自覚すべきこと
29-1
「負けちったな」
「……なんだ、望月か」
「なんだじゃねぇだろ、慰めにきてやったのに」
「落ち込んでないから」
「ウソつけよ。顔に書いてあるぜ」
「……」
俺のせいで負けた。
あの18番のシュミレーションにまんまと引っかけられて。
「瀬野は負けたらボール蹴りにくるよな」
「そうか?」
「おう。中学の時もそうだったぜ」
なんでだろう。
まだやれたのに、やらなかったことに対しての後悔があるからか。
それとも、ボールを蹴ることで負けたことを忘れようとするためか。
バックスピンを掛けたボールが壁に当たって、正確に跳ね返ってくるのを見ながら考える。
「よっと」
望月がそのボールを横からかっさらい、少し強めのボールを壁に向かって蹴った。
「悔しくない?」
「オレが?」
跳ね返ったボールを胸トラップで器用にコントロールしながら望月がこっちを見た。
「オレはオレが出て負けた試合以外悔しくはないね」
でも、お前はそうもいかねぇな。と、笑いながら続ける。
「正直、あれはどうすることもできなかったでしょ。オレだったら、あの18番に追いついてさえいなかったと思う」
追いついてなかったら……もしかしたら、飛田さんがブロックしていたかも。もしかしたら、新戸さんが止めていたかも。
「でも、あれ追いつくのが瀬野だと思うよ。18番へのパスを読んでたんでしょ? 飛田さんが間に合うか分からなかったし、そうなったら新戸さんと一対一は確実だったもんな」
「どっちが良かったんだろうな。結果論になるけど」
「フォワードの勘だけど。あの状況でキーパーとの一対一は、まず外さない」
「ホントに?」
「あの手のタイプは特にそうだろ」
「そうかな」
「それに、新戸さんがPKを止めてくれる可能性もあったわけだし」
新戸さんには申しわけないと思う。
ほんの少し、新戸さんが触れたボールはそのままゴールの中へと入っていった。
新戸さんは試合が終った後も、タオルを頭に掛けたまま座りこんでしまっていた。
俺がかけれる言葉もなく、三年の高総体を一番悔しい形で終えてしまった。
ゴール直後の地面に叩きつけられた拳は、俺に向けられるものだったとしても文句は言えない。
「飛田さんが瀬野のせいじゃないって言ってたわ。小林さんも」
飛田さんは試合が終わった後すぐに話した。
肩を組まれて言われた言葉は、たしかに俺を責めるものではなかった。
「……え、小林さんも?」
「そうだ。なんなら褒めてたけどな。小林さんは」
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