にしれっと言った。
「今より上手くなればいいだけだろ」
簡単に言ってくれる。
「よく食って、練習して力をつければ次はもっと上に行けるだろ。今までだってそうやってきたんだから」
思ったよりも大盛りのチャーシュー丼に歓喜しながら、ヤスが呟いた。
「一年だって化けるだろ。俺はあいつらポテンシャル高いと思うぜ」
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